005 街へ その1
多数のお気に入り登録ありがとうございます。
今回は少々短めとなっております。
「さて、まずはどうしたら良いかな?」
キノの疑問にサブがアドバイスを行う。
《まずは勇者様の種族、"人間"を知る所から始めてはいかがでしょうか?》
「そうだね。リルもそれで良い?」
キノの問いかけにリルは嬉しそうに答える。
「はい、何処までもご主人様に着いて行きます」
《ここから1番近い人の集落は、東へ1日歩いた所へあります。そこが良いでしょう。)
サブの言葉に2人は顔を合わせ、頷く。
「じゃ、それで」
さっくりと方針が決まった所で、キノは歩き出す。
……北を向いて。
「キノ様、どちらへ?」
リルの問いかけに、真顔で「街へ向かうんだけど?」との返答を返す。
《マスター、今向いているのは北です。 右を向いてからお進みください。そちらが東になります》
「あ、うん……了解」
キノは右を向いて歩き出す。180度向いたせいで今度は南に向かって……
《……リル、マスターの前を歩いてください。マスターはリルについて後ろを歩いてください》
「判りました」
「うん? 了解」
今度はリルがきちんと東に向かって歩き出し、その後ろにキノが続く。
歩きながらリルはキノへ問いかける。
「もしかしてキノ様って、方向音痴ですか?」
「どうだろう? 確か最初は仲間のスライムと一緒に行動してたんだけど、いつのまにか1人で行動してたし、草原に戻るはずがこの森に来てたけど……それって普通じゃないの?」
何を当たり前の事を? といった感じでキノが小首を傾げる。
《方向音痴の定義、自身のいる位置を見失いがちな性質のある人の事。
この内容とマスターの話から、重度の方向音痴と判断します》
「えっ!? ああ……そうなんだ? ……らしいよ?」
サブの言葉に戸惑いながらも方向音痴を認めるキノ。
「キノ様……見失わないよう気をつけます……」
《念話は半径100kmまで可能。はぐれても会話で見つかる確立は45%ですね》
決意を新たにするリルだったが、サブの言葉で微妙な空気になる。
「低いね……」
「低いですね……」
暗くなった雰囲気を払拭するように、キノは新しい話題を提供する。
「そういえば、詳しく言ってなかったよね?
勇者様に助けて貰ったのって、この森だったんだよ」
「この森で……ですか?」
「うん、この森に迷い込んできた所で、オークに捕まってね……」
キノは歩きながら、この森に迷い込んでオークにいたぶられた事。
3人の勇者達に助けて貰い、回復までして貰った事。
惜しげもなく【木の実】を分け与えて貰った事を話した。
「ステキな話ですね」
「だよね?」
「ええ、私を襲った4人組の冒険者とは大違いです」
「リルを襲ったのは4人組だったんだ?」
「ええ、ですのでキノ様の勇者様とは違う方だと思います。
神獣殺しの呪いが怖かったのか、仮面を被ってたため顔は見えなかったですが、リーダー格の男と『アイン』、『ツヴァイ』、『ドライ』という名前の4人組でした。
キノ様の恩人ですか、私にとっても恩人ですね。今度会ったら教えてください」
いろいろな理由があった訳だが、同一人物である事に間違い無いようだった。……リルにとっては、合わない方が幸せなのかもしれない。
「なら良かった。勇者様に会ったら、良い子でいるんだよ?」
「はい!!」
この2人の笑顔の為にも絶対に会わないほうが幸せだと思います。リルはもちろん、元勇者と同化したキノも……
会話も一段落し、次の話題に移ろうとしたところで、リルは耳を小刻みに動かす。
「リル、どうしたの?」
リルは眉根を寄せると、若干不機嫌な声で答える。
「はい、遠くから戦闘音が……これは向かってる方向からですね? 聞こえます」
真剣な顔で正面を見据える。
「そっかぁ、危ないから迂回していこうか?」
「……はい」
キノの決断にリルは浮かない表情で返事をする。
戦闘が気になるのだろうか?
《マスター、勇者の役に立つと言うのは困っている人を助ける事も含まれます。マスターの身の安全を考えればそれが正解ですが……
宜しいのですか?》
サブの言葉にキノは小首を傾げ、何かを考える。が、すぐにリルへ顔を向けると答えを出した。
「そうなんだ? じゃあ、困ってる人が居るかもしれないし、向かってみて良い?」
「はい!!」
キノの問いにリルは嬉しそうに頷くと、すぐさま駆け出し、キノはその後ろをついてゆく。
リルは心の中でサブに感謝をしつつ、キノはリルの表情の変化がどうしてだろうと考えながらもついていった。
2人の速度は早く、遠いと言っていた距離10kmを所要時間たった5分で走破するほどのスピードだった。
5月12日:リルの名称が間違っていた点を修正しました。
ご報告頂いた菊花皐月さん、ありがとうございました。
「っ」が「つ」になっていた点を修正致しました。
ご報告頂いたセキシンさん、ありがとうございました。




