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053 王城に行こう その2

「お待たせしました。それでは王城に向かいましょう」


 人気のない居酒屋の一角で、キノ達が食事に舌鼓を打ちながら雑談をしていると、エィムズがエヌが執事然とした年配の男性を連れて合流してきた。


「紹介しよう。彼はここ王都のギルドマスターで、レモングラス公国内のギルド全てを取り仕切るカルエムさんだ」


 エィムズが紹介すると、カルエムと呼ばれた男性が深々と頭を下げる。


「ご紹介に預かりました、カルエム・L(リッツ)・パッカーソンと申します。お気軽に豚、もしくは犬とお呼びください。

 この度はソルトの街を救っていただき、誠にありがとうございます。貴方が報告にあったキノ様ですね?」

「えっと……豚?」


 思わずキノが返事をするとカルエムは頭を振る。


「おっと失礼、その呼称は女性のみでお願いします。勿論駄豚や卑しい豚、醜い豚などと呼んでいただけると最高です」


 とても良い顔をするカルエム正反対に女性陣の頬はひくひくと震える。

 カルエムはそんな表情を恍惚と見つめながら、フードの奥を一通り確認する。


「ふふ、確かに彼の方にそっくりです。……これは不備のないよう周知徹底しておかなければなさそうですね。

 そちらが従者のリル様ですか? ほぉ……確かに素晴らしい素質をお持ちのようだ。おっと、そんなに蔑まないでください、疼いてしまうではないですか。これならばエース様の覚醒を促したのも頷けます。将来が楽しみですねぇ。

 そして……えぇ、確かに。芹香様、よくお戻りいただけました。残念ながらギルドに所属していらっしゃいませんでしたが、この国に住む者として感謝を忘れることはありません」


 そう言ってカルエムは一枚のカードを芹香に差し出す。


「これは?」

「あなた様のギルドカードとなります。我が冒険者ギルドは、最大限貴女様をバックアップする事に決めました。その証明と思って受け取ってください」


 カルエムの言葉を受け、芹香はおずおずとカードに手を伸ばす。


「……多分、王家に睨まれるよ?」


 手に取る前に、芹香はカルエムに問う。


「王家より民の味方であれ。それがギルドの信念です」


 カルエムは柔らかに笑みを浮かべ、カードを芹香に握らせる。


「それに現王家であるワイルド家、それにシィーブン家に連なる者の了承は出ているので安心してください」


 エースも報告が終わったのだろう、ディエルを連れて芹香の横まで歩いてきた。


「と言ってもシィーブン家は私が勝手に名前を使ったのですけどね」


 ジュエルがはにかんで言う。

 芹香は二人を見ると、カードに置いた手に力を入れる。


「分かりました。受け取らせてもらいます」


 カードを手にとり、にんまりと笑うとそっとポケットにしまいこんだ。

 カルエムは微笑ましくそれを見届けると、次にリルに一振りの鞭を差し出した。


「これは?」

「貴方には、是非これを振るって頂きたい。我が冒険者ギルドは最大限貴女様をバックアップすると決めました。その証明と思って受け取ってください」


 カルエムの言葉を受け、リルは訝しげに鞭に手を伸ばす。


「バックアップとは、どのような意味ですか?」


 手に取る前にリルは疑問とばかりにカルエムに問う。


「貴方には女王様の素質がある。我がギルドの威信にかけ、立派な女王様となる為に最大限のバックアップをすると約束します」


 カルエムはとても良い顔をすると、リルの手を取って無理矢理にでも掴ませようとする。


「もちろんワイルド家が総力を持って支援致します!!」


 エースがすっごく良い顔でリルの肩に手を置いた。


「分かりました。受け取らせて頂きます」


 鞭を手に取ってにっこりと笑うと、天高く放り投げる。そっと爪を伸ばすと、落ちてきた鞭を細切れに引き裂いて、肩に置かれたエースの手を払いのけた。


「などと言う訳が無いでしょう。取り敢えず二人とも、そこに座りなさい」


 リルが地べたを指差すと、二人は嬉々として地べたに正座をする。


「何度も言うようですが、私は女王様などと言うものではありません。それとディエルさん、こちらに来てください」

「何だ?」


 突然の呼ばれたことに驚いたのだろうが、ディエルは素直にリルの側に行く。


「私が説教をしても彼等は更に気持ち悪くなるだけでしょう? ならば、常識を知っているディエルさんが、親切にこれ以上変なことを考えないように説教していただいた方がいいかと思いまして」


