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008 街へ その4

「ぜっ……はっ……はっ……

 ねぇ? ……もうっ……そろそろっ……歩かない?」

「はっ……はいっ……はぁっ……

 そっ……ですねっ……

 そろそろっ……歩きっ……ましょう」


 あれから2時間、キノとリルは全速力で走り抜けた。

 距離として240km、東京から浜松を全速力で走り抜けたと考えて貰って良いだろう。……普通に考えると2人とも十分な人外である。


「はぁっ……はぁっ……

 ………………ふぅ、所でここ何所だろう?」


 辺りを見渡すと、一面砂ばかりの景色。目標となる地形も、目的となる場所も見当たらない。


《計算上ですが、ここは先ほどの神獣の森より南に240㎞の地点、レモングラス公国にあるレスカ砂漠の中心部となります》

「そっか、ありがと。

 でも喉渇いたぁ~、何かあったかな?」

「ええ、少々疲れました。2本足と言うのは、思ったより疲れるものですね」

《"ポケット"に水分はありませんが、マスターの魔法で水を生み出すことが出来ます》

「そうなんだ? じゃぁ、やってみようかな?」

《では、先ほどと同様に制御いたします》


 ユエルを助けた魔法【熱線(ブラスター)】は、キノ単独で行った魔法でなく、サブがアシストを行い、キノが発動という形で魔法を使っていた。

 【魔力の実】の影響で魔力量が膨大となったが、スライムであったキノに魔法知識と経験はまるで無い。そのため、魔法発動においてサブが魔力量、志向性を制御し、あそこまで緻密に、かつ迅速な魔法を展開する事ができたのだ。


「あっ、今回は緊急時じゃないし、練習したいから自分でやってみて良いかな?」


 そういうと、キノはサブの返事を待たず先日の魔法を使った感覚を思い出す。


(えっと……目の前に手の平を突き出して……魔力を収束っと。

 その魔力に属性を付与するようイメージを形作る。そして……発動っ!!)

《マスター、それでは「水よ出ろ!!」魔力をためすぎです》


 サブの忠告(むな)しく、キノの手の平から水がほとばしった。

 先ほどの"熱線"と同じ要領で、手の平から水の柱がほとばしる。

 ただし、"熱線"が指からボールペン大の大きさで発射されたのに対し、水の柱は手の平を中心に直径1Mはある。その水の柱が勢い良く、地平線のかなたまで飛んで行ったのだ。瞬間水量の大きさがそれだけでも判るだろう。


