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そして、笑顔で歩き出す。

 夕日が段々暮れてきた中、前に俺、後ろに妹、俺たちは獣道をかき分け、進んでいく。

生えている草は高く、俺の身長よりも高いものが、ちらほらとあり、視界は悪い。

俺も妹も、森が生活圏内だったために草木に足をとられず、進む事が出来ている。

 

 しかし、問題なのは俺たちが、村が何処にあるか分からないということだ。

両親が、村のある方角へは近づいてはいけないと戒めたことを俺たちが忠実に守った故だ。

ただ、漠然と、過去に山の中腹から眺めて知った、森の途切れる方へと進んでいく。


 トカゲが近くにいる気配は無い。

出会っても捲ける自信はあるが、それは遭遇した時に距離があった場合だ。

……いや違うのか、それも難しそうだ。

奴は炎を吐ける。周囲は燃えやすいものばかりだ。

つまりそれは、奴に見つかれば終わりを意味することになる。


 トカゲの事を考えると、沸々と疑問が湧きあがってくる。


 どうして、トカゲは森にいた?

 あいつは結局、亜人だったのか?

 なぜ、森と相性の悪そうな火を吐く奴がいたのだ?

場所が違えば、自滅の可能性もあっただろうに。


 そして、浮かび上がった疑問を次々と噛み砕き、時には消化し、吐き捨てる。


 トカゲが森にいた理由はどうでもいい。

 トカゲは亜人ではないだろう。本で登場する亜人は喋っていた。あいつは最後まで喋らなかった。

 火を吐いたことは事実でも、火しか吐けないと決まった訳ではない。


 そして、思考の範囲が広がり、また疑問が浮かぶ。そして、それに理由を与える。


 そして、気づく。気づいてしまった。


 俺は、あの時……トカゲに不意打ちを仕掛けようとした、あの時。

躊躇して、警告を飛ばさなければ、殺せたのではないだろうか……?


 ……父さんは死なずに済んだのではないだろうか。


 いや、違う、そうではない。矢ではあいつは、傷が付かなかった。

だから、あの時の判断は関係ない。


 ……本当にそうだろうか?

あの時は傷が付かなかったが、当たりどころが悪かっただけなのでは……?


 いや、けど、しかし。

そんな思考を繰り返す。






 そして、ふと思った。


 aだったら、あの時、俺がアランではなく、aだったら……どうだ?


……間違いなく、警告を飛ばさずに矢を放っていた。


大切ななにかを教えてくれた父さんと、亜人を天秤にかけるような事は、

絶対にしなかった、と俺は言いきれる。


 実際に、俺は、aの時に宿った、価値観、思考、心の構えを全て、汚いものだと思いこみ、心の隅に追いやっていた。


 けど、実際はどうだ?

そのせいで、アランの考えに基づいて判断を迷い、

挙句の果てには父さんが死んだ。俺が殺したようなものだ。


 ああ、アランのもつ思いやりなど、いらなかった。


 むくむくと懐かしい感覚が心の中でよみがえってくる。


 突然、目に夕日が差し込んだ。

現実に引き戻される。

目を細めると、周りの草が俺の顔を撫でなくなった事に気づく。

眩しくなりながらも手をかざし、前へ前へと進んでいく。

歩くにつれて、生える木々の間隔が広がり始め、草木も小さく縮んでいった。


 その頃には、光の差し込む角度も変わり、手をかざす必要もなくなった。

手を下ろせば、そこには、森は無く、美しい平原が広がっていた。

夕暮れの平原は、光輝くオレンジ色を帯び、とても幻想的だ。


 「おお……」

 「きれぇ~……」


 風に吹かれて、色彩に変化が訪れ、生まれた黄金の波が、左から右へと流れるのを目で追いかける。


 「あ、あった。」


 その先には森から遠ざかるようにして、畑があり、集落があった。

奥には、木で造られた家が、無造作に建てられている。

たぶん、あれが父さん達の言っていた村だろう。


 「え、何が?」

 「村だよ、右の方に村がある。」


 そう言って、俺は目を走らせ、周囲の地形を確認する。


 左手はまだ森が続いている。地形に大きな高低差がないため、途切れる部分が見えない。

正面は平原が続いているが、それも途中で、左手に続いていた森が食い込む形で見えなくなる。


 俺たちが住む森は中々でかいようだ。普段は、山の方に向かう事が多いから、実感がなかった。


 「兄さん、あれ見て」

 「ん?なんだ?……あれは」


 腕を引っ張られて、リーナの視線を追いかけると、平原から畑に変わる前に小さなテントがある。

テントとの距離だと500m程だろうか。

そこでは火が焚かれていることが、かろうじて、ここから分かる。



 なんだろう、野宿だろうか。

村だから、宿も無いのだろうか。

ということは、旅人?それとも商人?

ギルドについて何か分かるかもしれないな。


 そんな事を思って眺めていると、テントから人が出てきた。


 一人、二人、三人……三人か。三人とも男のようだ。


 数えるや否や、自分が緊張してきたのが分かった。


 そういえば、そうか。

これがアランとしての、初めての他人か。

……他人ね。


 また懐かしく不快な感覚が、ズルズルと心を覆うのを感じる。


 

 ぎゅっと、妹が俺の腕を強く抱きしめてきた。

目の前のことに意識が戻る。

ささやかに、女性を主張し始めた胸のふくらみを感じ、

大きくなったなあ、と感慨深くなる。


 妹にとっては、正真正銘の初めての他人か。

不安にもなるか。初めての部外者はトカゲだったもんな。


 だが、その顔は若干の怯えはあったが、立派な面構えをしていた。 


 (負けず嫌いだもんなあ、森で競い合う遊びをすると、

全力で勝ちにきて、最近では俺が負ける事もある。勿論、手を抜いているんだよ?

ほんとだよ?)


 「兄さん、こっちに気づいたみたい」


 心の言いわ……納得する根拠を提唱するのを止め、目の前の現実をみる。


 三人は少し話し合った後、真ん中の男が大きく手を振ってきた。


 直ぐに、振り返そうと思ったが、

また父さんの言葉を思い出す。

「人を信じるな」



 俺は呟く。

「その通りだよ、父さん。俺が間抜けだったよ、ごめん」


 俺はaであるべきだった。


 懐かしく不快で、けれど今の俺には必要な感覚がスルスルと頭の中に溶け込んでいく事を感じた。


 大きく深呼吸する。


 ……これでいい。


 不快だが、必要な考え方だ。愛情を知ったアランとしての考えは、ぬるま湯の考えでしかない。

愛情を知らないaの方が、したたかに生きれる。妹を失う間抜けもしない。


 他人とは、理詰めていけば損得の付き合いしか出来ないものだ。

そして、あの男たちは、他人である。

 

 どうして、手を振ってくるんだろうか?

なんの得もしないのにさ。俺達と仲良くなっても、何も出てこないのにさ。

それとも、善い事をして、自分を肯定したいのだろうか?

ああ、きっとそうだ。助かった顔をしておこうか。

それとも、憧れる演技でもしましょうか。


 顔の表情が段々変わってくる。

表情筋を使っているのが分かる。

唇を軽く横に伸ばし、目尻に軽く、力を入れる。


 きっと、今の俺は微笑んでいる。

今なら、人当たりのいい言葉を演奏するように並びたてる事が出来るだろう。

 

 妹を守らなければ。

もう家族を失ってはいけない。

次は無いんだ。


 よし、生きよう。

 

 アランは笑顔で挨拶する。

 おはよう、a。

サブタイトルで勘違いしそうですが、完結しません。

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