 リルの言葉を受け、うっとりとリルを眺めていたエースとカルエムは愕然とした表情になる。


「ちっ、仕方ねぇな。このクズ共に身の程って奴を一旦叩き込むとすっかね。(良いですよ。この二人はかなりの権力を持っています。あまり暴走のし過ぎはいけませんからね、注意しておきましょう)」


 ディエルがにっこりと、衛兵でも裸足で逃げ出すような優しい笑顔を浮かべると、エースとカルエムは絶望を浮かべ、すがる目でリルを見つめた。


「それでは、私達は王城で必要な作法をエィムズさんに聞くとしましょう。私とキノ様は王城など始めてですからね」


 リルさっくりと二人を無視し、エィムズ達とテーブルを囲むのだった。

 


----



「キノ君、良いですか。基本的な受け答えは私とエヌで行います。恐らくキノ君には魔王撃退時の話と、SSランクもしくはSSSランクの冒険者カードに関しての話が出ると思いますので、その時に聞かれたことだけを答えて頂くのが良いでしょう。

 なるべくキノ君やリル様には負担をかけないようにするので、大変とは思いますがよろしくお願いします」


 王城の謁見受付に並びながら、エィムズは最後の確認とばかりにキノへ話しかける。


「うん、分かったよ」

「ありがとうエィムズ。殆どの雑事をお願いしちゃってごめんね」

「いえ、キノ君や芹香様には、この程度で返せない恩を受け取ってます。

 それに得手不得手は誰にでも有りますからね。この辺は私とエースにお任せください」


 エィムズがエースに視線を送るとエースも答える。


「ええ、私とエィムズにお任せください。必ずや女王様の素晴らしさを皆に伝えて見せます」


 爽やかな笑顔でエースは答える。


「……エィムズ、彼はもうダメよ。二人でしっかりと支えましょう」


 エヌは可哀想な人を見る目でエースを一瞥するとエィムズを慰める。


「あぁ……

 まともで誠実で信頼できる人だったはずなんだが……どうしてこんな事に……」


 エィムズが頭を抱え、嘆いている間にも順番が来たようで門兵が問いかけて来た。


「見たところ冒険者のようだが……何の用だ?」


 多少高圧的な感を受けるが、エィムズは全く気にするそぶりを見せず、フードを少しだけめくって書状を手渡す。


「SSランク冒険者のエィムズだ。ギルドから緊急の報告で王に謁見を願いたい」


 その言葉を受けた門兵は急に背筋を伸ばし、裏返った声で返事をする。


「はっ!? エッ!? エィムズ様でしたか、申し訳ございません失礼いたしました。

 直ぐに報告してまいります。

 おいっ、この方々を今すぐ待機室に連れてけ。くれぐれも丁重にな」


 手紙を受け取った門兵は隣の門兵に声を掛け、そのまま城の中に走り去って行った。

 

