14 冒険者のお仕事 前編
先週ついにギルドカードを受け取り、これで俺も冒険者になった。村には大した仕事はないが、小物モンスター退治をちょくちょくやって小金を貰っている。
「ようバズ」
依頼書を見ていた俺に声をかけたのはデイブさん。傷だらけの胸甲に飾りっけのない丸い兜、手には槍、腰には剣。この道20年のベテランだ。
「デイブさんもお仕事?」
「おう、目をつけている依頼があるんだが一人じゃ辛くてな」
「見せて」
デイブさんが持っていた依頼書は非常にシンプルな内容だ。
「奴隷商人の奪われた商品を取り戻して欲しいか」
「報酬はでかいぞ」
「二人で山分けしても、普段の依頼の百倍だね。危険は千倍かな」
「もう一人くらいは欲しいな」
「他にあてはある?」
「大棍棒のジョニーやクロスボウのトムはどうだろう」
ジョニーは村一番の力自慢の冒険者。トムは流れの冒険者で大きなクロスボウを抱えている冒険者だ。
「時間が経つと盗賊の後を追いにくくなるよ、今朝方のことみたいだし、今ならそう遠くにも行っていないはず」
「それもそうだな、魔導師バズが来てくれただけ良しとするか」
「依頼人は村長さんのところ?」
「ああ、詳しい話を聞きに行くとしよう」
この国や周辺諸国には奴隷が存在する。基本的にこの国の人間を奴隷にするのは禁止されている。他の国も同じような法律を制定している。つまり他国の人間であれば構わないということだ。奴隷は戦争で得られる重要な戦利品でもあった。
「俺はあんまり好きじゃないな」
「何だよ急に」
「別に……」
俺たちは依頼人の奴隷商人から話を聞いて、盗賊に襲われた場所へと向かっていた。
街道沿いの、大きな倒木が道の側にあるところだ。昔嵐で街道に倒れてきたあの木をどかすときに、50人の人間が必要だったという逸話から、「五十人街頭」と呼ばれている。もちろん、こんな田舎の道に街頭なんて呼び方は正しくないが、50人もの人々で賑わった当時の様子は、そう呼ぶにふさわしいものだったのだろう。
歩きながら俺のレミントンM1858ニューアーミーの安全装置代わりの空の弾倉に一発の弾を込める。
前から火薬を入れ、鉛球を込めて、そして銃口の下についたレバーでぐいっと押しこむ。
このレバーは、側面に曲げて持つことでサイドグリップにもなる。精密射撃をするときや、火薬を最大まで詰めたオーバーロード射撃をするときなどに使うこともあった。
その後でシリンダー後方のスロットに雷管を取り付ける。撃鉄がこの雷管を叩くことで、シリンダー内の火薬に点火されるというわけだ。
最後に、火の気からシリンダーを守るグリスを前面に塗る。金属薬莢で火薬が保護されていないため、前面から火の粉が入ると、他のシリンダーから弾が発射されることがあるのだ。そうなると非常に危険だ。指が飛ぶかもしれない。
そうこうしているうちに盗賊に襲われた五十人街頭へ到着した。昔はさぞ立派だった大木も今ではすっかり苔むしてしまっている。小さなトカゲがきょろきょろと周囲を伺っている。この世界のトカゲは鱗が分厚いのが多い気がする。小さなワニみたいだ。
この木の影の盗賊は隠れていたそうだ。
「ここで奴隷を載せた馬車を奪われたと」
デイブさんが地面に残る轍を調べている。こういうときはさすがに占術の使えないことを残念に思う。ここで起きた過去の映像を呼び出すなんて魔法もあったはずだ。
「ここで来た道に戻っているな、こっちだ」
デイブさんが指を指した。
「多分近くで馬車は乗り捨てているはずだ、森のなかに小屋かテントかがあってそこに盗まれた奴隷たちはいるはずだぜ」
「なるほど、そうそれじゃあ街道からそう離れていない場所だね」
俺は右手の銃を引き抜いた。
「何するつもりだ?」
「空から見てみる」
刻む回路は、クワイエットとシーイング。
「クワイエット」は銃声を消す。そして「シーイング」は効果時間の間、撃った弾丸から見える光景が知覚できるようになるという魔法効果だ。本来は矢に効果をつけて、敵陣に打ち込み偵察に使ったりする。
空にめがけて放たれた弾丸から、地上を見下ろす。近く森のなかに小屋が二軒。その片方にたくさんの人影があった。
間違いない。あそこだ。
「見つけた」
「すげえな、やっぱ魔法は便利だわ」
デイブさんが感心したようにそう言った。