一日目の終わり。
30分ほど歩いたところで野宿することにした。
木々の合間から差し込む月の光が今まではあったが、これ以上奥には、その光すらもない。
俺とリーナは適当に木に登って、太い幹にマントを敷いて腰かける。
同じ木に登ったため、上にリーナがおり、姿はあまり見えない。
時々、ちらりちらりと手が動いているのが見える。
干し肉をかじりつつ妹に一応注意する。
「あまり食べすぎるなよ。」
「分かってる。」
時々、獣の遠吠えが聞こえてくるが、こちらに近づいてくる気配はない。
周囲の気を配りつつ、浅い眠りに入ろうとする。
幾分かの時が流れて、
「兄さん。」
と妹が話しかけてきた。
少し緊張して息を潜めたが、そういう意味ではないらしい。
「……なんだ?」
「これからどうするの?」
黙考して、答える。
「取りあえず、あの村とは違う、人里を探す。
そこで、なにかギルド登録して、誰かの権力下に入ろうと思う。」
「どこのギルドに所属するの?」
その声には期待が込められていた。
そういえば、リーナは物語で出てきた冒険者にえらく関心があったことを思い出す。
……しかし冒険者か。
お話の中では、冒険者が死なない事は稀だ。
大体誰かが死んで、それが悲劇として描かれていたからだ。
命を落とす可能性が高そうだし、リーナは女の子だ。
もっと、違う生き方もあるかもしれないよな。
まあけど、実際に冒険者ギルドがどういったものか知らないし、
見てから判断するべきか。
そもそもギルドに入なくてもいいと思うような気もするが、
父さんの「ギルドに入れ」の言葉も気になる。
「……そこまでは考えていないが、目星としては冒険者か商人とかだな。」
「うん。」
その後、小さな声でヨシ! といった言葉が聞こえてくる。
俺は微笑ましく思い、なんとはなしに、リーナの方に目を向ける。
「……ん? それはなんだ?」
リーナが何か手でいじっていた。弄っている対象から、
小さな鎖が伸びているのが分かる。
ネックレスになっているのだろうか?
「ああ、これ? お母さんが私に渡してくれたの。
……説明する暇もなく、お別れになっちゃったけど。」
「液体が入った容器に見えるけど、薬か?」
「分かんない。」
そしてリーナは説明した。
母さんとの別れる前までの事を。
俺が魔素が扱えないという言葉にショックを受け、家を出て行った後、
家族で話し合い、落ち着いたら帰ってくるだろうとの事で意見が一致したそうだ。
そして、母さんは時間があまりないと言って、
黒い革袋から綺麗な結晶を取り出し、リーナに呑ませた。
その結晶は透明性があり、白く濁ってはいたが、思わず見とれるような美しさがあったそうだ。
母さんは自ら掛けていた、そのペンダントを取り出し、リーナの首に掛けて嬉しそうに言う、
「これで貴方も魔法使いとしての可能性が華開くわ。」と。
そして、異変が起こった。
初めて聞く獣の叫びに、父さんと母さんは警戒心を露わにして、リーナに家にいるように告げて、外へ出て行ったそうだ。
そこからは、俺が見たとおりのものだろう。
「ということは、魔法使いのお守り……?」
「かな……?」
情報収集する内にこれも分かるだろう。
「明日も早くに出発しよう。そろそろ寝るぞ。」
「うん、おやすみ、兄さん……」
「おやすみ、リーナ。」
こうして、慌ただしく始まった旅の一日目が終わった。