「あ? ……え?」


 もう一人の門兵は事態について行けて居ない。恐らくエィムズの名に聞き覚えが無かったのだろう。

 だが、根が真面目なのか直ぐに姿勢を正し、代わりの門兵と案内役を手配すると一行を門の中へ通してくれた。


「侍従長のサリエヌと申します。滞在中のお世話をさせて頂きますので、よろしくお願い致します」


 門の内側では熟年の侍女が立っていた。侍女ではなく侍従長が来たことに門兵は驚いたが、サリエヌは気にした様子もなく奥まった部屋へ一行を案内する。


「謁見は準備が出来次第行われます。それまでこちらの部屋でおくつろぎください。何か御用がありました際は、そちらの呼び鈴でお申し付けつください」


 サリエヌが全員にお茶を配り、呼び鈴をテーブルに置くとうやうやしく挨拶をして退室した。


「ふぅ、やっと一息と言った所か。さ、女王様お座り下さい」


 エースがまるで「自分・・に座って下さい」とばかりにリルの目の前で椅子になる。


「では座りましょうか。さ、キノ様、芹香、一緒に座りましょう」


 リルは華麗にスルーすると三人掛けのソファに二人を案内し、共に座った。


「そう言えば、リル様と芹香様はとても仲が良いですね。お知り合いだったのですか?」


 リルと芹香は顔を見合わせると、キノにしたように「内緒です」と答える。


「ふむ? 確かに芹香様は人と仲良くなり易いですが、ここまでの仲の良さと言うのは始めて見ます……」

「それよりさ、なんでエース……さんはいきなり聖者様を襲って来たの?」

「そう言えばそうでしたね。あまりにも気持ち悪いので触れたく無かったのですが、原因ぐらいは聞いておきませんといけませんね」


 あからさまな話題逸らしだったが、他の皆も気になって居たのだろう。ジュエルやエィムズも「そう言えば」と気になり始める。


「よく聞いてくださいました」


 リルに話題を振られたからか、エースは見えない尻尾をブンブン振って話し始めた。


「これを見て下さい」


 エースが前髪をかき上げる。


「ぷっ……」

「ぶはっ……」

「……ちょっと」

「引くね……」

「?」


 それを見て男性陣は吹き出し、女性陣は更に引き、キノは何がおかしいのかと首を傾げた。

 エースの額にはでかでかと『男好き♡』と書いてあった。


「女王様からの侮蔑の視線……良い……」


 エースはリルからの侮蔑の視線を受け体を震わせるが、すぐにかぶりを振る。


「じゃ無い。この刺青は……ある国へ国王である父の護衛として、国交に向かった帰りのことです。砂漠を横断する為、直前の森で野営をした時に奴は現れました。

 襲撃犯はたった1人、ですが近衛の精鋭10人が束になって掛かっても呆気なく返り討ちにされるほどの腕前でした。

 私は死を覚悟し立ち向かったのですが……奴にとっては赤子の手を捻る程度だったのでしょう。笑いながら慰み者にされました。

 剣は折られ、鎧は引き裂かれ、服も破かれ、髪は逆モヒカンにされ、更に「イケメンマジムカつく」と言いながら額にこの刻印を押されたのです。

 その他にも筆舌に尽くすような辱めを受け、死を覚悟した時……父が奴に土下座をしました。

 奴は父がレモングラス国の王である事を知っていたのです。

 父も最初は一介の賊に屈するなどと、どれだけの辱めを受けても奴に屈することはなかったのですが……「村を一つづつ蹂躙する」と言われた事で心が折れたのでしょう。

 犬のう○ちを額で押しつぶしながら、奴に一切歯向かわない事、上納金を納める事、宝物庫に収められた【魔人の欠片】と言う神級アイテム渡す事を約束させられました。

 何とか美人で気だての良い人妻を月に一回差し出すという条件だけは勘弁して貰ったのですが……俺と父の命、そしてレモングラス国に手を出さない対価となりました。

 この額の刻印はどうやったのか、王宮専属の治癒師でも治すことが出来ませんでした。なので前髪で隠すしていたのです」


 言い終わると髪をくしゃくしゃと撫で、前髪で額を隠した。


「そうだったんだ……」

「ワイルド家のカモミール国への対応にそんな背景があったのですね……」

「道理で重要戦力の多くがカモミール国との国境に近いソルトの街に集められていたのですね」

 

