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046 王都へ その2

 砂漠を抜け、草原に砂煙を巻き上げながら1人の少年が走り続ける。


《マスター。マスター、お気づき下さい》


 何度語りかけただろうか、サブの声が虚しく響く。


「っぷは~、久しぶりに目一杯走った。……うん、ちょっとだけ疲れた」

《マスター、聞こえてますか? マスター》

「あ、ごめん。どうしたのサブ?」


 やっとで気が済んだのか、足を止めたところでキノはようやっとサブの声に気付く。


《やっと聞いてくださいましたか。

 マスター、リル達を置いてきています》

「……え゛?」


 サブの声でやっと気付いたのか、辺りを見回す。


「あれ~? なんでついて来てないの?」

《…………》


 キノの呟きにサブの返答は無い。サブに実体があれば白い目で見ていた事に気付けるだろう。

 キノはじっとりとした冷や汗をかき始めたところでやっと気づく。


「えっと……もしかしてはぐれた?」

《もしかしなくともはぐれました》


 ノータイムで返事が返る。


「どこら辺ではぐれたかなんて……判らないよね?」

《初めから。向かう方向自体。間違っています》


 またもノータイムで返って来るサブの返答に、キノは額から滝のように汗が噴出す。


「えー……っと」

《護衛対象を置いてきぼりにした上、道に迷いました。私が最初から止まるよう言っていたにもかかわらず50分ほど爆走し、方角から計算するに現在は目的地である宿場町【シュガー】より北へ10km、東へ30km離れた場所に来ています。目の前に見える街は【シチミ】という街で、行程としては2日目に通り過ぎる。もしくは泊まる予定だった街です》


