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 やっと人の住む町に入れたことに、俺は息をつく。


 門を抜けると、他の人間もちらほらと見えた。

遠くから軽く見下ろした時にも確認できたように、

規模は小さく、一階建てのレンガ造りの建物が並び立っているのみだ。

二回以上の建物はほとんど見えない。

主だった道は石畳になっており、

久しぶりの足裏の硬い感覚に、懐かしさが去来する。

町全体を見渡したいが、道が曲がるようにして建物が並んでいるため、出来ない。


 すぐにギルドか宿のどちらかで腰を下ろしたいが、

探す事に時間がかかりそうだ。

先ほどの門番に尋ねればよかったと少し後悔する。


 ちらりと妹の方を見る。

好奇心旺盛なリーナの目には、この町がどう映ったのか気になったからだ。


 だが、あまり反応をしているようには見えない。

門番と話すまではフードを被っていたために顔色が見えなかったが、

疲労が顔に濃く出ていた。


 これはひとまず宿に行った方がよさそうだ。


 「どうしたの、兄さん?」


 俺の視線にリーナが気が付いて話しかけてくる。


 「ひとまず宿に行こう。」

 

 「うん、わかった。少し、疲れたよ。」


 「……ああ、そうだな。」


 俺は、負けず嫌いなリーナがそうやって小さな弱音を吐いた事を珍しく思いつつ、

通りがかった近くの人に話しかけ、宿の場所を聞いたのだった。



 ガガアと音を鳴らして扉をあける。

入った部屋の中には、少し大きめのベッドが一つと小さな机と椅子が、

小さな部屋に窮屈そうに置かれていた。

部屋の中全体が埃っぽく、

何度も使ったのであろうシーツは衛生面で少し不安を覚えさせる色を帯びていた。


 「まあ、悪くないよな……?」


 宿代の相場を含め、己に納得させるようにそう呟いてみる。

後から入ってきたリーナは直ぐに、机のそばに荷物を下ろす。

どうやら、特に何とも感じていないようだ。


 「兄さん、私少し休むね……」


 そう弱々しく呟いて、リーナはベッドに倒れ込む。


 「長旅だったからな、ゆっくり休め。

少し、外の様子を見てくるよ。ああ、そういえば体を洗う場所は聞いていたな?」


 「うん、わかってる。いってらっしゃい……」


 そう言って、リーナは目を閉じた。


 ここまで、疲れ切った妹を初めて見た。

旅とはこういった事を含め、新しい何かを見る機会に溢れているな。

しかし、ギルドに登録すればこの旅も終わるだろう。

少し、口惜しいな。


 そんな事を思って、俺は荷物やら、なんやらを机の上や傍に置き、

軽い装備で扉をゆっくりと閉めて、部屋の外へ出た。


 2階から1階に下りて、宿屋の主人を呼ぶ。

ゆったりとした速さで、カウンター越しにおっちゃんが出てきて、顔で何か用かと尋ねてくる。

俺は口を開いて、不安要素を排除しようと確認をとる。


 「初めての町なんだが、ここらは物騒なのか?」


 「いえいえ。そんなことはありませんよ。

どうして、そのような事を?」


 「荷物を置いて、外へ出るから心配なんだ。」


 「ああ。そういう事でしたら大丈夫ですよ。

ここらでそういった被害はありません。

ただ、そこらのご判断は自己責任でね。」


 「ああ、分かった。ところで……」


 妹が襲われる心配も無いみたいなので、それぞれのギルドの場所を教えてもらい、宿の外へ出る。


 外を歩いて、人々の様子をさりげなく見て観察する。


 魔法のようなものを使う姿を見ることはないが、

ぎょっとするようなものは見れた。

 160cmくらいのスラリとした女が自身より少し小さい樽を軽々と持ち上げて運んでいたのだ。

どこを見ても、そこまでの筋肉を付けているようには見えない。

勿論、水は入っていた。もうたっぷりと。たぶん、80kgはある。

俺も持ちあげられるぐらいの筋力はあるが、鼻歌歌いながら運べる余裕は無い。

あれが恐らく、魔素を扱える恩恵なのだろう。 


 また、町の中はだいぶ安全なようで俺のように剣を装備しているあまりいなかった。

冒険者、商人あとは警備兵と思われる人間たちぐらいだ。

他には、市場のやり取りを見て相場を確認していく。

……どうやら、俺たちは結構な金を持っているみたいだ。

一か月は何もしなくても生活出来るだろう。


 すぐに動かなくてもよい事に、気持ちが幾分か楽になる。

 

 これから利用しそうな色々な店の場所を確認し、

その後は真っ直ぐに冒険者ギルドがあるという場所に向かった。


 どうやら、俺達は冒険者ギルドにしか登録できないようだ。

宿屋のおっちゃんの話では、ほとんどの組織は所属しようとすると、

何かが必要だったりするらしい。

組織内の仲間からの紹介や膨大な金、家、若さ、組織によって、それぞれだ。

そして、何も必要がないのが冒険者ギルドなんだそうだ。


 だから、冒険者ギルドに行くしかなかった。

他のギルドは暇な時に見るくらいでいいだろう。

妹もいないから直ぐに登録するつもりはないが、様子見はしときたい。


 荒くれ集団なら少し考える必要がある。


 というのは、ふと気付いたことがあったからだ。

日本人の感覚で両親と妹の顔を見ていたから分からなかったが、

道行く女性陣と比べて、リーナは中々の美人だと思うのだ。兄補正は極力抑えてだよ?

ちなみに、自分の顔は分からない。鏡も無いし、自分の顔がぼんやりと分かるのは水面くらい。


 話がズレたが、ちんぴらに絡まれたら俺がリーナを守れる可能性が低い。

さきほどの樽女のような輩がごろごろいたら絶対に勝てない。

そもそも、樽女を肯定したら三人組に勝てた理由が分からない。

あきらかに、斬り合いの時にパワー負けしていたはずだ。


 そこには何かあるのだろうか?

そんな疑問を頭に浮かべて、冒険者ギルドらしき建物にたどり着いたのだった。

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