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048 王都へ その4

《妙案を思いついたので、このままでも問題ありませんが》


 続けて言われたサブの声にキノはそのまま歩きつつ疑問をぶつける。


《妙案って?》

《あの芸人のお陰で安全な【空間操作】の運用を思いつきました。

 少々前例のない試みですので、そのまま人気のない場所へ進んでください。》

《ん、判った。

 でもそれなら間違ってるとか言わなくていいのに……》

《それはそれ、これはこれです。間違いは訂正しなければ自覚していただけませんからね》

《うう……はい》


 そのまま5分ほど歩いていくと、深夜のお店が並んでいるあたりにきたのだろうか? 建物が並んではいるがぽっかりと人の雰囲気が薄くなる場所に出た。


《ここで試しましょう。路地裏に》

《ん、判った》


 サブに言われて路地裏に入っていくと、いかにもと言った感じにゴミ箱が並び、人気が全く感じられない場所に出る。


《では、説明からいきましょうか。

 まずいつもの【空間操作】は物体そのものを転移させるスキル、というのは訓練したキノ様ならご存知ですね》

《うん》

《ですが【空間操作】というスキルを紐ほどいてみると、文字通り空間を操作する事が出来るとわかります。

 移動の為だけのスキルと思っていましたが、それ以外の用途もありそうですね》

《そうなんだ?》

《はい。そして移動に関してもですが、新しい方式が考えられました。

 物体自体を移動させるのではなく、空間を繋げるという方法です》

《繋げる?》

《はい、先ほどの芸人はトリックがありましたが、Aと言う地点からBという地点に物を移動させていましたよね?》

《そうだね。サブに教えて貰わなかったらまるっきり判らなかったなぁ》

《そうですね。

 では、あの芸をトリック無しで行うにはどうすればいいか判りますか?》

 

 サブの質問にキノは首をかしげてうんうんうなりだす。


《う~ん……あっ!! テーブルの下で筒が繋がっていれば人が要らないよね?》

《確かにそれもありですが、それだと出る側が必ず決まってしまいます。今回は繋げると言う意味では一緒かもしれませんが》

《それじゃ……う~ん……》

《マスター、例えばAという地点とBという地点に紙を置くとします》

《うん》

《その紙の表面が繋がったらどうなるかお分かりになりますか?》

《あっ!? それなら芸人さんの芸がトリック無しでできるね》

《そう言う事です。

 先ほどのツェット家の男も、その可能性を考えて【転移術者】と声をかけたのではないかと思われます》

《なるほど~》

《その可能性をマスターなら行う事ができるのですよ?》

《えっ!? そうなの?》

《ええ、空間操作でAという地点とBという地点を繋いでしまえば良いのです》

《ふむふむ》

《それが出来れば、境界を越えるだけで地点移動をする事が出来るのです》

《なるほど!!》

《判っていただけましたか?》

《うん、それでここに来たんだね?》

《その通りです。それではやってみましょうか》

《判った。う~ん……》


 キノはサブのアドバイスに従ってイメージを膨らませ始める。


《繋がる箇所はシチミが見えた荒野かソルトを出たところが良いでしょう》

《うん。う~ん……》


 キノが唸り、魔力が集まるが空間が変質する様子は見られない。


《マスター、この空間と先ほど見た光景を繋げるのです》

《う~ん、判ってるんだけど……中々イメージするのが難しくて》


 それからもキノは唸るが魔力が形にはならない。


《そうですね。それでは何かで一旦さえぎるのはどうでしょうか?》

《さえぎる?》

《ええ。例えばそうですね……丁度いいです。路地の奥にある壊れた建物に近づいてください》

《うん、判った》


 路地の奥までいくと窓が割られ、人の気配が全くない建物があった。


《その建物のドアは開きますか?》


 サブの指示通りに建物のドアを開けてみると何の抵抗も無く開いた。


《えっと……開くね》

《それは良かったです。では、この扉のを1度閉め、奥に先ほどの景色があると思い浮かべてください》

《え? あっ!! うん、判った》


 キノはドアを1度閉めるとまたう~んう~んと唸りだした。

 今度は魔力がドアの内側に集まり、層をなす感じが伝わってくる。


《そろそろいいでしょうか? 開けてみてください。》

《うん》


 キノがゆっくりとドアを開けると、そこにはシチミの街が遠くに見える草原が広がっていた。


「わっ!?」

《成功です。まずはこの間を通るのに問題がないか確認してみましょう。そうですね、地面に落ちているビンでも投げてみましょうか》

「うん、判った」


 地面に落ちていたビンを投げると扉を素通りし、草原へと落ちる。


《どうやら問題もないようです。それでは通りましょうか》

「へぇ、凄いねぇ。これって何所にでもいけるし"どこでも○ア"って名付けて?」

《いけませんっ!! それを名乗っては消されてしまいます》


 滅多にないサブの剣幕にキノは驚いてしまう。どうやらその名称は一線を越えてしまうようだ。


「そっ、そうなの?

