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028 北の砦 救援作業 その7

後半からリルを中心とした視点に変わります。(リルの一人称で書いた所、あまりにも変態チックになった為。急遽三人称で書き直した為におかしい所があった場合、申し訳ありません。)


 軋む扉を開き、貴賓室へと戻ってきたキノはそのままベットへと倒れこむ。


《誤魔化せた……よね?》


 キノの呟きにサブが答える。


《問題ありません。冒険者として間違ったことは何ひとつ言っておりませんので》

《そっか。でもどうしよう……まさか、あの時の水魔法で人に迷惑かけちゃっうとは思わなかったぁ……

 勇者様の役に立ちたいのに……逆にご迷惑かけてるよね?》


 キノはベットの上で身悶えるようにごろごろと転がる。

 お気づきとは思うが、砦における1連の犯人は何を隠そう、オアシス(元砂漠)で水魔法を暴発したキノであった。

 ソルトへの道中、水を出そうとして暴発した水流は、実際には4kmほど離れたこの砦に見事命中し、砦と兵士に多数の被害を出していた。奇跡的な事に死傷者は無く、後遺症が残るような怪我人もキノの癒しの波動(女神の奇跡(笑))で全員が全快している。げに恐ろしいのは、そこまでの威力を持つ魔法を簡単に発動するキノでもあるのだが……出来るものは仕方が無い。


《マスター、終わったことを悔やんでも仕方ありません。今後、同じことを繰り返さないためにも、軽はずみな行動を慎むのが反省になります》

《……はい》


 恐ろしい力ではあるが、心優しいこの元スライムと、その精神から作られたサブであれば間違った道には進まないと思う……色々とツッコミどころは多そうだが。


《話は変わります。先程、キュイ隊長より話のあった魔族の襲撃に関してですが。恐らく、先日お会いした方の事でしょう》

《えっ……と、ネースさんだっけ?》

《ニースさんです。人の名を間違えるのは大変失礼です、お気をつけください》

《うっ……はい》


 キノはベットにうつ伏せになったまま、サブから受ける説教でどんどん小さくなっていった。


《恐らく彼女の魔力波動を検知したことと、この砦の破壊が同時期だったため、そのような噂になったのではないかと思われます。彼女もあの街で何かが起こると言っておりましたので間違いないでしょう。

 それにマスターはまだ人と混じって日が浅いです。要らぬところでボロを出す可能性が高い以上、多くの注目が集まるこの砦は不都合とも言えるでしょう。

 早急に街に戻り、多くの人を観察し人らしさを身につけることこそが急務課題でもあります》

《うん、そうだね。それに魔法の使い方も練習しないと……》

《その通りです。

 人に迷惑をかけるでなく、人のために動かなければ勇者様の助けにはならないでしょう》

《うぅ、それは反省してます……》

《それでは説教はこの辺にして早めに休み、明日リルが起きるのを待って出発しましょう》

《ねぇ、出発は明日って言ったのって?》

《リルを起こし、まだ酒精が抜け切ってなければ、騒ぎになるではありませんか》

《……だよね》


 キノはサブとの相談を終えると、意識を手放し眠りへと落ちて行った。



------


 豪奢なベットで横になっていたリルがゆっくりと目を開く。


「ここは……?」


 リルが周りを見渡すと 目に入るのは広い部屋と豪奢な調度品の数々。


「たしか……」


 リルは再び目をつむると眉根を寄せる。一生懸命に何かを思い出そうとしているのだろう。


(確か昨日は冒険者ギルドと言う所に登録し、砦への物資運搬と護衛。それと負傷者の救護を頼まれたのでしたね。

 その後は軽く走ってこの砦にたどり着き、預かった荷物を置いた後はキノ様がお休みになられたので、そのお姿を拝見し……

 ああっ!! あのキノ様の天使もかくやという寝顔を思い出してしまいました。

 あの寝顔を見ていると改めてあの時の出会いを思い出します。そして誓うのです。このお方を守る為、出来うる手段は全て取ろうと。

 ……っと、考えがそれてしまいましたね。

 途中、食事の時間となり食事を用意して頂いたのですが……食事の内容はなんだったでしょうか? 確かパンにスープ、ステーキがあって、ワインが一本ついていたのですよね?

 料理は暖かい方が美味しいと分かっていたのですが、私にはキノ様の眠りを妨げることなど出来ません。それでもなお起こすべきか、起こさざるべきか……延々と悩んでいると、いつの間にか時が経ち夜遅くになっていました。

 キノ様がお目を覚まされたのに気が付き、慌てて一緒に食事をとらせていただいたのですが……あれ?

