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026 北の砦 救援作業 その5

 壁をの修復を終え「やっと眠れる」とばかりに布団に飛び込んだキノだったが、すぐに起こされる事になった。

 廊下から叫びや走り回る音が大きく響き、睡眠が取れなかったからだ。


「うぅ……やっと寝れると思ったのに……うるさくて寝れないよぅ」


 キノが扉を開けて外の様子を見ると、兵士達が着の身着のまま外へ向かっているのが見えた。


「どうしたんだろう?」

《現状が把握できておりません。マスター、兵士達の向かう方向へ一緒に行ってみましょう》


 サブが話しかけてきたので、キノも脳内会話モードでサブへ返答する。


《でも、リルは大丈夫?》

《部屋に残しても大丈夫でしょう。今は状況の把握、そして整理。全てはそれからと判断いたします》

《そっか。何かもって行くものあるかな?》

《他の兵士達の様子を見たところ、軽装ですので無いでしょう。混じっていくのが一番早いかと思われます》

《うん、判った》


 キノはそう言うと、目の前を通り過ぎる1団にこっそりと混ぎれこんで外へ向かうことにした。


「わぷっ」


 中庭に出て、ある程度走ったところで前を走っていた兵士が急に立ち止まる。目的地も分からず、後をつけていたキノはその背中に思いっきり突っ込んでしまった。


「はにゃが……いたひ……」


 鼻を強打したらしく、鼻頭が真っ赤になっている。相当痛いのか鼻頭を押さえてそのままうずくまってしまった。


「おっと、すまねぇ。大丈夫か? っと、あんたは?」


 前を走っていた兵士が後ろを向くと、頭を掻きながら手を差し出す。


「うん、大丈夫。兵士さんこそ痛くなかった?」

「おう、小僧っ子の1人や2人、ぶつかったぐれェでなんとかなる柔な鍛え方はしてねぇぜ」


 キノが何ともない事を確認すると、親指を立てて歯を光らせ決めポーズを取る。某オロナミ○のCMに出てきそうなぐらいの爽やかさである。


「くだんのS級冒険者か。あんたも奇跡を見に来たんかい?」


 兵士はキノに声を掛けながらも、その目は砦門に釘付けだ。


「奇跡?」


 首を傾げるキノへ、兵士は丁寧に教えてくれる。


「なんだ、知らねぇでここに来たんか? ほら、あの砦門は傷一つねぇだろ?」


 先程まで大穴の空いていた砦門を指し示す。

 キノも見上げると、その大きさに感動したのか目をキラキラとさせる。


「うわぁ、大きい……」


 素直にキノが感動しているのが楽しいのか、兵士は誇らしげな表情になる。


「だろ? だがな、夕方まではここに高さ15メートル、横幅12メートルの穴が空いてたんだよ」

「えっ!?」

「ビックリするだろ? それがな……なんと、一瞬で直ったんだ」

「あぁ、あれってリルが《マスター、おまちください》……ほぇ?」


 "壊したんじゃなかったんだ? "と続けようとした所をサブに止められた。


《先程、土魔法で修復した箇所に間違いはなさそうです。ですが、なにやら複雑なことになっています。

 情報を集めるまでは発言に気をつけた方が良いでしょう》

《そうなんだ?》

《はい、情報が不足してますので下手な発言は控えるべきでしょう。

 最近は常識が不足しているのではないかと思える事案が増えてきましたので、他者の意見を取り入れたいと思っております。 》


 主にキノが色々やらかしているおかげで世間一般の常識とずれている訳だが、そのような事をサブが知るよしはない。


《ん、分かった》

「リルが……どうしたんだ?」


 言いかけたまま黙っていたキノを心配するように、兵士がキノの顔を覗き込んでくる。


《うわっ、兵士さん忘れてたっ!! サブ、どうしようっ?》

《良いですかマスター、"気のせいだった"と言えば大抵のことはごまかせます》

《うん、分かった!!》

「き」

《もちろん、それだけで言うとおかしいですから、この場合は"ううん、何でもない。気のせいだった"と言葉を繋げるのを忘れずに》


 サブに言われるがままに、気のせいだったと口を開こうとするキノへ、早口でサブがフォローを入れる。


「……ううん、何でもない。気のせいだった」

「うん? そうかい」


 目が明後日の方向に行っているが、うまく誤魔化せたようだ。


「神様が姿を現したとか、俺も未だに信じられねぇが……最低でも1ヶ月は掛かる補修工事を一瞬で直してるからなぁ……

 神の所業としか言いようがねぇわな?」

《この兵士の発言から察するに、あの穴を直すには一般的に一月はかかるようです。どうやら修復したのがマスターと言う事は秘密にした方がいいですね。ここは神の所業と言う事にしておきましょう》


