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022 北の砦 救援作業 その1

「うわぁ……」

「これは……」


 砦の中に通されたキノとリルは、その出迎えに驚いた。

 人数は多くないものの、門から玄関まで武装した兵士が並んでいたからだ。


「すごい歓迎振り……」

「そう……ですね。そんなに応援が嬉しかったのでしょうか?」


 2人の声にキュイは答える。


「ええ、ギルドからわざわざSクラスの方が来ていただけたのですから。

 それ相応の礼を持って接するのは当たり前です」


 額には大粒の冷汗が流れている。

 本音は『2人が魔族の襲撃かと思って撃退の準備をしていた。』だが、本音と建前は別物だ。


「そうだっ、物資を受け取ってきたんだけど、どこで下ろせば良いかな?」

「そうですね……このまま保管庫へ案内します。それと、君いいか?」


 前半はキノ達へ、後半は側に居た兵士へ声をかける。


「あ、ハイ」

「皆に解散するように伝えてくれ。

 作業中だった者は続きを、休憩時だったものはしっかりと休息を取ってくれと。それと、先ほどの件は全員に伝達されているか?」


 キノ達へ聞こえないよう、小声で話していたが、リルにはもろバレである。


「は、間違いなく伝わっております。

 冒険者と言えど我らが救援を請うた身、礼節を持ち応対させていただきます。

 では、砦に入りました後解散させていただきます」

「よし、頼んだ」

「はっ!!」


 兵士が敬礼を返すと、キュイは2人へ向き直る。


「それではご案内します。こちらへどうぞ」

「うん」

「はい」


 キノは元気よく。

 リルは、先ほどの話に満足したのか極上の笑みで答え、ついていった。

 兵士達の多くは、その極上の笑みに心奪われ、解散の合図を受けてもぽ~っと突っ立っている者が多かったのはあまり関係の無い事だ。



「ここが保管庫になります」


 キュイに案内され、砦の中でも一際大きな場所へ連れて行かれた。


「管理人はいるか?」

「はっ!! ここに」


 キュイが声を上げると、一人の男性が姿を現す。


「今からキノ様が預かってきた救援物資を取り出すと言うので、全て記載するように。」

「はっ!!」

「では、キノ様よろしくお願いします」


 管理人と呼ばれた男が紙とペンを用意する。

 確認したキュイはキノへ物資の取り出し場所を指示してゆく。


「じゃ、出すね?」


 キノは"ポケット"に手を入れると、預かった様々なものを取り出していった。

 医療品から始まり、毛布・米・味噌・小麦・砂糖・塩・水・野菜が色々・衣類の替え。

 ついでに最初からポケットに入っていた、きわどい服や下着類、えっちな本や鞭、蝋燭、用途不明の木馬やアイアンメイデンなどを並べていく。


「ほ……本当にこれ全部がギルドからの物資なのですか?」


 こっそりと衣装数着と下着をポケットに詰めながら、キュイはキノへ問う。


「うん、間違いないよ?」


 間違いないといいつつ、視線は泳いでいる。


「ええ、キノ様が間違ってもこのような物を所持しているわけがありませんから」


リルはニッコリと微笑みながら答える。


《マスター、ついでに媚薬と睡眠薬の類も置いていくとリルの機嫌が良くなりますよ》


 犯人はサブだった。


「キノ様、そちらは私の物ですので、預かっておきますね」


 取り出した媚薬や睡眠薬は、リルが嬉々として自分の"ポケット"へ詰め込んでいった。


「今のは……媚薬とか書いて「気のせいです!! 」……そうですね」


 管理人は、えっちな本を数冊ベルトに差し込みながら指摘しようとするが、リルに睨まれてすごすごと引き下がる。 

 ……色々といいのだろうか。


「あ……うん、リルが使うのなら別にいいけど……」


 キノもリルの迫力に押されてそれだけしか言えなかった。


「物資は以上ですか?」

「うん、これで終わりかな」


