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009 貿易都市ソルト その1

 そびえ立つ城壁に守られた巨大都市。

 東西南北に1箇所づつ備えられた、巨大な門のみが街中への通行を可能とする。

 城門近くでは常に武装した兵士が巡回を続け、砂漠から現れる魔物や魔獣から旅人を守る。

 レモングラス公国の経済を担う、最大都市の一つ"ソルト"。

 現在、キノとリルは城門で審査を受けるべく行列の中に居た。


「すごい人……ですね」


 この街は砂漠に面した街の為、魔物、魔獣の襲撃が恒常的にある。

 周囲を城壁で囲み、外敵の侵入も常に目を光らせている為、その頑強さや治安の良さが周辺国の商人を呼び込み、いつからかこの街には貿易の全てが集まっていた。

 人呼んで"貿易都市ソルト"経済の中心となるこの街は出入する人も多く、中に入るにも長蛇の列となっている入街検査を受けなければならないのだ。


「うん……どれだけ待てば良いんだろ?」


 城門に並ぶ人の多さに圧倒されるキノとリル。


《この速度ですと、順調に進んで後3時間といった所でしょうか》

「……それって、街の中に入れないってこと?」


 後2時間で閉門。とサブから聞いて全速力で駆けてきたため、時間的に余裕はあるが間違いなく並んで居るだけで過ぎてしまう。


「問題ねえっぺよ。

 並んでいる分は入街検査を受けられるようになってんだ」


 キノの呟きを聞いたのか、前に並んでいた行商人風のおじさんが声を掛けてきた。


「そうなんだ?」


 キノの返答におじさんの目がキラーンと光る。


「そっだらこともしらねぇ上にその格好……

 おめさんたづ……訳ありけ?」


 その言葉にリルが反応し、おじさんとキノの間に割り居る。


「お答えしかねます」


 "なぜそれを?" とばかり拒絶ともとれる返事をしつつ、目には怪しい光が宿る。


「隠さんでええ。

 ワシもちっと訳ありなんでわがるんだ。おめさんたづ……大変だったろう?」


 おじさんの目に害意は無い。それどころかいたわる眼差しだ。

 それもそのはず。

 キノの服装は元勇者と言う事でかなり上質な素材をふんだんに使っており、内面が顔に出るのか柔和な優男と言う印象がある。

 そしてリル。メイド服ではあるがとても美人で年齢もキノとそれほど離れていない。

 そしておじさんは古き良き田舎のおっさん。つまり……

 (良い所の坊ちゃんがメイドと駆け落ちけぇ。

 砂埃もすげぇし、嬢ちゃんも相当ピリピリしてる。そうとう強行軍できたんだな。

 くぅぅ、泣かせるじゃねぇか。こごはワシも一肌脱いで労ってやらねぇとな)