 兵士の言葉から、サブも先程の土魔法は"少々"やりすぎたと判断したようだ。


「そうだね」


 キノの肯定に兵士も気を良くする。


「お、やっぱりあんたもそう思うかい。いやぁ、皆はアーレイ分隊長が月の女神ルナを呼んだと言ってるが、あながち間違いでもねぇみてぇだな」

「うん、そう思うよ」

「やっぱり!? S級冒険者がそう言うんなら、間違いねぇ!!」


 兵士はどんどん熱くなり、集まってきた他の兵士達に話を広げていった。


「そうだよな、彼氏が出来たぐらいで神官から除名とか、神様がそんなに狭量なわけねぇよな」

「魔族に対抗する為、女神様がアーレイ分隊長を選んだんだ」

「神の巫女……」

「巫女装束……」

「反撃の時じゃないのか……」

「神官にも恋愛自由がっ!!」

「神の守護……」

「巫女さんに手を出せるっ!!」

「砦を襲った津波の魔法がまた来ても、アーレイ分隊長がいればっ!!」

「ちくしょう……彼女が美人で更に女神の加護持ちとか……キュイ隊長許すまじっ!!」

「……やっちまうか?」

「……いいねぇ」

「……作戦は例の場所で?」

「……合言葉は?」

「……何時もので」


 集まってゆく兵士達の間で、何故か結束が固まってゆく。


「えっと……あんまり酷い事はどうかと……?」


 だんだんと過激になっていく内容に、キノが呟きを漏らす。


「あ? おぉ、S級冒険者か。お前は残念だが、会には入れないぞ?」

「あぁ、"キュイ隊長を盛大に冷やかす会"には、実務経験2年と正会員2名の推薦が必要だからな」


 妙な組織が存在するようだ。しかも内容や審査が無駄に厳しい。集まってきた兵士達はその組織の一員だったらしく、そのまま円陣を組みひそひそと話し合いを続けてゆく。


「いや、そうじゃなくて……」


 なおも言い淀むキノに、兵士はすっごくいい顔で肩を叩く。


「あぁ、安心していいぞ。マジ泣きして土下座するまでとことん冷やかすだけだから」


 かなり陰険でしつこい嫌がらせのように聞こえるが気のせいだろうか。


「そっか、なら大丈夫か」


 それが一般常識なのかと納得するキノ。

 また一つ歪んだ知識を得ているとは、まったくもって思ってもいないようだ。


《マスター、少々気になった点があります。津波の魔法という所を確認していただけますか?

 ……勿論、直接聞いては角が立ちますよ》

《おっけー、聞いてみるよ》

「ところで、さっき言ってた津波の魔法ってどんなだったの?」


 前後の話や冷やかす会の面々の流れを全く無視し、直球で聞いていた。


《マスター、話の流れというモノを……》


 サブは頭を抱えるが、兵士は特に気にしない。お構いなしに教えてくれる。


「あぁ、魔族の攻撃か。そうだな、……あれは昨日の昼過ぎだったか、あっちの方向から何の前触れもなく途轍もない水の魔法が襲って来た」


 兵士はその時を思い出したのか身震いする。


「俺はその時、櫓に遠見として詰めたんだが、全く反応出来ない速度で襲い掛かってきたんだよ。

 気づいた時には砦に轟音が響いてな、そこの壁に途轍もない水魔法による攻撃が加えられていた。

 慌てて広域魔力感知を行えば、3 km以上も離れたところから、通常では考えられないほどの魔力の高まりがあった。

 ちぃと遠すぎたんで正確な距離までは測れなかったがな。

 水流の威力は凄まじくてな、簡単に砦壁が破られ……これはもうお終いかと思った途端、攻撃が止んだんだ。

 後から知ったんだが……ありゃあ、魔族の仕業だったそうだ。

 そこまですげぇ水魔法の使い手なんて、聞いたことも無かったからなぁ。そう考えれば辻褄があったぜ……

 それに、魔力の発信源に調査兵を放ったところ、広大な湖が出来上がっていたっていうじゃねぇか。

 あんな砂漠のど真ん中に余波だけで湖を作るとか……俺たちじゃ考えもつかねぇ魔法だ。

 ……あんたも冒険者なら、あぶねぇ事には近づかねぇ方がいい。特に、あんな真似が出来る魔族なんて生き物にはな……」


 その忠告はキノの為に言っているようであり、自分に言い聞かせているように言葉をかみ締めている。


「そっかぁ……うん、気をつけるね。ありがとう」


 キノは素直に頷いて、サブに問いかける。


《こんな感じで分かった?》


 だが、サブの返答は緊張を持って帰って来た。


《マスター、直ぐにここを離れましょう》

《え? それってどういうこと?》


 つられて聞き返すキノの声も硬くなる。


《今の話を纏めますと……つまり……》

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