 じゃ、転移ドアって名前にしておくよ」

《……ドア越しじゃなくても使えるよう精進してください》

「うっ……うん、判った」


 キノは大人しく頷くとドアの向こうに足を踏み出そうとする。


「お兄さんどいてどいてー!!

 ちょっと通してもらうよっ?」


 少年の声がすると人影がキノの横を通り抜け、開いたドアを通ってその向こう側に行ってしまう。


「あっ、ちょっと待って……」


 キノが戻ってくるように口を開くが、遠くから怒声が響く。


「あのガキは何所に行った?」

「こっちだっ!! こっちに足跡が向かっている!!」


 声は少しづつキノ達に近づいて来ている。


《マスター、どうやら彼は追われているようです。

 丁度人体での移動確認もできた事ですし、お礼に逃げる協力をしてあげましょう》

「うん、判った。じゃ、行こうか」


 キノはそのままドアの向こう側へと足を伸ばす。

 ふわっとした浮遊感を受け、すぐにドアの向こうにキノは降り立った。


《あとは繋がった部分を霧散させてください》

「うん」


 ドアが閉じパタンという音が響くと、そのまま繋がった空間も揺れる様に消えていった。


「えっと……あれ?」


 空間が消えた事を確認したキノは、さっきの少年が走って言った方向を見て言葉に詰まる。


「きゅう……」


 最初に投げたビンに躓いたのか、地面に思いっきり頭をぶつけて気を失っている少年がそこには横たわっていた。

 ぼろぼろのローブにボロボロのマント。帽子を目深にかぶっている為素顔は見えない。


《とりあえず癒しておきましょうか?》

「そうだね」


 キノは少年の横に座ると手に癒しの光を乗せ、少年のおでこに淡い光を灯す。


 


「んっ……ううん」


 すぐに少年は気がつくと、服の裾を気にしながら辺りを見回す。


「やぁ」

「ひっ!?」


 キノを顔を見ると、少年は一瞬引きつった声を出し後ろに下がる。


「こんにちは、僕はキノ。

 君は?」


 キノの暢気な挨拶を受け、少年はホッとしたため息をつくと姿勢を正した。


「君は……助けてくれたんだね? 私……じゃない、僕の名前は……ええと……そだっ、僕はジェイク。ジェイクって呼んで」


 いかにもな偽名で名乗る。


「うん、ジェイクだね。よろしく。それで言いにくいことなんだけど……」


 キノの言葉を受け、ジェイクは改めてあたりを見渡す。


「あれ? ええっと……僕は町であいつらに襲われて逃げていたと思ったんだけど……」

「えっとね、僕の転移ドアに紛れ込んでシチミの町の見える草原に出ちゃったんだ」


 ジェイクはその言葉に絶句し、町の方角を眺めた。


「シチミ!? 確かにそれらしい建物が……それじゃ、貴方は転移魔導師なの?」

「転移魔導師?」

《転移魔法を使えるようになるため、長い年月を費やした人間の総称です。転移魔法を使える者のみが名乗れる名誉職と思ってもらって結構です》

《そうなんだ?》

《ええ、ですのでここは頷いても問題ありません》

「えっと、そうみたい……だね?」


 キノが頷くと、少年は勢い良くキノの手を取った。


「やったっ!! 見つけたっ!! お願いですっ!! 力を貸してください!!」

「ええ……と?」


 急に手を取られ、お願いされる事になったキノは困った顔をするが、ジェイクは断られると思ったのだろう。尚も身を乗り出してくる。


「お願いしますっ!! 出来る限りのお礼なら何だってしますっ!! だからっ!! お願いしますっ」


 その場で土下座でもしそうなぐらいに頭を下げる。


《マスターどのような判断でも従いますが、少年の理由や内容。芹香達を王都へ護衛する任務の途中と言う事をお忘れなく》

「あ、そうだった……えっとね、僕は今やらないといけないことがあるんだ。理由によってはその後でも構わない?」


 キノの言葉に少年は顔を上げる。


「構いませんっ!! その後に手伝っていただけるのであれば、何時まででも待ちます!!」

「内容も聞いてみないとだけど、リルが駄目って言ったら受けないかもしれないよ? それでも良い?」

「はいっ。

 リルさんとおっしゃるのは仲間の方ですか?」

「そうだよ。それじゃ、合流に向かおうか」

「判りましたっ!!」


 そう言って少年はキノの手を繋いだままシチミの町へ向かおうとする。


「あ、こっちじゃなくって向かうのは【シュガー】って町」

「え!? あの……すでに日が傾いていますよ?」


 ここ、シチミからシュガーまでは片道5時間はかたい。普通ならば……だが。


「大丈夫、大丈夫。それじゃ、行こっ♪」


 キノは繋がった手をそのままに、今度こそシュガー目指して駆け出した。


《マスター、もう少し左……そっち行き過ぎです。戻ってください右っ……右っ!!》

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