 と言う発想が産まれても仕方が無い。


 リルもおじさんの労わる気持ちを感じ取ったのだろう、警戒を解く。


「貴方も……私達と同じ……なのですか?」

「んだ。だがら、警戒する必要はねぇ。

 詮索するつもりもねぇがら安心しとげ。今のワシはただのしがない野菜売りだ」


 おじさんはほがらかに笑い、荷物から2本のキュウリを取り出し2人に差し出す。


「よかったら食ってけれ。ワシが精魂込めて作った野菜だぁ」

「はい、ありがとうございます。

 さ、キノ様」


 リルは恭しく受け取り、1本をキノに渡す。


「ありがとう。では、いただきますっ」


 キノがキュウリをかじると、その断面から瑞々しい顔をのぞかせる。


「うっまぁー!!」


 あまりもの美味しさにキノは目を輝かせる。


「ほんとう、美味しいです」


 リルも目を輝かせてキュウリをかじる。


「そりゃよかっただ。野菜は新鮮な内に食べるのが一番だで。

 ……んで、なしてこの街にきただ?」


 おじさんは嬉しそうに笑うと、少しトーンを落として聞いてきた。


「うん、勇者様に恩返ししたいけど分からないことが多いから、取り敢えず一般常識を勉強しなきゃと思って」

「ほう? 勇者様に恩返し……なんか世話にでもなっただか?」

「うん、えーっと……命の恩人で、色々してもらったんだ」


 目をキラキラさせながら詳しく話そうとしたが、サブから「元スライムであることはなるべく隠すように」と指摘をうけていたのを思い出し、ぼやかしておいた。


「はー、さっすが勇者様だべな。噂に聞く剣の馬鹿(勇者)とは比べ物になんねぇべ」


 うんうんと頷くおじさんを見てキノも嬉しくなる。


 「へぇ、やっぱり勇者様って皆の憧れなんだ? 凄いなぁ」

 「んだな。今代の勇者様には大勢の人が救われでる。憧れ敬う人は星の数ほどいんな。これもこの国じゃ常識だべ。

 ずっと(屋敷に)篭ってだらわかんねぇ事は一杯ある。だがな、おまえさんの場合、まず嬢ちゃんより強くなって守れるようになんのが1番の恩返しだべ」


 おじさんはドヤ顔で言う。

 言外に「惚れた女は精一杯守ってやりな」といって居るのだが、もちろんキノには伝わらない。


「うん、強くなるねっ!!」


 額面通り受け取ったキノは心の中に打倒リルを掲げたのは言うまでもない。

 主が話しているから。と後ろでにこにこしながら話を聞いていたリルは突如襲った寒気に辺りを見回すのであった。


「しっがし、全然進まねぇのう」


 おじさんが言うように、並んでから時間が経って居るのに全く行列が進む気配がない。


「でも中には入れるんでしょ?」

「んだが、あんま遅ぇと宿屋がなぁ?」

「宿屋がどうなさったのでしょうか?」


 それまで口を出さなかったリルだったが、宿に関しては思う所があるのか話に加わってきた。


「あんま遅くなっと、良い宿屋は埋まっちまうんだわ」


 おじさんの言葉にリルは愕然とした顔で呟く。


「……そう……ですか。

 宿屋が開いていなければ、せっかく街に入っても泊まることはできませんね」


 実は「初めて宿屋に泊まれる」と内心ウキウキしていたリルである。


「そっかぁ、早く入らないと宿屋で休む事もできないのか。宿屋ってどんな所か興味あったんだけどなぁ」


 キノもリルに習ってがっくりとうなだれる。

 おじさんはどうしたものかと困った顔で2人を見るが、おじさんも悩みは同じなのでどうすることも出来ない。


《お勧めは出来ませんが、簡単に入る方法があります。いかがいたしますか?》


 そんな中、サブがキノへ提案を行う。


「えっ!? ……ゴホン」

《そんな方法あるの?》

《はい》

《教えてっ!!》

《ですが、あまりオススメは出来ませんよ?》

《大丈夫!!》

《……では、こちらの御仁を巻き込まないよう、行列から離れた後で私の言った言葉を復唱してください》

《分かった!!》


念話での打ち合わせが収まると、キノはおじさんに向き直る。


「ちょっとした考えがあるから待っててね」


それだけ言うとはてな顔のおじさんを残し、行列から離れ周囲を警護する兵士の近くまでいった。


