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043 戦後処理 その4

「ただいまぁ」


 宿屋【儲け亭】の扉を開き、芹香が中に居るジェイへ声をかける。


「おぅ、お帰り。聖者様達はどうしたんだい?」


 ジェイが声を掛けると芹香に続けてリル、キノ、エィムズ、エヌが入って来た。


「もう一晩よろしくお願いします」

「ただいまぁ」

「ジェイ、ご覧の通りだ」

「また、よろしくお願いしますわね」


 一行を見てジェイの頬は緩む。


「そうか。やっと和解出来たか」

「ええ、時間がかかってしまいましたが、やっと謝罪することが出来ました」

「ジェイ、今までありがとうございましたわ。やっと芹香の隣に立つことが出来ました」


 エィムズとエヌは照れ臭そうにジェイに頭を下げる。


「カッカッカッ、今日はめでてぇ日だな!! ちょうど良い、ケイ!! 来いよっ!!」


 ジェイが店の奥に声を掛けると返事が返ってくる。


「はーい」


 店の奥からウェイトレス姿に身を包んだ16・7歳の少女がパタパタと駆けて来た。ジェイ譲りか、同じ茶色の癖っ毛と瞳だが、強面のジェイと違い線の細い柔らかなイメージだ。クダンが無理やりにでも手篭めにしようとしたのも頷ける美しさ……まさに美少女と野獣だ。


「ケイ、彼が聖者様とそのお付きの方だ」


 ジェイが紹介すると、ケイはキノ達の方を向く。ケイはそれまでの動きが止まると、途端に白い頬がバラ色に染まる。


「貴方が……私を助けて下さった聖者様なのですね? あぁ……夢に見たように素敵な殿方」


 惚けたように呟き、ケイはゆっくりとキノ達へと近づいて行く。逆に芹香とリルの表情はこわばり始めた。

 

「むぅ、だからケイに見せたくなかったのに」


 ぶーたれる芹香を全く気に留めず、ケイは両手をぎゅっと握り締め、そのまま胸元へと抱え込む。


「あの……どうか……お名前をお聞かせください、聖者様」


 キノ達の前に立つと、意を決したように顔を上げる。


「えっと……」


 急な反応に困ったキノは隣に立っていたエィムズと目を合わせる。


「ケイ……だったね?」


 エィムズが口を開くと、ケイはゆっくりと首を振り身を乗り出す。


「何も言わないでください、聖者様。

 私は貴方に救っていただいたの。私は聖者様になら……全てを捧げられますわ。」


 その目はまさしく恋する乙女であり、その様子には芹香もリルもキノも口を閉ざし、固唾を見守ってしまう。


「聖者様、どうか私を受け入れて下さい……」


 ケイは潤んだ瞳でまっすぐに見上げ、エィムズ(・・・・)の胸に飛び込んだ。


「ケイ……と言ったね? 申し訳ないけど芹香が聖者と呼んでるのは私ではなく、キノ君なんだよ?」


 見上げられたエィムズは、困った顔で隣にいるキノを指し示した。


「…………ぷふっ」

「…………くす」

「…………ふふっ」

「あちゃぁ……」

「えっと……やあ」


 必死で笑いを堪える芹香とリルとエヌ。それを見て頭を抱えるジェイ、取り敢えず笑顔で挨拶するキノを見てケイは別の意味で顔を真っ赤に染め上げる。


「えっと……その……恥ずかしいぃぃっ!!」


 ケイはおろおろとエィムズとキノの顔を交互に見渡した後、叫びながら店の奥へと駆けて行った。


「あー、その……すまねぇ。俺がこんなだからかイケメンに弱くてな……それにエィムズ達と会うのも初めてだったんで分からなかったんだろう。ん〜、まぁ、今後の予定について聞かせてもらって良いか?」