 キノは目の前に見える柵で覆われた街を見る。


「凄いね。もうそんなに進んだんだ? 目の前の街がシチミ?」

《マスター、他に言う事があると思うのですが?》

「へぇ、ソルトと違って城壁に囲まれている訳じゃないんだ? 柵で囲ってるだけで魔獣の襲撃とかは大丈夫なのかな?」


 サブの問いかけに全力で目をそらしながらキノは言葉を続ける。


《この辺は魔獣による被害が無いと言うことでしょう。規模としては宿場町と言ってますが、農村に毛が生えた程度です。

 魔獣の脅威が多い場所や、相当大きな街でもなければ城壁で囲む必要はないのでしょう。

 で? マスター、何か言う事があるのではないですか?》


 サブは律儀に答えつつも再度繰り返す。


「でも馬に乗った人たちが一杯向かってるよ? 結構賑わってるんだね?」


 キノの目の前では、らくだに乗った20人ぐらいの服装や人種、装備がバラバラの集団が「ヒャッハー」等の奇声を上げて街へと駆けている。


《そうですね、そう言う事もあるのでしょう。で、言うべき言葉は?》

「えぇっと……それは……あ、柵を燃やしてる。あんな事していいの?」


 先ほどの集団は柵に取り付くと雄たけびを上げながら火を放ち、斧や剣を振り上げている。


《そのようですね。で? ずっとマスターに呼びかけていた私にも何か言うべきと思うのですが》


 どう見ても盗賊団に思えるのだが……サブは相当怒っているのか、キノへ対する返答もおざなりになってきた。


「えっと……あれっていいのかな? って目が合った? うわっ!? 弓を撃って来たよ!?」


 街を襲っていた盗賊団がキノを見つけたのか、2人ほどの男性が弓を構えながら、らくだの鼻先をキノへ向け近づいてきた。


《そのような事もあります。マスター、最早私のアドバイスは要らないと言う事でよろしいのですね?》

「わー!! ごめんっ!! ごめんなさいっ!! サブに見放されたら困るよっ? お願いっ、許して!!」

《謝ればいいのです。今後は1人突っ走ると言う行動は絶対にやめてくださいね? 次やったら本気で怒ります。

 それと、先日会得した【闇の衣】がありますので、芹香さんが"くしかつ"を開放している時以外、マスターを害する者はおりません。ご安心下さい》

「はいっ!! ごめんなさいー!!」


 盗賊は次々と矢を射るがサブの言う通り、キノの目の前で矢は何かに当たったように弾かれて地面に落ちる。


《判ればいいのです。で、あれは盗賊ですね。

 シチミを襲おうとしているので、すぐにでも鎮圧しましょう》

「うん、分かった。取り敢えず剣を振りかざして迫ってくるあの人達は倒しちゃって良いよねっ?」


 キノはサブに確認を取りながらも、盗賊に向けてとび蹴りを放つ。


「げぷっ!?」

「ぎゃっ!!」


 盗賊2人は変な声をあげて落馬するが、キノはそのまま街に向かって駆ける。


《百害あって一利なしの存在です。しっかりと駆除しておきましょう。一匹見つけたら100匹は居ますからね。

 ついでにあの盗賊はマスターに弓を射ってきました。マスターに手をあげた代償が如何ほどのものか身をもって知ってもらいましょう》


 Gも真っ青の繁殖力である。先程はキノの反省を促す事をゆうせんしたようだが、サブもキノへの攻撃にお冠だったようだ。


「了解っ!!」


 キノは走りながら右掌を柵に向ける。


「取り敢えず火を消そうっ。サブっ制御お願い」

《分かりました。丁度良いです、火を消しつつ賊を退治しましょう。

 柵と賊を微小の水滴で覆うようにイメージしてください》

「判った!!」


 キノはサブに言われたように念じると、火で覆われた柵とそれを壊そうとしている賊の足元から濃霧が立ち込める。


《そのまま水滴が一瞬で蒸発するようにイメージを》

「うんっ!!」


 キノが念じると濃霧が巨大な質量を持って爆風をあたりに撒き散らした。

 水蒸気爆発である。


「ぷわっ!? 何っ!?」


 【闇の衣】を纏っている為キノにダメージは一切ない。

 だが、暴風で柵の破片が吹き飛ばされ、周辺に小規模な爆発が起こり全く視界が見えない。


《水蒸気爆発と言う現象を発生させました。

 爆風と水蒸気で火は吹き飛びましたし、賊も吹き飛んだでしょう》


 サブの言う通り、柵は吹き飛んで無くなって居たが、賊は吹き飛び柵の破片などが刺さって地面に倒れて居た。


《らくだは巻き込まれただけですので癒しておきましょう》

「うん、分かった」


 キノは倒れているらくだに駆け寄っては癒して行く。


《後は賊が暴れないように縛っておきましょう》

「えっと、縛る物はどうしよう?」

《賊の服を切り裂けば問題ありません》

「了解っ」


 今度は痛みに呻いている賊をひとところに集め、片っ端から服を剥いて縛り上げて行く。

 剥いた服で賊を縛って居たところで、キノは視線を感じ街の方を振り向く。そこには鍬や鎌を持った街の住人がキノと重なった盗賊を油断なく見据えて居た。


「お前っ、なっ……何者だっ!!」


 キノと目が合った若者がどもりながらも果敢に叫ぶ。


《丁度良いです。賊の始末は彼らに任せましょう》

《そうだね。そうしようか》


 サブの提案を受け、若者に向かって声を掛ける。


「えっとね。この人達が柵に火を掛けてたから取り押さえたんだ。後は頼めるかな?」


 その言葉に住人の半分が安堵した表情になるが、若者は気を抜かない。


「お前が仲間で油断させてから襲ってくると言う可能性もある。騙そうったって、そうは行かないからなっ!!」


 指が白くなるほど鍬の柄を握り締めながら男はキノを睨む。


《マスター、ここで問答を繰り返しても時間の無駄です。

 立ち去るから後は任せると言ってシュガーへ向かいましょう》

《そうだね。そうしようか》


 成り行きで賊を殲滅した為、サブは身の潔白を証明する気はなかった。


「じゃ、僕は街に入らないで行くから、この人達お願いね」

「えっ!? あっ!!」


 予想外の答えに一瞬ほうけた若者だったが、すぐに踵を返し走って行くキノを見て言葉を失った。


「若長っ!! こいつはこの辺りを荒らし回って居た"鮮血の鷹団"だっ!! しかも首領までいるっ」


 取り急ぎ賊を縛ろうと近づいた男性が、倒れている男を見て声を上げる。


「って事はあの男は本当に助けてくれただけだったのか……しかし"鮮血の鷹団"をたった一人で潰すとか、一体何者だ?

 いや、まずは礼を失する発言をしてしまった。しかも、報酬を奪う結果にも……」


 若長と呼ばれた若者は自分の勘違いにすぐに気づき、街を助けてもらった礼を言っていなかったことを悔やんだ。

 盗賊を倒した際、盗賊の装備や所持品の所有権は討伐者の物となるのだが、結果としてそれすらも奪い取った形となる。


「若長、今回の事は……」


 すぐ後ろにいる男性が若長に声を掛ける。そこには非難の色が含まれている。


「ああ、分かっている。……あの実力なら名の知れた冒険者だろう。公王様へ報告し、後ほど礼と謝罪を受け入れて貰えるよう頼んでおく。

 それと、金目の物はすべてあの男の物だ。絶対に手をつけないように厳命してくれ」

「分かりました」

 

 指示を受けた男性は周りに若長の言葉を伝えると、盗賊を縛り上げて行くのだった。





「ぜえっ……ぜえっ……ぜえっ……ねぇ、今度こそどうかな?」


 逃げ出した後はサブの言う通り行動して来たキノだったが、何故か全く違う町に着いてしまい、同じようなやりとりを3度程繰り返した。

 その結果、近辺にあった盗賊団が軒並み壊滅となったが……未だ目的地にはたどり着けない。


《マスター、何故こうなるのか不思議でなりません。……目の前にそびえる城門はレモングラス公国の王都です》

 

 いや、ある意味目的地にはついたと言うべきか、キノの目の前には王都の城壁がそびえ立っていた。


「……あれぇ?」


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