《ここで良いかな?》

《バッチリです。では、行きますね。

 この国の門番は、この程度の行列も捌けないのか》

「えっ!? そんな事言って良いのっ!?」

《ええ、問題ありません》

「サブがそういうなら……

 ゴホン。

 この国の門番は、この程度の行列も捌けないのか」


 突然叫んだキノに、周囲の人たちの視線が集まる。中にはキノを見ながら隣の人に耳打ちする者も居る。


《ちょっ、ちょっとサブ皆がこっち見てるよ?》


 キノは慌ててサブに念話で問いかける。


《大丈夫です。毅然とした態度で、続けてください。

 さっ、次は俺だったら簡単に捌くことが出来るんだがなぁ。です》

「う……うぅ……

 俺だったら簡単に裁くことが出来るんだがなぁ」


 尚も続けるキノを中心にざわめきがどんどん大きくなっていく。

 その間もサブはキノに続きを話させる。


《次です。

 まったく、この街の門番はまったくなって無い》

「まったく、この街の門番はまったくなって無い!!」

《これじゃ、俺が門番をしたほうが全然マシだ》

「これじゃ、俺が門番をしたほうが全然マシだ!!」


 少しづつキノも楽しくなってきたのか、心なしかノリノリの口調になってきている。


《次で最後です。

 これだから税金泥棒って言われるんだ》

「これだから税金泥棒って言われるんだ!!」


 言い切ったキノは満足げな表情を取る。周囲は周囲で

「ええぞー、兄ちゃん」とか、

「よく言った!!」とか、

「権力のいぬー」と言う声が上がり、大騒ぎになっている。


 周りの兵士が騒ぎをなだめる中、1人の兵士が恐ろしい形相で歩み寄って来た。

 これには、調子に乗って挑発を繰り返していたキノも表情は出さず、内心で慌てまくる。


《兵士に詰問されてからが本番です。

 一言一句間違えないようにお願いします》

《ちょっ!? 兵士さんに喧嘩を売るなんて聞いて無いよっ!?》


 ちらりとリルのほうを見ると、がんばれーとばかりに手を握り締めて見つめている。

 行くも地獄、戻るも地獄。キノにとって、退路はすでに断たれている。


 しかも、兵士といった種属には同志(スライム)が目の前で何匹も殺されている。

 いわば、天敵に喧嘩を売っているといっても過言ではない。キノがいくら強くとも、腰が引けてしまうのは仕方が無い。


《大丈夫です》

「そこの旅人っ!! 何を騒いでおるか!!」

《来た~!! 来ちゃったよサブっ、どうしよう?》


 サブに言われているからか、顔にはまったく出していないが、すでに腰は引け足はガクガクと震えている。


《マスター、大丈夫です。

 次のセリフ、整理の仕方がなっていない。です》

《ううう……サブの事は信用してるけど……信用してるんだけど……怖い物は怖いんだよぉ……でも……》

「整理の仕方がなっていない!!」


 その言葉を聞いた兵士は怪訝そうに眉をひそめる。


「どう言う事だ? 少々弁解の余地を与えよう。言ってみろ」

《どうやら、理解のある兵士のようです。これはかなり助かりました。

 次は、

 いいか? ただ来た順に審査しているから遅くなるんだ。

 まずは行商、一般、冒険者の3つの列を作らせる》

「いいか? ただ来た順に審査しているから遅くなるんだ。

 まずは行商、冒険者、一般の3つの列を作らせる」

《その3列の先頭に兵士を置き、審査をする》

《あ、なるほど。

 大体何を言いたいか判ってきたよ》

《さすがマスターです。

 それでは残りの部分はマスターの言葉でお願いします》

《了解っ》

「3つの内、冒険者の数が一番多いだろうが、ギルドカードの提示で済ませられるはずだ。

 次に一般人。こちらは多少時間が掛かるだろうが、人数はそれほど多くないので、手早く終る。

 最後にそれなりの数が居て、審査にも時間のかかる行商人。こいつらは残った兵士を当たらせれば審査も滞りなく進む。

 列の整理に何人も兵士を使うのなら、それぞれの列の最後尾に行商・一般・冒険者の札を持たせれば、列の整理に使う人員も減るだろう?