 芹香とジュエルとエヌが納得したように頷く。

 色々と伏せて居たのにバレバレだ。


「その奴と言うのが悪魔王……だったのですね?」

「……ああ」


 最早隠しても意味が無い。そう思ったか、エィムズの問いにエースは素直に頷く。


「あの時は錯乱していたのだと思う。キノ様、本当に申し訳ございませんでした」


 エースはキノに向かって深く頭を下げる。


「ううん、いいよ。

 そんな大変な思いをしたんだったら仕方ないよね?」


 にっこりと笑うキノに、リルは多少不満げだが同意する。


「キノ様がそう言うのなら仕方ありません。

 私も許しましょう。ですが、気持ち悪いので半径5m以内には近づかないで下さい」

「ありがとう、キノ様、女王様。

 でもせめて2mで勘弁してください」

「嫌です」

「うぅ……ではせめてなじってください」

「もっと嫌です」

「じゃ、せめてぶってください」

「絶対にいやです」

「エース様、そこまでと言う事で……」


 調子に乗ってリルににじり寄るエースだったが、すぐにエィムズに取り押さえられる。


《マスター、恐らく彼の額の刻印は呪いの類でしょう。

 マスターの力なら取り除く事が出来ますが、いかが致しますか》


 サブがキノにアドバイスを出す。


「えっと……リル、良い?」


 キノがリルの顔色を伺うと、


「良いですよ。気持ち悪い人ですが、あのままと言うのも可哀想です」 

 

 という返答を受けた。


 「という訳でエースさん、額直す?」


 キノの言葉にエースは驚くが、すぐにかぶりを振る


「キノ様、気持ちはありがたいがよしておきます。この刻印は国最高の治癒師でも癒す事が出来なかったもの。たとえキノ様の治癒術に自信があろうとも、無駄に魔力を消耗させる事はないでしょう」

「いえ、エース様キノ様でしたら可能かもしれませんよ?」


 エィムズがにっこりと笑ってエースに答える。


「そうですわ、芹香の呪いだってキノ様が解呪したのですもの。きっとエース様の刻印も癒せますわ」


 エヌもエィムズに同意する。


「そうそう、試しにやってみるだけやってもらったら?」


 芹香も言うとエースは驚きをあらわにする。


「芹香様の呪いも!? ですがあの呪いは異国の賢者様でも匙を投げた……」

「ふぅん? 疑うなら証拠をみせたげる。 "クシカツ"来なさいっ」


 芹香が右手を掲げるとそこに光る槍が出現した。


「それはっ……まさしく聖槍。ではまさかっ!?」

「うん、お願いしてみるといいよ」


 芹香の笑顔にエースはこわごわとキノを見る。そしてもう一度頭を下げた。


「キノ様、お願いしても良いでしょうか?」

「うん、いいよ」


 キノはにっこり笑うとエースの額に手を置いて念じた。


「治れっ」


 キノの手に柔らかな光が集まり、じわじわと光がおさまってゆくと手を離した。


「これでどうかな?」

「流石聖者様……」


 芹香の思わずといった感じで呟く。エースの額から"男好き♡"の文字は消え去っていた。


「エース、見て御覧なさい」


 エィムズが剣の腹を鏡のようにしてエースに差し出した。


「こっ……これはっ!!」

 

 エースは剣を掴むとマジマジと見つめた。


「消えたっ……あの悪夢の文字がっ……消えたっ!!

 ありがとうキノ様……いや、私も芹香様の言葉を使わせていただこう。

 ありがとうございます聖者様っ!!」


 エースは先ほどまでよりも更に深々と頭を下げる。こうしてキノを崇め奉る人間が更に1人増えたのである。

 周りの人々も温かい目でエースを眺めていた。


"コンコンコンッ"


 ひとしきり落ち着いたところでドアがノックされる。


「準備が出来たのでしょうか?」


 ジュエルが帽子を目深にかぶり直しながらドアの方を見る。先ほどのサリエヌが戻ってきたのだろうか?


「開けてもよろしいですか?」


 リルが確認すると、全員がフードや帽子を直しながら頷く。


「では、開けます」


 リルがドアを開けると、サリエヌが立っていた。


「謁見の準備が整いました。皆様がよろしいようでしたら案内致しますので、私の後ろについてきてください」


 サリエヌの問いにリルが答える。


「大丈夫です」

「判りました。それでは参りましょう」


 一行はサリエヌの後について謁見の間へと向かうのだった。

お尻に"男専用"も考えたのですが、流石に可哀想すぎなので辞めました(ぇ


 夏休み期間となり、仕事が鬼のように忙しくなっています。

 更に風邪で仕事以外手に付かない日々が続いている為、更新が滞りますがご容赦くださいませ。

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