7.兄との才能の違い
おっしゃあああああああああああ、どんどん進めて早く冒険編に入りたいぜえええええええ!
「おばあさま!!!!」
俺がフローラにどのような授業を受けているかアリサに伝えるとすぐさま血相を変えて屋敷の中に飛び込んでいく。いくつかの扉を抜けると俺が普段行かないカイリの部屋にたどり着く。
カイリの部屋のドアを乱暴に開くとそこにフローラとカイリの姿があった。
「や、やぁアリサ今日は早いね、それにアルフォンスまでこの部屋に来るなんて珍しいね。いったいどうしたんだい?」
「カイリ様どうもご機嫌麗しゅうございます。すみません本日はウチの祖母が少しおイタをしていたようなので、その点をきっちり聞かせてもらいますわお・ば・あ・さ・ま」
そういうといつもは手ぶらで紅茶飲んでボケた話しかしないババアが快活にかっかっかと笑った。
フローラは手に持っていた本を机に置く。
「あー、バレちまったかい!意外とそこの坊やをからかうのも楽しかったんだがね。これで老婆の楽しみがひとつ減ってしまったわい。どうしてくれるんだいアリサ」
「責任転嫁しても許しませんわよ。アルにも魔法を教える約束だったのではないですか?」
アルにも?ということは兄にも魔法を教えるためにフローラは家に来ていたってことなのだろうか。そもそもの前提が間違っている気がする。フローラが本当に王国の筆頭魔術師なのであればウチのいらない子である俺一人の為に雇うだろうか?
つまり元からカイリにつけるためにババアは雇われていたって訳だ。で、アリサはカイリの為に家庭教師で来ていたババアの孫娘で、迎えに来る為に家に来ていたのか。ようやく理解した。うん。
………俺は弄ばれていたのか!?
許さんぞババア…。ふつふつと俺の心を良くない感情が満ちていく。今は愛しのアリサが代わりに怒ってくれているのでまだ我慢できている。アリサがプンプン怒っている表情はなんだか小動物みたいで可愛い。
「ま、元々給料はこっちのカイリ坊ちゃんの分しかもらってないしね。たまたま空いてた時間をそこの小僧に付き合ってもらってただけなんさ。アランの奴が暇を潰すのならこちらをどうぞって言うからねぇ」
「それでも、アルをからかって魔法も何も教えなかったのはおばあちゃんでしょ!?」
そこからは祖母対孫娘の口喧嘩が始まった。もうカイリ兄さんも俺も放置プレイだ。
「ねぇ、お兄様は魔法を覚えられたのですか?」
「あ…あぁ、うん。フローラ様にも筋がいいって褒められてね。今日でF級はマスターしたよ」
F級…。王国の筆頭魔術師がD級だとすればF級はかなりすごいのではないだろうか…。
「魔法は大雑把にA級からF級に分かれていて、一つでもその級の魔法が使えるようになればその級が名乗れるんだ。だから初心者を抜け出してようやく魔法使いを名乗れるってところかな」
「まだ、学び始めて少ししか経っていないのにすごいです、お兄様は…」
それに比べて俺は何も進歩していないじゃないか…。ババアの暇つぶしの相手をしていただけ。魔法のまの字も使えるようにすらなっていない。
なんだよこれ…新しい人生は頑張るって、これが俺の生きる意味だって自慢できるようになるんじゃなかったのかよ…。
魔法も使えて剣も使える、一人でも旅をしていき、世界の財宝を見つけに行くんじゃなかったのかよ。
未だに口喧嘩しているオルニエール家の二人、俺の様子がオカシイと思ったのか心配な声をかけてくれる兄。
はは、なんか惨めだな。こんなんじゃ全然ダメだ。好きな人に庇われて、代わりに文句言ってもらうなんてダサすぎる。もっと強い男に俺はなりたいんだ。
「―――おい、ババア」
俺は自分で、一人で覚えてやる。
ズンズンとフローラの元へと近づいていくと人差し指を相手の胸元につきつける。
「カローラだかフローラだか元王国筆頭魔術師だろうが知らないが、俺をコケにしたことは忘れない。一人でも魔法を使えるようになってあんたを見返してやるよ。俺の魔法の炎であんたを遺骨にしてやるから覚えとけ!」
それだけ言い放つと俺はさっさとその場をさる。今まで目立たないようにおとなしく生きてきたがここまでコケにされたら俺だって怒る。それ以上に自分自身に怒りを覚えていた。
4歳児とは思えない剣幕に驚いたのかフローラ、アリサ、カイリの三人ともきょとんとしていた。特にカイリは弟が怒っているところを初めて見た事に驚いていた。いつも母の嫌味・小言をヘラヘラしながらかわしていた弟が王国筆頭魔術師に小馬鹿にされたとは言え正面から怒っていた。
カイリは初めて弟に関していつもと違った感情を覚えた。
「はっはっは!ちょっといたずらが過ぎたかね?」
「ちょっとどころではないです。おばあさま…。でもそもそもアルに魔法の才能…つまり魔力を視認することができたのですか?」
アリサはため息混じりにフローラに聞く。
この世界の魔法はそもそも魔力が視認できる才能を先天的に持っていなくては習得はほぼ不可能と言われている。下級の魔法は感と訓練でなんとかなったとしても上級の魔法は視認した状態で細かく魔力を練り上げ一つの形にする必要があるのだ。
「いんや、おそらく見えてないねぇ…。魔力を使っていくらかイタズラをしてたけど見えている様子は無かったからね。そもそもわたしゃ才能無いやつに教えるほど暇してなんだよ」
「どーせいつも家でみんなにイラズラしてるだけじゃない」
フローラは一息つくわと言わんばかりに紅茶に手を伸ばす。机の上に置いておいた筈の魔法の教本が消えていることに気がつく。
「――――――これは一本取られたかね…。ま、才能はなかったしすぐに返しに来るだろうさ」
感想とか評価とかじゃんじゃんお待ちしております!!