 それだけで今の何倍の効率で、行列を裁くことが出来るはずだ」

《これで良いかな?》

《ええ、ほぼ思い描いていた内容に沿っております。

 マスター、知識の吸収がかなり早くなってきましたね》

《えへへ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ》


 キノの言葉を聞いていた兵士は、うんうんと唸る。


「ふむ……試してみる価値はあるな。

 ただし、お前は門番に不備な発言を行った。こちらで待機してもらうぞ」


 そういって兵士はキノを連れて門前まで行くと、他の門番に指示を出し、キノの言う通りに列の整理を行い始めた。


「私もお手伝いさせていただきます」


 リルが列から抜け出し、行列の整理を手伝い始める。


 端には冒険者と一般人に並んで貰い、中央には商人に並んで貰う。

 冒険者はいわば"ならず者"に近い雰囲気を持っている。普通の旅人と冒険者を隣り合わせにすると、いらない諍いが起こる可能性がある為だ。

 商人は護衛を雇う事も多く、冒険者の扱いにも優れている。中央に置くことでクッションになる事を意識してである。

 ……まぁ、いらない衝突を起こしやすい冒険者は冒険者同士でまとめた方が管理しやすいという側面もあるからだが……、これは何所の世界でも同じだ。


 ちなみに先ほどの人は守衛長で、この門の責任者だった。

 その為に伝達もスムーズに進む。さらに細かい所でキノへアドバイスを求め、意見を出すとその意見を吟味し、指示通りに門番を動かし続けた。

 相当な行列の内訳は、冒険者35人、商人12人、一般人8人である。

 その結果、一般人は15分ほどで行列が無くなり、冒険者は20分で門前の整理が完了した。

 これは途中で行列に参加した人間も含めての時間である。

 途中何人か「門限が過ぎだが入らせて欲しい」と言う一般人や冒険者が来たが、守衛長は快く応じていた。

 普段は諦めて野宿してもらうそうだが、「今日は入街者の行列が、手早く整理できたので特別に入って良い」と気前良く並ばせた為だ。

 一番人数の多い冒険者が短く、人数の少ない商人が今だに終っていない理由は、冒険者はギルドカードの提示と犯罪歴の照会のみで終わるのに対し、商人は荷物と"ポケット"の中身を出し、検分しなければならないという手続きがあったためだ。

門番には特殊検査魔法が使える者が居て、危険物や違法物の持ち込みは瞬時に確認できるのだが、商人には入市税というものが掛かる為、面倒が起こる。

 そして最後に商人の荷物のみとなった為、手の空いたキノとリルは守衛長から世間話という名の尋問を受けていた。


「君達は……見た感じ冒険者……のようにもみえるが、ギルドカードを見せてもらって良いだろうか?」


 列整理の中、キノとリルが一緒に行動していると知った守衛長は2人まとめて聞くことにしたようだ。

 ちなみにおじさんは既に検問を済ませ、苦笑いしながら2人に手を振って去って行った。


「えっと……ギルドには加入していないんだ」

「ほう……かなりデキルと思ったのだが?」


 守衛長の判断は確かだ。だが、2人が元魔物と聖獣とまでは気づく事はできない。


「ええと……」

《この辺はリルに知恵を授けています。

 マスターはリルに話をあわせてください》

《ん、判った。リル頼むよ》


 念話でキノに頼まれたリルは相当嬉しそうだ。尻尾がぶんぶんと振れている。


「今まで森で暮らしていまして、色々と世情や常識に詳しくは無かったのです。

 実は以前、キノ様が勇者に助けていただきまして、是非ともそのご恩返しがしたいと、住み慣れた森から離れこの街へやってきた次第でございます」

「ほう?

 勇者様の……さすがは勇者様だ。だが、貴方のような知恵者が森を出るほどの行動を起こすとは?」

「うん、勇者様は魔物に殺されかかった僕を助けてくれて、傷も治してくれたんだよっ!!

 更に凄いものまで授けてくれて……本当に命を掛けてでも恩返ししないといけないんだっ!!」


 【木の実】や【神の雫】といった単語は滅多に使わないようサブの助言済みの為少々ぼやかして答える。


「そうかそうか。

 さすがは我が国の勇者様だ。良い話だなぁ、おい」


 守衛長はキノの肩をバンバンと叩く。

 キノも守衛長の人となりを気に入ったのか、笑いながら叩かれている。


「うんっ!! それで勇者様の情報やどうすればお役に立つか、街に来れば判るかと思って」

「そうだな。

 我が国の勇者様はかなりの人格者だ。だが、役に立とうとしても……実際にPTに入るとかは難しいだろうなぁ。

 ナイショだが、今、勇者様は音信不通になっているんだ。暫く前に魔属領に入ったきり戻ってこないとも、戻ってきたとも言われていてな。

 となれば……月並みだが、ギルドに登録し、人のために働けば間接的に役立てるんじゃないか?」


 守衛長は眉根を寄せつつ、気なる事も加えてアドバイスをしてくれる。


「ふむふむ……なるほどなるほど……って、音信不通!?」

「森で出合ったのは、先日だったのですが……?」

「ふむ、なら何か連絡が交錯しているのか?

