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冒険者ギルド②

「以上かしらね、ギルド登録に関しての注意事項と、依頼受諾から完了報告の流れへの説明は。ふう……」


とマリッサさんは大きな事をやり遂げたとばかりに大袈裟に息を吐き、ニコりと笑った。


もっと難しい手続きやら小難しい事が必要かと思っていたがそうでもないらしい。


こちらが現状把握しとかなければならない内容はこうだ。


冒険者ギルド登録者にはS〜Dのランクが授けられ、それに見合った依頼を受ける権利が与えられる。そして、依頼の達成と共に、冒険者側の力量が認められ、信頼が上がり、徐々にランクが上げられていく。

より難易度の高い依頼ほど、報酬も高くなる。

目指せ、一流の冒険者!といったところだ。


ただ、ここで少し疑問に感じた事を聞いてみる。


「ギルドの依頼を受ける権利とはどういう事ですか?依頼の受諾可能かどうかの判断は最終的にそちらで決めるという事ですか?」


もしそうなら癒着やら賄賂なんかが横行してそうだ。

あれ?これもしかして聞かなかった方がいいんじゃ……?

遠回しにギルドの汚点を指摘しているようなものだ。


「ん?それは……んん?

どういう意味で……ああ、そういう事ね。あれ?……森の民よ。もしかして魔獣を知ら……ない?」


なんだなんださっきから、

森の民のフレーズがそこまでお気に召したのか?まあ、気にしてないからいいんだけどね。あと、どうして引っかかるような話し方をするんだ。


「魔獣ですか?いいえ、聞いた事がないです」


「……では説明しましょう!

魔獣とは魔素を多分に含んだ獣達の事よ。

簡単に言えば、魔素を扱う事が出来る獣達ね。

因みに、魔獣としてこの世に生まれたか、生きていく内に体に魔素を一定量を含み魔獣になる二タイプの魔獣がいるわ。」


という事は……?


「つまり、その……魔素の含む量とかで、同じ魔獣でも脅威度が大きく上下するという事ですか?」


「ふふ、そういう事よ。

ランク自体はあくまで指標であって、細かい所まで区分出来ないの。

というのも、一般に言えば、熊の狩猟はCランク扱いだけど、

魔獣化してしまうと、BランクやAランクにも上がったりするわ。」


「そこまで変わってくるんですか……」


やはり魔素が扱える事はそこまで大きいんだな……

……俺は俺なりのやり方で強く生きていこう。


その時、ガタッ!!ガタン!!という音が周りから散々と鳴る。


驚いて音の鳴る方向に首を向けると、姿勢を崩したり、剣に手を掛けたりした周りの奴らがマリッサさんの事を憎々しげに見ていた。さっきまでスペースの端で呑み食いしていた奴らだ。

そして、俺の視線に気が付くと、俺の様子を見るや否や驚愕の目を送り、直様目を逸らして、元の佇まいにいそいそと戻った。


心当たりの無い俺は、一種の緊張と警戒を持ってマリッサさんの方へと向き直るが、


「そうね、魔素を扱える事で運動能力の増加や魔法?を扱ってくる事も見逃せないけど、一番大きい事は知性を大きく灯す事ね。」


マリッサさんは知らんぷりをする。


(こいつ、今何をした……?)


今の事象は俺にとって、プラスかマイナスか、マイナスなら俺は何らかの形でマリッサさんの尻尾を踏んじまった事になる。


その事を考えると、臆病になる。しかし、マリッサは会話を続ける。ならば、俺はそれに合わせる、従うしかない。


「ち、知性ですか?」


「ふふ、森の民よ。君はきっと穴場のような森にいたのだろう。普通は魔獣に出くわす事をおそれて森に住むなんて発想は出てこないんだけどね」


そして、マリッサは間髪入れずに言葉を紡ぐ。


「だから、アラン君は物凄く強いのかと思っちゃった。魔獣と隣同士になるかもしれない環境で腰を落ち着かしていたと勘違いしちゃったの。ふふ。」


種明かしをするようにマリッサは言うが、俺には答えになっていない。先ほどの周りが反応した事の答えになっていないのだ。


だから、あいそ笑いを浮かべて答えるしかない。


「俺がそんな強そうに見えますか?はは!」


そんな反応にマリッサは、


「……どうなんだろうねぇ?ふふふ。ますます愉快だねぇ、アラン君は。」


目を薄く細めて笑い、意味ありげにじっと俺を見つめてくる。


俺は困惑する。

恐らく、彼女は、静かな水面に小石を投げるが如く、何らかの心理戦を仕掛けている。しかし、俺はその土俵にすら上がっていない。だから俺はまともな反応を返せない。


その結果、マリッサさんにとっては白を切られたように見えている。

そして、そんな普通は面白くない状況にマリッサさんは俺を愉快だと評した。


(どうする……?俺の考えていた事を全て吐き出すか?勘違いを正すべいか?しかし、それで余計なボロが出る可能性もあるぞ)


ボロが出たら、最悪芋づる式のように俺が転生者である事がバレる恐れすらある。


ぐっ……それに。


マリッサ、こいつのプライドの問題もある。親しみ易い奴かと思ったがどうやらそうではないらしい。バラした場合、マリッサの勘違いが露呈する。それを恥だと捉えられたら、負の感情を向ける矛先は確実に俺だ。


……ここは……。


「……マリッサさんもとても素敵な人ですよ。笑顔がとても素敵だと思います……ハハ」


と言って緩やかに下を向く。

この発言が、それはそれはとても恥ずかしいように、下を向く。

まるで恋をした少年のように。


届け!俺の場違い発言!

これで向こうは薄っすら自身の勘違いに気付き始める筈だ!

俺はその程度の人間なのだ!

よく分からない心理戦に俺を巻き込むな!


俺は、この世界では…弱者なのだから。

クソッ!トカゲ野郎のあの目を思い出す。


落ち着くんだ、俺。こんな感情を抱いても意味はない。

…種は蒔いた。

もう無闇に接触するべきではない。

後で勘違いに気付いてくれればいい。


「あ!そういえばギルドの紋?を貰っていません!頂けますか?!」


さも気まずい状況を破るように俺は言葉を連ねる。

ただし、視線はマリッサさんの首から下。恥ずかしくて顔を見れないように。


「あ!…そうね、そうだったわね。では、そろそろやりますか。……片手をこちらへ」


 マリッサは落ち着き払った、慣れた動きで、首からぶら下げていたものを服から取り出し(それは紋印だった)、俺の片手を催促する。


仮紋がある片手をマリッサに差し出す。


「もう一度言っておくわ。

期限は半年間。それ以上、紋に魔素を補給出来なかったらその印は黒紋になる。犯罪者扱いされちゃうわよ。気を付けてね。」


紋印を片手に押され、ちくっとする痛みを感じてすぐに、俺はありがとうございました!と叫んで外へ出ていった。




こうして、俺は正式に冒険者ギルドの傘下に入る事が出来たのだった。



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