3.転生
おぎゃおぎゃ。
赤ん坊の鳴き声が街に広がる。めでたい筈の出来事であったが、その赤ちゃんを祝福したものはあまり多くはなかった。何故ならその赤ん坊は貴族であるメルロード家の分家筋ではあるが、その主人と妾の子供であったからだ。
ラナーク王国に5つある貴族領の一つメルロード家。5大貴族の一つとして数えられ、一時期は最も王を輩出していた名門中の名門であった。その分家は常に本家の右腕として働き、活躍することが求められる。そんな貴族の家に俺こと「坂道 昇」は転生した。
丁度4歳になった。それまでは長かった!!!「おぎゃ」と「だー」しか言えない日々。腹が減ったら泣く、暇だったら泣く、うんこしたら泣く、何もなくとも…泣く。我慢できないわけではないのだが、泣いてしまえば誰かがきて慰めてくれるのだ。いつの間にかこんなに泣き虫になっちゃったよ…俺。
最初は思考することも朧げで、一時期は自己すらもあやふやであったため寝ていることが多かったが最近はしっかりと自意識というものを確立、自己の形成に成功した。勿論前世の記憶きっちり覚えている!
きっと初めの頃、泣いてばかりいたのは死んだ時の記憶が付きまとっていたからなのかもしれない。
―――強烈な死の感覚。
―――体にのしかかる嫌悪感。
今でも思い出すと身震いしてしまう。
あながち赤ちゃんが泣くのは前世を覚えている為なのかもしれないな…
「坂道 昇」であった俺はこの世界では「アルフォンス=メルロード」という名前らしい。俺の世話をするのは大体メイドだったので、もしかしてお金持ちなのかな?とも思っていたが成長するに連れ、貴族だったと知った時は驚きだった。おかげで生まれてすぐに飢餓や病気で死ぬといったことはなかったのでよかった。もしかすると女神さまが都合をつけてくれたのかもしれないな。
転生を果たした俺だが、前世での後悔はただ無為に過ごしてしまった日々だった。やりたいことも無く、ただ消費するだけの時間。
今度の人生はもっと楽しく、アニメや漫画の中の登場人物のように生きたいと思った。
この異世界ならそれが可能だ!剣もある、魔法も、モンスターや魔族でさえもいるらしい。
ならばやることは冒険しかない!そう最強の冒険者に俺はなる!!!
そういえば女神に転生させてもらう時に人生の目標に困っていると相談すると一つ提案があった。
「あなたが次の生命をより豊かに生きるために目標を与えましょう。【クルスト】と呼ばれるこの世界の財宝を捜しなさい。見つければあなたの願いを一つ叶えて差し上げましょう。―――では、あなたの人生に祝福があらんことを」
と、女神は言っていた。
【クルスト】と呼ばれるものがどんなものかヒントも何もない。ただ名前が分かっているだけだ。だが、すぐに見つけられるようなものではないだろうから、冒険をしながらゆっくり探していけばいいだろう。とりあえず今は女神に叶えてもらう願いでも考えておくことにするか…。