 まぁ、勇者様のお近くに居るには相応の実力と人格が必要になる。PTに入りお役に立つとしても、森の中に長く住んでいたんじゃ、直ぐに認められるのは難しいだろう」

「そうですか……」


 リルはキノのことを思い、声がか細くなってゆく。


「見たところ、実力は有りそうだし、人格も最初の発言以外は問題なさそうだ。

 最初のだって、こっちの気を引く為の発言だろ?」


 ニカっと笑う守衛長にキノは苦笑いで答える。


「ま、将来的にはおメガネにかなうかも知れねぇな」

「ほんとっ!?」


 これにはキノも飛びついた。


「あぁ、ホントだ。

 その為にはギルドで最低でもSクラスにならないとな?」


 聞きなれない単語にキノもリルも頭がハテナになる。


「Sクラスとは何でしょうか?」


 リルが聞くと、守衛長は詳しく説明してくれる。


「ギルドでは登録冒険者にクラスが設けられていてな、最低はFから最高SSSまである。

 SSSなんて滅多に見る事はできないだろうが、Sまでなら相応の実力と人格を認めさせればなる事が出来る」

「なるほど、ありがとうございます。

 ギルド……ですか、判りました。後ほど行ってみようと思います」

「ああ、見たところ金に困ってはなさそうだが、クエストをこなせば人の為にもなるし、金にもなる。

 一石二鳥だ」

「ご親切に色々と教えていただいてありがとうございます」


 リルが慇懃にお辞儀をすると、ここまでの美人に丁寧に対応される事が少ないのか、守衛長はほんの少し、顔を赤くして鼻っ柱を掻く。


「いや、こっちこそ、色々と助かった。ありがとうよ。

 おっと、商人の審査も終ったな。これで入街審査はお前ら以外終わりだ」


 最後にキノとリルの番となるが……


「さてキノ殿、今日はいい知恵を授けていただいた。

 おかげでいつもなら時間が掛かる入街審査が手早く片付いたよ」


 少々の付き合いとは言え、的確に指示を出していたキノに対し、守衛長は敬意をとる事にしたようだ。


「出来ればその知恵を、この貿易都市ソルトのために使って欲しい所だが……」


 途中暇な時間なども有ったので、キノとリルの事情なども話していた。

 キノは勇者に恩義があり、勇者の為に何か出来ることが無いかと話していたので、守衛長も無理には薦められなかったのだろう。


「まぁ、ギルドに所属し、民の為にがんばってくれ」


 守衛長はキノの方をばんばんと叩くと、笑いながら言った。


「っかし、キノ殿も隅に置けねぇな。

 こんな別嬪なお付きさんがいるのに、勇者様の尻を追いかけるたぁな」

「へ?」

「そんな……別嬪だなんて……」


 リルは褒められた事で嬉しくなる。尻尾がぶんぶん振られ、後ろでは砂塵が巻き起こりそうだ。


「まぁ、勇者様に少しでも近づけるように頑張りな。

 応援してるぜ」

「はい、ありがとうございます!!」


 余談ではあるが、勇者とは国ごとに伝わる"聖具"を扱う人物を指し示す。

 守衛長の言っている勇者と、キノの知っている勇者。同一人物であるとは限らない事を補足しておく。


「さて」


 守衛長はキノとリルの前に立つ。


「そんじゃ、最後になったが……」


 守衛長はキノとリルの手をとる。


「うん、色々とありがとう」

「為になるお話し、ありがとうございました」


 守衛長はにっこりと笑うと、その手に手錠をはめる。


「え?」

「へ?」

「門番を侮辱した罪で今日一日は独房にこもって貰うぜ?」

「「ええええええええええええええええええええっ!!」」

《最初に言いましたように、お勧めできません理由がこれです。……侮辱罪で独房にこもれば、宿の手配も面倒な入街審査も不要となります》

「聞いてないよーー!!」

「まぁ、規則ばかりはしゃぁねえと思ってくれ。

 いい独房にいれてやるからな」


 にっかりと笑うと守衛長は2人を肩に担ぎ、詰所へ向かっていった。


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