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031 ソルトへ報告に その2

「ふうっ、これである程度片付いたかな?」


 少女は振るっていた槍を"ポケット"に仕舞い、辺り一面に散らばった魔獣の残骸を指差す。


「血抜きするの手伝ってもらえるかな?」


 門の上に向かって言うと、見物していた人達が我先に駆け出して来た。


「姉ちゃん、干し肉作ってやるからうちに肉を卸しちゃくれねぇか?」

「お姉ちゃん凄いね。僕もお姉ちゃんみたいになりたいっ」

「いやぁ、ただの看板娘じゃねえと思ってたが、強いんだなぁ」


 口々に少女を褒め称えながら、砂漠狼の血抜きを行なっていく。


「どうやら死臭は砂漠狼のものだったようです」


 リルは済ました顔で言うと、そっとハンカチで額の汗を拭う。


「あぁ……うん」


 2人が呆然と見守る中も、着々と砂漠狼の解体は続いている。

 槍を振るっていた少女は"儲け亭"の看板娘、芹香。キノ達は知らないが、癒しの波動で傷を治した少女で元勇者だ。

 魔法で生み出した水で付着した汚れや返り血を洗い流していた芹香は不意に視線を感じたのか、視線を上げるとキノ達の視線と交わる。


「あ……聖者様っ!!」


 芹香は目を丸くすると、自分の体を見る。

 水で洗い流しはしたが、未だ戦闘跡は残っていて水で濡らしたからか服がぴっちりと貼り着いて体の線を浮き上がらせている。


「あっ……みっ……みっ……見ないでーーー」


 恥ずかしそうに両手で体を覆うと、街の中に駆け出して行った。

 いきなりの出来事に、キノは困った顔で周りを見渡す。


「ほぅ、あれが……」

「ふぅん……」

「あの子がねぇ……」


 解体していた人々は一旦手を止め、キノを物珍しそうに見ている。そんな人々のうち一人がキノへ近づこうとするのを目ざとく見つけ、リルはキノへ話しかける。


「キノ様、早くギルドへ報告に参りましょう」


 いつもに比べ、若干不機嫌そうなリルに手を引かれた。


「あ、うん。そうだね」


 街へ入ろうとするキノへ、先程近づこうとした人物から声がかかる。


「おう、兄ちゃん。見たところ冒険者だよな?」


 先程、芹香に肉をおろしてくれと言っていた男性だ。


「うん、そうだけど?」

「なら、ちぃと聞きたいんだが。」


 男性が近づくにつれ、リルが警戒を始める。


「おっと嬢ちゃん、そんなに警戒しないどくれ。別に男女間の事を詮索するような下衆じゃねえ。

 ただ、浄化の魔法を使えんのか聞きたかっただけだ。おっと、俺は肉屋のティーチと言う。宜しくな。」


 男性-ティーチはリルに気づくと、慌てて要件を話した。


「あんた噂の冒険者だろ? 分かると思うが、定期的な街周辺の魔物の掃除をしたところなんだ。

 これでしばらくは大丈夫と思うが、血を放置したままだと死臭に寄せられて新たな魔獣が寄ってくるかもしれねぇからな。 本当は、さっきここで大立ち回りやってた宿屋の嬢ちゃんがやってく訳だっんだが、あんたを見て逃げちまった。なんだ? 昨日来たばかりと聞いたが、もう手を出したのか?

 ま、そんな訳で出来るんだったら頼めねぇか?」


 本来、ギルドに依頼するような仕事……ではあるが、そんな事を気にしないキノは二つ返事で引き受ける。


《サブ、浄化だって。出来る?》

《簡単です。制御致しますので、この辺り一帯が清浄になり、死霊が安らかに眠るようイメージして下さい》

《分かった》

「うん、大丈夫。それじゃ、行くよ?」


 キノはゆっくりと目を閉じ、念じながら魔法の施行をイメージする。


(きれいになれ~、きれいになれ~。あと、死んだ人達、安らかに眠ってね)


 次第に体が淡く光り……


「うおっ、もうやんのかい!? みんなっ、素材とか持ってさっさと街に戻れー!」


 どのような浄化方法を使うのか分からない為、ティーチを初めとした町の人たちは解体した砂漠狼だったものを持ち、急いで街へ戻る。

 余談ではあるが、浄化は属性毎に様々な方法がある。

 火属性であれば、辺り一面に浄化の炎が駆け回る。

 水属性であれば、雨のように浄化の水が降り注ぐ。

 風属性は浄化の風が吹き、土属性は浄化の光がゆっくりと地面に浸透してゆく。

 芹香は火属性を主に扱う。頭の中には火属性の浄化方法がイメージとして焼き付いていた為、住民達は急いで逃げたのだ。

 キノが使用した魔法は土属性の浄化術。キノの優しさとサブの心遣いで1番迷惑のかからない方法を選んだ。

 ……ただし、施工者がキノであり、魔力演算を行ったのがサブである。


 結果……


 淡く光ったキノの体はそのまま太陽のように光り輝く。


「うおっ!?」

「キャッ!?」

「この波動は!?」


 あまりの眩しさに、ソルトに住む全住民が城門付近からの光に目を覆った。光り輝いたのは一瞬。キノの光はそのまま大地へ吸い込まれる。

 通常の浄化範囲500M前後に対し、ソルトの街全体、そして全ての城門から範囲10km四方の土地を太陽のように発光させた。


「なんなの一体!?」

「2度目かよっ、何が起こってんだ!?」

「目がっ………目がぁぁぁぁぁぁ」


 町の人たちには驚きを、更に不貞な輩を悶絶させつつ、浄化の光が街を包み込む。……そして光が収まる。


「……え?」

「なに……これ?」

「ぐぁぁぁぁ、この神聖な波動っ……これはたまらんっ!!魔王様に報告せぬばっ!!」


 キノの膨大な魔力、そして、せっかく浄化するなら街ごと綺麗にしておくかと言うサブの心遣いによって、ソルトの街は神域クラスの神聖さを得たのだ。

 これには先程浄化を頼んだティーチも唖然とする。


「これでいい?」

「……あっ!? ……あぁ」


 キノが確認すると、ティーチを初めとした町の住人はただ頷くだけ。


「キノ様、では参りましょう。」


 先ほどの不機嫌はどことやら、ご機嫌のリルがキノへ声を掛ける。


「あ、そうだった。じゃ、僕は行くねっ♪」


 2人が街に入り、見えなくなるまで門の近くにいた人達は全員、ただ見送ることしか出来なかった。


「あ、検問……」


 10分後、門番の1人が気付いたが、誰も彼を責めるものはいなかった。

 この浄化以降、数百年に渡って1部の例外を除き、悪意を持った魔獣、魔族の類が街に近づく事が出来なくなった。この街に宗教の総本山ができ、世界中へと広がっていくのはまた別のお話である。

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