潮風
君は遠くへ行ってしまったんだね。
あの日君は、ずっと一緒だよ、なんて言ったけれど、私は一人残されてしまった。
嘘つき。
あの日のこの海岸には甘い時間が流れていた。初めて手をつないだこの場所。初めてキスをしたのもここ。
でも、ここはもう辛い場所。
一年前の今日、出張帰りの君を乗せた飛行機は事故で海に沈んだ。君はまだ海の底に眠っているけど、それでも構わない。
君は海が好きだって言ってたよね。そんな君が、最期を海で迎えたいと思ったんだね。
でも、諦めた訳じゃない。きっとどこかで出会えるって信じたい。もちろん、それが無理ってこともわかってる。
それでも、君に会いたい。もう一度、ここで。
ゆっくりと日が沈んでいく。水面が一点、キラリと光った。
あそこに君がいるのかな。一瞬、そう思えた。
潮が満ちてくる。流れに任せて立っていると、海水がくるぶしまで濡らす。
君に会えた気がした。涙が溢れた。
今まで君に何もできなかった。ずっと頼ってばかりだったね。
ごめんね、とつぶやいて足元の水をすくいあげた。
膝元まで満ちてきた波に、この海のずっと向こうにいる君へのメッセージを託す。
ずっと、君のことが好きだよ、と。