「え? うわっ? 何? とまらない~」


当の本人は驚いているが、水は止まらず。何時までも放水が続く。


《マスター、魔力の込めすぎです。

 現在、【魔力の実】の影響で、マスターの魔力は膨大な数値となっています。ほんの少し力をこめるだけでも、通常の魔導師10人分の魔力が放出されます》

「それって凄いの?」

《凄いどころではありません》

「キノ様、凄いです!!」


 リルは素直に感動しているが、水の放出は未だに止まらない。

 いつまでも続く魔法にキノはさすがに怖くなってきた。


「サブ、これって何時止まるか判る?」

《イメージと制御が不安定な状態で発動しました為、最低でも10分は続くかと思われます。

 周辺の地形、暑さ、状況を判断するに、水を上に吹き上げ、この辺りに水が溜まるよう調整したほうが良いかと思われます》

「あっ……うん、了解」


キノはよく判らなかったが、サブの助言どおり手を上にあげる。

そのまま10秒は立っただろうか? 激しい雨が、2人に降り注ぎ始めた。


「ひゃっ、これは凄いっ」

「キノさまっ、これでは服が……あっ……キノ様、こっち見ないでくださいっ!!」


リルは服が濡れたことで体の線が浮き上がり、さらに白いブラウスが透けてしまった為、あわてて自分の体を手で覆う。


「ええと……"ポケット"から服を取り出したいので、お借りして宜しいでしょうか?」


「あ、うん、どうぞ」


 キノはズボンにくくりつけていた"ポケット"をリルへ突き出す。

 リルはキノの腰から"ポケット"を取り外し、キノの背後に移動するとがさごそと物音を立てて着替えを始める。

 何をしているかキノは気になっていたが、リルに"見ないで"と頼まれたので決して後ろを見ることはない。


「キノ様、ありがとうございました。

 もうこっちを向いても良いですよ?」


 キノは"ポケット"を受け取る為、リルのほうを向くと一瞬固まった。

 何故なら、リルはスクール水着を着て顔を赤くして立っていたからだ。


「あっ……あの、似合い……ますか?」


 美しい銀髪をツインテールにまとめ、慎ましやかな胸とあいまって芸術的なまでに似合っていた。

 世が世なら、10人中10人はお持ち帰りしたいと言うだろう。

 だが、キノの精神は残念ながらスライム時のままだ。


「泳ぐ時用の服だね。うん、メイド服じゃ濡れると動きづらいし、良いんじゃないかな?」


 朴念仁真っ青の回答を返す。

 元々スライムは自己増殖で増える個体の為、そういった事にはまったく興味が無い。

 そんなキノへ向け、立場を変わってくれと心の叫びを持つ人はきっと5万はくだらないだろう。


「ありがとうございます」


 だが、その答えに満足したのか、リルは赤い顔のまま幸せそうに頬が緩んだ。尻尾がせわしなく動いている事から、間違いなく嬉しい事が分かる。

 この状態は可愛すぎる。

 先程の例題は訂正しよう。10人中15人が持ち帰ってあぐらの上に乗せ、頭をナデナデしたいと言う人が必ずいるはずだ。

 そんなやり取りの間にも雨は降り、既に土砂降りのようになっていた。

 地面も水分を吸収できる限界を超えたようで、すでに膝下まで水が溜まってきている。


「ねぇ、サブ……そろそろ不味くないかな?」


 不安にかられたキノはサブへ問いかける。


《問題ありません。

 計算上、リルの胸より少し上辺りで水は止まります》

「それは……大丈夫と言うのでしょうか?」


 サブは問題なさそうに言うが、2人はまだ不安が残る。

 リルの胸の上、大体1Mを少し超える水深までは止まらないということなのだ。


《ここは砂漠、水場が有って困る事は無いでしょう。

 また、この辺りは周囲に比べ、低くへこんでいます。地崩れなどが起こる心配もありません》

「……そこまで言うなら大丈夫なのでしょう。

 少々熱がこもっていたことですし、1時クールダウンしませんか?」


 リルとしてはよく判って無いが、サブの言を信じ大丈夫だろうと判断したようだ。



 水は少しづつ溜まっていき、リルの胸より少し上まで来た時、サブが言ったようにキノの手の平から放出されていた水がぴたっと止まった。


「あ、止まった」

「はい、止まりましたね」


 まだ雨は降り続いてるが、上空に放出された水が全て落ちてくるのを待つだけなので、直ぐに止まると考えられる。


「冷たくて気持ちいですが……まだ街へは遠いです。

 長くここにいては体力を奪われますし、そろそろ上がりませんか?」

「そうだね、サブ、どっちに向かえば街があるか分かる?」


 2人は岸を目指して歩き出す。


《このまま直進で約90㎞先にレモングラス公国における大きな街の一つ"ソルト"があります。

 マスターとリルであれば、走って1時間と言う所でしょうか。軽く流しても2時間あればつくと思われますが、歩きでは今日中にたどり着くかどうか……と言う所でしょう》

「なるほど……リル、どうしようか?」

「私はキノ様について行くだけです」

《また、現時刻より後2時間で城門が閉門されると思われます。

 砂漠での夜明かしはかなり危険な為、急ぐ事をお勧めします》


 この言葉でキノもリルも方針は決定した。


「じゃ、全速力で向かおうか」

「はい!!」


 2人は急いで水辺から出ると、サブが制御した風の魔法で身体と髪を乾かし、リルは服を着替える。

 白い太ももや、小さなふくらみがちらちら見えたりとか、形の良いヒップの記述などはありませんのであしからず。

 先ほどまで着ていた正統派メイド服から、走りやすさと涼しさを追求したミニスカメイド服を着用した。

 決して作者がメイド服が好きという訳ではなく、他の服は趣味に走ったものばかりだった為、消去法でミニスカメイド服しか無かったのだ。


「キノ様、似合いま……いえ、お待たせしました」


 急ぐと言う考えがあったからだろうか、リルは感想を聞くのをやめたようだ。


「うん、その服も似合ってるね。

 それじゃ行こうか」


 キノは素直にリルを褒めると手をとる。


「はい♪」


 満面の笑顔を見せ、リルはキノに取られた手をぎゅっと握りしめ、

「ご主人様は方向音痴なので、私が先導しますね♪」

 と言ってソルトに向けて駆け出した。




 余談ではあるが……この水辺は後に旅人に発見され、水が枯れるまでの間、貴重な水場として多くの旅人が助けられる事となった。

 後にこの水辺跡を中心とした町が形成され、コリアンダー皇国とレモングラス公国の架け橋となったのはまた別のお話である。


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