 フォローにもならないフォローを入れ、強引に話を逸らすとカウンターへと5人を案内し、当たり障りのない範囲で話を聴き始めた。



「となると早ければ明後日には出て行くのか?」


 芹香から大まかな予定を聴き、ジェイは目を丸くする。


「うん。急ぎじゃ無いんだけど王都までだと結構時間がかかるからね。

 準備や後片付けを考えて、その方が良いかと思ってこの予定にしたんだ」

「そうか。だがエヌが居るなら"ポケット"に余裕はある。荷物の心配は無いだろう? あとは身辺整理ぐらいか?」


 ジェイは慈しむような目で芹香を眺める。


「うん、そうなるかな」

「そっか……寂しくなるな」

「ごめんね」

「いや、お前さんにとってはいい事だ。しんみりする必要はねぇさ」


 申し訳なさそうに報告する芹香へ、ジェイは頭を撫でながら笑いかける。


「でもお店は?」

「聖者様のおかげでケイが働けるようになった。それでも人手が足りなければ募集すれば良い」

「そっか」

「芹香、あまり深く考えるな。話を聞いた限り、上手く行けば自由になるんだろ? なら喜んで行って来い!!」

「うん、短い間だったけど……凄くお世話になりました。

 だから……またね?」

「あぁ、また。だ。

 ケイにも言って来てやりな。きっと寂しがる。」


 ジェイはそう言うと店の奥を指し示す。


「そうだね。じゃ、行って来て良いかな?」


 芹香の問いに全員が頷く。


「ありがと。行ってくるね」


 芹香は笑顔で言うと、店の奥へ入って行った。

 ジェイはそんな芹香を見送り、真剣な顔でキノを見つめる。


「聖者様、今朝は慌ただしくてきちんとお礼を言うことが出来なかった。

 本当にありがとう」


 芹香を救ってくれた事。ケイを治してくれたこと。そして街を救ってくれたこと。全ての感謝を込めて頭を下げる。


「えっと、ジェイさんだっけ? 頭を上げて。そんなに皆に頭を下げられても困るから」


 キノは困ったように頭を上げるように言う。

 ジェイは頭を上げると真剣な目のまま、キノへ質問する。


「分かった。だが、一つだけ教えてほしい。

 (芹香の事を)知ってて救ってくれたのか?」

「う~ん、(街が襲われるって)知っていたわけじゃ無いけど。……予想はしてたかな」

「そうか、予想はしていたのか。だが、よくそれだけで(呪いが感染する恐れもあるのに)助けようと思ったな?」

「ん~、そうだね。勇者様のお役に立ちたいって言うのはもちろんだけど、(この街が)好きになったからかな?」

「好きに……か。だが(お互いの事を)よく知らないんじゃないのか?」

「そうだね。でも(優しくしてくれた人達が居るこの街を)好きになったんだから仕方ないんじゃ無いかな?」

「……そうか。だが俺は(芹香を)もう1人の娘と思っている。俺から奪うつもりはあるのか?」


 ジェイの言葉にキノは驚き目を見開く。


《娘っ!? サブっ!! 街を娘って言ってる人居るんだけどどう答えよう?》

《マスター、この方は街を心から愛しているのだと思われます。きっと、人の中にはそう考える人も居るのでしょう。

 ……少々驚きましたが、人とは奥深いものです。

 そうですね。街を奪うと言うのは支配するのか? と聞いて居るのでしょう。マスターは支配するつもりがないのであれば、そんな気が無いことを伝えつつ褒めてあげると喜ばれるでしょう》

《分かった。ありがとう》


 キノだけではなく、サブも芹香やケイを治したと知らない為、ジェイは街のことを言っているものと思っている。


「ジェイさんはそんなに(この街を)大切に思ってるんだね。もちろん奪うつもりなんてないよ? でも僕にも大切(な人達が居る街)なんだ。一緒に守ることは出来ないかな?」


 キノの答えに、ジェイは熱くなった目頭を押さえる。

 

「くぅぅ……その通りだ。奪うとか奪わないとか……そんなんじゃねぇんだよな。

 すまねぇ。変なことを言っちまった。

 大事だからと言って過保護になっちゃあいけねえよな。改めて頼む。(芹香を)幸せにしてやってくれ。」


 ジェイはキノの肩を掴み、まっすぐにキノを見る。


 《えぇぇぇ、幸せにって……どうすれば街を幸せに出来るの!?》

《マスター、落ち着いて下さい。

 これも個人的範囲内で出来る限りで良いと思います。

 まず、街を守ると言ったのですから、魔獣の襲撃や魔族の襲撃を抑えると言うことが前提ですね。

 先日の浄化で街全体が清浄化され、基礎は出来ております。明日にでも浄化の固定化を行い、浄化魔法を永続的に保つようにすれば魔獣や魔族が侵入することは出来なくなるでしょう。そうすれば問題なく幸せに住める街となります。

 そこまでは少々やりすぎと思っていましたが、依頼されるのなら良くあることかもしれません。遠慮なくやりましょう》


 さらっととんでもないことを選択するサブである。


「うん、分かった。精一杯やって見るよ!!」


 キノはジェイの目を見つめ、力強く頷く。


「ありがとう。頼んだ。」


 ジェイはにかっと笑うと、キノの肩から手を外し握手を求める。キノは頷くとジェイと固く握手を交わした。


 次の日、街全体に前日のモノより強力な浄化結界が張られ、驚きに包まれることになった。その原因が自分であるとは露にも思わないジェイだったのは必然だ。


 2人が熱く話している中、エィムズ、エヌ、リルは明日の準備について話し合っていた。2人が真剣な顔だったので気を使っていたのだろう。

 話が一段落したジェイはエィムズ達を放っていたことに気づく。


「おっとすまねえ。

 2人も今日と明日はうちに泊まりな。2番目にいい部屋を用意してやる。王都までよろしく頼むぜ。」


 ジェイは軽く頭を下げるとカギを一つ取り出す。


「ええ、ありがとうございます」

「もちろんですわ。

 部屋はありがたく使わせて頂きます」


 長い付き合いなのだろう。エィムズは遠慮なくカギを受け取り、キノ達へ振り返る。


「細かいことはリルさんにお話しいたしました。キノ君、明日は買い出しに出るからよろしく頼むよ」

「はい」


 キノは頷くと、リルと共に2階へ上がろうとする。


「それじゃ、また明日ね」

「それでは失礼致します」


 珍しく気を使うことが出来たのか、エィムズ、エヌを残して2人は階段を上がって行く。


「カッカッカ。気ぃ使ってくれたみたいだな。そんじゃ2人共、別れの前に飲み交わそうや」

「お付き合いします」

「そうね。こんな日ですもの。明日まで飲み明かしましょう」


その日、【儲け亭】の看板から灯が消えることはなかった。

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