道のり
その後、朝を迎え、少し引き返してから、戦闘があった野原を沿うように一日を使って、森の中を進み、
やっとのことで道を見つけた。
ここから人に合わないかドキドキしながらあるく。
森の中では、視界の確保と音を拾いやすくするためにかぶらなかった、フードをかぶる。
一日を使ってもまだ人には出会わない。
周囲はいまだ森であり、獣の影も見えない。左はずっと森が続いており、右は山があったり、森があったりとまちまちだ。
獣や人、生き物全てが敵と成りうる状況では、常に緊張がある。
精神的に辛くなりつつある。それはリーナも同じようで、
最初は家事の役割分担やらギルドのことなど、これからの事で花を咲かせていたが、
今は黙っている。
一日が経つ。
ふと、引き返して、リスクを承知で接触しなかった村へ行くべきだろうかと考えてしまう。
しかし、食糧にはまだ余裕がある。
だから歩き続ける。
また一日が経つ。
次には精神的ではなく体力的にもきつくなってくる。
森を縫うようにしてある道が厄介だ。
恐らく、俺たちは左側にある大きな森を大きく迂回している。
これが中々堪える。
だからといって、森の中を突っ切ろうとは思わなかった。
嫌な予感がする。これはリーナも賛成していた。
森の気配が、俺たちの知っている森とは違う。
森の中へ入る時は、夜を明かす時だけ。
しかも、奥へは絶対に行かない。
ある晩では、獣の遠吠えが聞こえた。
圧倒的な質量を感じさせるその声の持ち主を考えただけで背筋が凍る思いだ。
また一日が経つ。
俺はまだ体を鍛えていたから体力があるが、リーナは違う。
少しずつだが、疲労がたまっているのが分かる。
一度、気を配ろうとしたら怒られた。
これ以上足手まといはごめんだと言う。
しかし、体力回復を怠って、より足手まといになる可能性もある。
今はリーナを尊重するが、顕著になったら兄としての意見を通さなければならない。
また一日が過ぎ、やっと左側に延々と続くようにしていた森が途切れ、辺り全体が野原になった。
ところどころに大岩もある。
そして、ゆったりとした傾斜を上ったり下りたりしていくと、本道ともいえる大きさの道に出会う。
リーナに任せて進む方向を決め、さらに進む。
そして、二回目の他人に出会うことになった。
前方から荷馬車が一台来たのだ。
前を向きながら、リーナに話しかける。
「話を合わせろ。
前のようにはなりたくはない。」
「わかった」
少ししょんぼりしているのは、前回の負い目があるからだろう。
頭をいつもより少し強めに撫でる。
「らしくないぞ。」
俺は、ニィと笑って言ってやる。
「そうだよね」
俺の顔に気付いた妹が、にかっと笑顔を返す。
近づくにつれ、詳細が分かり始める。
荷車の大きさは小さく、大きい馬が一頭率いるだけで事足りていた。
乗り手は一人で、男のようだ。
積んだ荷物と一緒にいる可能性も考えたが、布が掛けられているのがこちらからでも確認でき、
その考えは捨てた。
一人でいるには随分と平穏な雰囲気を醸しているので、今日まで山賊を警戒していたことは杞憂だったのかもしれないかもしれない。
または、ものすごく強い可能性もある。どちらにしても襲われなければいい。
向こうはこちらを一瞥してそこから興味を示さない。
話しかけて情報を得るべきか迷ったが、止めておいた。
ギルドに入るまでは下手な接触は避けるべきだ。
どんどんと近づいてくる。
そして、スッと、一定の距離で相手は思いだしたかのように手を挙げる。
俺も軽く手を挙げ、リーナも後を追う。
それで終わり。
何事もなく終わった。
あの手首の一件は本当になんだったのだろうか。