 失礼……私としたことが食事の後が全く思い出せませんね。

 ……ええと……あれ?

 ……思い出しなさいっ!! 思い出すのです私っ!!

 キノ様との思い出を一分一秒たりとも忘れることなど許されないのですっ!! ……こうなったら、頭部に衝撃を加えればっ!!)


「……おはようリル。なに……してるの?」


 隣のベットで起きたキノは、銀の燭台を振りかぶったリルを見てなんとも言えない表情をしている。リルは慌てて燭台に息を吹きかけると、ベットからシーツを抜き取って磨き始める。


「この燭台に曇りがありましたので、磨いていた所です。

 それよりも起こしてしまいましたか? おはようございます」


 すまし顔で答えるリルを見て、キノはあからさまにホッとした表情になった。


「それなら良かった。

 また壁……おっと、それより直ぐに街に戻ることになったから、準備しておいてね」


 キノの言葉に今度はリルが混乱する。

 

(壁? ……今確かに壁と言いかけましたよね?

 直ぐに街に戻ると言う事は……この砦に関する依頼はどうなったのでしょうか? もしや私の記憶の無い部分と何か関係が!?)

「分かりました。

 ……それでキノ様、昨日の記憶で1部あやふやな所があるのですが……何があったかご存じでは無いでしょうか?」

「え……」


 リルの問いかけにキノは硬直する。


《何もありませんでしたよ。

 貴方はワインを一口飲むと、直ぐに倒れてしまいました。酒精にはかなり弱いのかも知れません。

 あなたのような美女が酔いつぶれるのはかなり危険ですので、今後は口にしないことをオススメします》


 すぐにサブが答える。キノが硬直していたり、目が泳いでいる為。あからさまに嘘と分かるがリルは自分の考えに没頭している為、気づかない。


(ワインを飲んで倒れてしまった……ですか。

 ワイン……ワイン……何かが記憶の端に引っかかるのですが……酒精は体質によりますが、泥酔という状態異常に陥る飲み物だったのですよね……

 ……っは!! サブ様は暗に砦の修繕や負傷者の手当てを行ったキノ様の補佐をしなかった私を注意してくださっているのですね。)

「それは大変申し訳ありませんでした。

 以後、酒精は取らないよう気をつけます」


 相当反省しているのか、リルが悲痛な面持ちで頭を下げる。


「そうだね。そうしてくれると助かるかな」


 複雑な表情でキノも頷く。


「とにかく、そういう訳だから準備宜しくね」


 それだけ言うと、キノはそそくさと部屋から出ようとする。


「キノ様どちらへ?」

「あぁ、えっと……その……ね?」

《キュイ隊長の所で依頼達成報告書を受け取りに行くのですよ》

「あぁ、うんそうだった。その……いらいたっせい報告書? を取りに行くんだよ」


 キノの言葉を聞くと、リルはその場に崩れ落ちた。そのまま土下座のような格好になると、地面に頭を打ち付けながら謝罪の言葉を紡ぐ。


「やはり……依頼を完遂させていたのですね。

 酒精などに負け、キノ様に全て任せてしまったのは痛恨の極み……。本当にっ!! 申し訳ありません。」

「ちょっとまってっ、頭を上げてよっ」


 キノは急いでリルに駆け寄ると、右手を差し出す。


「いやぁ~、実は何もしてないんだけどね?

 決して僕の魔法が原因だったとか、リルの壁が……あ、いや、何でもないっ。……なんでもないんだよっ?」

《リル、この砦はもう安全ですし依頼は終わりました。貴女が気にする必要もありません。

 それに街へ戻るのは、長く滞在しては迷惑もかかると思いマスターへと進言させて頂いた次第です》


 リルは頭を上げ、おずおずとキノの手を取る。


「かしこまりました。直ぐに出られる準備を致します」


 ぎこちないが、笑顔を見せた事で安心したのだろうか。キノもいつもの柔らかい笑顔に戻ると、リルを立ち上がらせ今度こそ扉に手を掛ける。


「うん、ありがとう。それじゃ、行ってくるね」


 ゆっくりと歩いてゆくキノを見送ると、部屋を片付けながらぽつりと呟く。


「しかし、壁……ですか。

 ……けして、私の胸が壁のようだなどと言う事ではないですよね?」


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