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苦戦

 剣を抜く敵は50m前にいる。

対峙している俺は既に弓を構え、矢を番えていた。


 ピリピリとした緊張が周囲を支配する。

既に日は沈み、辺りは暗い。草と虫のささやき声が、コロコロざわざわ鳴り響く。

テント近くに焚かれていた火も既に息を潜めている。

光は星と月のみが頼りなため、さっきまで敵の背後に見えていた村も暗くて良く見えない。


 向こうの二人は俺の弓の腕に警戒を表しており、下手に動こうとしない。


 俺の額に嫌でも汗が浮かぶ。


 敵は、さりげない動作で、暗闇にまぎれるように、じりじりとした動きで俺を囲むように動こうとする。


 「動くな! 視えているぞ!」

 

 「「……」」


 しかし、やらせない。

相手の意図を看破して、止めさせる。


 (二人同時に、投げナイフやら魔法やらで飛び道具を放ってきた場合、

対処しきれない。タイミングを合わせられる前に一人倒したいが、そうした場合では、

残った奴に距離を詰められるだろう。

かといって、さっきのように目くらましされるような先手をうたれるのも不味い。

……やはり先手を打たなければ。)


 俺は素早く息を吸う。

そして、問いかけた。


 「な、なあ。止めない……か?」


 吐かれた声は震えており、少し弛緩したためか、

構えた腕は震え始める。


 あまりの無様に情けなくなる。

兄として、妹に見られてる可能性も相まって、

背後にいるだろうリーナに振り返って、

「お願い! 見ないで!! こんなお兄ちゃんを見ないで!!」と叫びたくなる。


 「黙れッ!!! こっちは一人やられてるんだ!!

今更、引き下がれる状況じゃあないんだぞッ!!! 分かってんのかッ?!」


 名の知らぬ男は激昂する。


 俺はそいつへの交渉を諦め、ジョンと呼ばれた男に目を向ける。


 (こいつは、今までの行動を鑑みるに、まだ損得勘定が出来るような印象がある。)


 唸る男に注意を払いつつ、もう一度問いかける。


 「あんたは……どうだ……?」


 俺の声がか細くなる。最後はすがるような声になる。

 

 ああ、情けない。


 ジョンという男は少し悩み、そして、口を開く。


 「……まずは弓を下ろシぃ!!」


 卑怯な手でしか戦えない事が情けない。


 そこには、トムと同じような光景が繰り返された。


 「きさまっ!!!」


 俺が矢を放つや否や、残りの男が剣を少し傾けて前に突き出し、駆け出してくる。


 (……少しでも動揺して接近が遅れたら、矢で射ぬけたんだが仕方がないか。)


 弓を背負って腰のブロードソードを抜く。

向こうの手にも同じ形の剣が握られているが、長さは分からない。


 初めての対人戦に少し緊張する。


 父の教えと自分の我流に基づき、剣を構える。迎えうつは上段の構え。

剣を握る手は、小指と薬指をしっかり握り、遊びを作る。

左足を軽く引き、右足は前へと構える。


 自分の間合いに少しでも入れば斬る!!!


 向かう相手は走る速度を緩めず、俺の構えを見て、合わせるように剣の切っ先を少しこちらに傾け、

裏の手首が見えるように、手首をひねる。


 リーナの悲鳴がかすかに聞こえる。


 (来るッ……!!!)


 敵が間合いに入る2歩手前で、

素早く、上段の構えを解き、

右足を下げると同時に、

剣を背後に忍ばせる形で、下段の構えに変える。

こちらが本命。

そして、相手が次の一歩を踏む手前で、腰をひねり、相手の横っ腹に一撃を入れる形で振りぬく……!!


 男は、俺の動きに戸惑うも、動く。

アランの下段を見た瞬間、踏む一歩を深くすることで態勢を低くし、

横からの襲いかかるひと振りを、剣の腹で受け止める。


 ガンッ!!!!


 (くっ、遅れた…! 相手に反応する隙を与えてしまい、防がれた……!!)


 俺が失敗を悟る前に、相手は次の行動に移す。

走ってきたそのままの勢いで俺に体当たりをくらわせる。


 俺は、地面に倒されるのを避けるため、重心を片足に移し、

横へ流す形をとる……が、全てのくらう勢いを殺しきれずに、体幹を軽く崩してしまう。

 

 その隙を相手は見逃さない。

相手の口角が自然と上がる。

アランに、走った勢いを衝撃としてきれいに渡すことに成功した相手は、

自身の間合い内で、アランへ素早く向き直り、剣の切っ先を、みぞに突き刺さんとする……!!


 (間に、合えッ!!!)


 俺は、崩れた状態で、敵の突きを、剣でいなすのを放棄する。

いなした場合、次の体当たりで地面に倒されるからだ。

握る手を逆手に構え、振るえる限りの力で地面に剣を突き刺し、体の傾く方向と同じに剣を倒す。


 ギヤュイン!


 突きを外すことに成功する。


 相手は、勢いのままに俺の体の横をもう一度通る。

しかし、今度はバランスを崩した状態で。相手が思わず呻く。


 「グぬウ……!」


 (……!!!)


 握る剣を手放し、すかさず、ベルトに付く小道具入れの横にある留め具を外す。

そして、逆の手で中にある、得物の柄を握り、勢いのままに振りぬく。

解体ナイフが描く軌道の先には、敵の首筋。


 ブシュッ!!!


 (手応え……!)


 致命傷を受けた相手は剣をもった状態で地面に倒れこむ。

首筋に手を抑え、慌てて立とうとするがもう遅い。


 俺は相手のさらけ出した、横っ腹に鋭い蹴りを入れて、

むき出しになった首元に迷わず剣を突き刺した。


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