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戦闘

 近づいてくる男たちとの距離が300mを切る。


 ここまで来ると、相手の服装も少し分かり始める。

腰にベルトを使って、剣と小道具を付けている。

俺が出かけるときにもする、標準装備だ。

男たちの背丈は皆、俺と同じか少し低い。


 向こうは、和やかな雰囲気で手を振っているが、

視線は、こちらの一挙一同に注意を払っている。


 隠しているつもりだが、直ぐに分かる。


 aの頃では、本当の気持ちを述べることよりも、

嘘をつく回数の方が多かった。

そんなことをしていく内に、不思議と人の嘘や偽りに敏感になっていたからだろう。


 こちらのことを警戒しているのか?

けど、向こうにとって、人数でいえば3対2で有利。

警戒はしてもいいと思うが、それを隠す必要はない。


 むこうの散らばり方といい、なんだか不穏だ。


 「兄さん、これからどうするの?」

 リーナが向こうに手を軽く振り返しながら俺に問いかける。


 リーナは全く警戒していない。


 「あ~~、後回しにして結局言ってなかったな……」

 

 手短に俺は、死に際の父さんの言葉を、簡潔に妹に伝えた。

勿論、転生者の事は伏せて。


 これはちょっと、気持ちの整理がついていない。


 「……わかった。そのギルドって、

お母ちゃ……お母さんが夜に聞かせてくれたお話の中にあったよね。

冒険者とか商人とか……あとは、職人とか?」

 

 「確か、そんな感じだったな。」


  向こうとの距離が200mを切る。

 

 

 (しかし、怪しいからといって、いきなり敵対行動するのも、後の事を考えると良くない気がする。)

 

 「あの人たちに、後で聞いてみようよ。」


 (ゆする……か?) 


 「………妹よ、悪いけど、話はあとにしよう。」


 「え?けど……わかった」


 不服そうだが妹は応えてくれる。


 「それで頼みなんだが、俺のバッグを持って、

背後の森に歩いて身を隠してくれないか?

それと俺から離れるとき、

向こうの進行方向と水平にしながら離れるようにに心がけて欲しい。」


 「うん。」


 俺がリーナにモノを頼む時、呼びかけを妹とリーナで使い分けている。

兄としての必要な命令。

個人としてのお願い……というよりかは、おねだりでだ。

妹は、その俺の意図を汲んでくれた。


 リーナが、俺の荷物を持って、背後の森へ移動し始める。


 それに反応して、3人組の、リーナに近い方にいた男が、

軽くリーナに引っ張られるようにして動く。

しかし、真ん中の男がそれに気づいて止めさせた。


 (……最初に動いた男、リーナを捕えるための動きに見えましたねー。

そして、俺たちに気取られるのを防ぐために、その動きを止めさせたって感じかな?)


 考えすぎかな? ……可能性は0じゃない。接触は止めておこう。


 向こうとの距離が150mになる。

ザンザンと雑草を踏む音が聞こえてきた。


 お別れのつもりで軽く手を振って、俺もリーナの後を追いかけ始める。


 足音が変わる。ザンザンからザッザッと軽く走る音に。


 「チっ!」


 俺は舌打ちをして、相手との距離を保とうと走り始める。


 追いつかれる前に森にたどり着きたい。

無いとは思うが、追いつかれて襲われたら不味い。

獣相手は慣れているが、

俺も妹も、対人は父さんと軽くしか練習してしていない。


 「待て! 待ってくれ!」


 ここで初めて相手の声が聞こえる。


 「すまない! 急いでいるんだ!」


 足は止めずに言葉を返す。どうやら、真ん中の男が話しかけてきたようだ。

 

 「……ダンジョンモンスターが出たと聞いている! 森は危ないぞ!」


 初めての固有名詞に面食らうが、

そのダンジョンモンスターとやらが、トカゲではないかと憶測する。

信憑性の高い情報に、相手への警戒を薄くしたくなる。

 しかし、それを切りだす際、不自然な沈黙があったがために、

もう一段階警戒レベルを上げてしまう。

地面を蹴る足を止めず、言葉を返す。


 「忠告、ありがとう! 

しかし、それでも急がねばならない! さよならだ!」


 念のため、肩に掛けていた弓に弦を張る。


 「待て、待っ「ええい! まどろっこしいぞ! ジョン! 俺にやらせろ!」


  突然、真ん中の男の言葉が遮られる。

リーナにつられた男が遮ったみたいだ。

どうやら、こいつは少しせっかちらしい。

 

 「止めろ、トム! 傷つけるな!!」


 ここで、一人を除いた二人の男の名が分かるが、

不穏なセリフにすぐに振り返る。


 そこには、トムが、止まってぶつぶつ言っており、

ジョンが、その男の行動を止めようとしていた。

しかし、残念にも間に合わない。


 トムは、人差し指を作ってアランを指さす。

と同時にそこから小さな火の玉が、アランの方に向かって飛び出る。


 っ!!!!!


 突然の明るさに暗闇に慣れ始めた目がくらむ。

そのため、俺は避ける動作が出来ない。


 火の玉は俺のすぐ横を通り過ぎた。


 あぶねえ!!!


 「くそっ! 外しタンッ!   」


 悔しがるトムの額に矢が刺さっていた。

矢の勢いで空を仰いで、崩れるように倒れる。


 いや、俺が倒した。

飛んできた火の玉にデジャヴが起きて、ついやってしまった。

両親を失った時のだもの。仕方がない。

  

 「ああ!? もうッ!」

 「トムッ!? この野郎っ!! やりやがった!!!」

 

 ジョンという男が髪を荒々しくかいて嘆き、

 名を知らぬもう一人の男が、俺に向かって吠える。


 また、兄さん! と異変に気付いたリーナが悲鳴を上げている。


 森に入る一歩手前にリーナはいた。


 リーナとの距離は70m程ある。

睨みつける二人の男たちとの距離は50mを切っている。


 状況の分からないまま、戦闘は始まった。

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