 キュイの問いにキノが答える。


「この辺はキノ様の食料に、と用意されたように見えますが」


 キュイが指差す辺りには、暑さの中でも傷まないよう、考えて作られたお弁当が12個ほど積みあがっていた。


「やだなぁ、僕達がこんなに食べられるわけ無いじゃない。きっと、これも物資だよ」


 砂漠の旅を2日~3日かかると考えれば間違いなくキノ達の食料なのだが、1時間でたどり着いているので無用の長物となった感は否めない。


「そうですか……ですが、長い距離を走ってきてお疲れでしょう。

 ちょうどいいので、こちらのお弁当を食べながら一息入れてください。お部屋に案内させていただきます」


 キュイが弁当を2つ持つと、2人を別の部屋へと案内した。

 数分ほど歩いた所にある、"貴賓室"と書かれた部屋へ2人は案内された。


「滞在中はこちらの部屋をお使いください。

 何か有りましたら、通りがかりの兵士にでも言って下さい」


 キュイは中へ2人を案内すると、それだけ言って立ち去ろうとした。


「あ、お手伝いは何時からすれば?」

「今日の所はお疲れでしょう。明日からで構いませんので、よろしくお願いします」


 キノの問いにキュイはそれだけ言うと、足早に隊長室へと戻っていった。


「傷病人が居るっていっていたけど、いいのかな?」

「きっと急ぎで治癒が必要な方はすでに終っているのでしょう。

 今日はキュイ様のご好意に甘え、ゆっくりさせていただいた方がよろしいのではないでしょうか」


 キノの考えは正解なのだが、キュイにはキュイの考えがあって2人に休憩を薦めたのだ。


 合間を見て読んだオーウェルからキュイへ書かれた手紙にはこう書いてあった。

 ―ソルト北砦、兵士長様へ


 火急の用件の為、本文のみで失礼させていただきます。


 今回の救援要請に対し、冒険者に登録したての2人を応援に派遣いたします。


 このお2人はコリアンダー皇国の王位継承者で有らせられますが、訳有って冒険者の資格を有しております。

 そのため、お2人にはそれ相応の対応で臨んでいただく事を希望いたします。


 また、キノ様は変態勇者に似た顔立ちをしていますが、全くの別人です。その旨も併せてお気をつけ下さい。


 また、お2人の実力についてですが、SSランクのエィムズ・エヌ両名が足元に及ばない実力を持つと報告を受けております。そのため、砦の再建へは多大な力となるでしょう。


 最後に、現在ソルトへは高位魔族が接近しているとの情報が入りました。

 高位魔族は聖なる武器、もしくは準じた力が無くば太刀打ちできません。

 どれだけ実力があろうとも、お2人を危険な場所へ近づけるわけには行きません。


 おそらく、この砦へつく頃にはソルトが廃墟となっているかもしれません。

 お2人の身の安全を確保する為にも、砦への滞在時間を少しでも増やし、かつ、ソルトへ戻らないよう誘導してください。


 また、王宮への連絡も入れておりますが、砦からも確認のうえ報告をお願いします。


 少しでも避難民がたどり着けた場合は、その保護もお願いしたいと思っております。


 要請ばかりで申し訳ございませんが、何卒、よろしくお願い申し上げます。


 ―冒険者ギルド ソルト支部長 オーウェル


 キノを追い立てるようにこの砦へ救援に寄越したのも、他の冒険者に見つからないよう見張りにシエルをつけ、裏手から出立させたのもこの手紙の内容が原因だったのである。


 なので、傷病者は一刻も早く治癒して欲しいがその辺は我慢し、少しでもキノ達が滞在できるように手を回したのだ。


「あの2人はどれだけ早くついたのだろうか……伝書鳩の報告すらまだ着いていないと言うのに? これでは、時間稼ぎにすらならないではないか……」


 キュイはひとりごちると、各分隊長を呼び出し、改めてキノに対しての応対を注意するのだった。

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