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002 プロローグ その2

「ブゥヒヒヒヒヒヒヒ、こんな所をのらスライムがうろついてんじゃねぇ、ブヒヒッ!!」

「ぴぃぃ~」


 先ほどの悲鳴の主はこのスライムだった。

 どれだけいたぶられていたのか、体のいたるところが削れ、体液が地面に飛び散っている。

 初めての人助け!! と意気込んできた3人は肩透かしを食らった。……が、この光景を見て気を取り直す。


「スライムとはいえ、弱いものいじめは見過ごせないっスねぇ……」


 ビィが聖剣を構えると、シーも杖を構える。


「そうね、ちょっと無理かな」

「神は言いました。全ての隣人を愛しなさいと」


 エーヌは結界を貼り、オークからスライムの保護をする。

 元勇者に虐げられ続けていたからか……3人は今までの自分をこのスライムに重ね、魔物であるはずのスライムを助けようとしていた。

 オークの数は10匹。スライムはサッカーボールの用にたらいまわしにされていたが、結界で保護されたことにより空中で停止した。

 突然の闖入者により、オーク達が混乱し、隙が生じる。


「行くっスよ~!!」


 飛び出したビィは聖剣の一振りで4匹のオークを切り倒した。


「フレア・ボール!!」


 シーが叫ぶと頭上に6つの炎球が現れ、それぞれが意思を持ったようにオークへと向かって行く。


「よしっ!!」


 残っていた6匹のオークは炎に包まれ、悶え苦しむが次第に動かなくなった。

 骸となったオークの傍らでがたがた震えていたスライムにエーヌがゆっくりと近づく。


「大丈夫……おびえなくていいのよ?」


 天使のような笑顔でスライムをゆっくりと抱え上げると、慈しむように表皮を撫でる。


「キュア」


 おびえるスライムではあったが、エーヌの回復魔法により、オークにつけられた傷や減ってしまった体液が元に戻ってゆく。  


「ぴ……ぴぃぃ」



 回復魔法の効果もあり、すっかりと元気になったスライムは喜んで何度も何度も頭を下げる。


「や~ん、可愛い~」


 エーヌの後ろから様子を見ていたシーがスライムを抱き上げ、頬ずりをする。スライムを取り上げられたエーヌは少しムッとしたが、すぐに笑顔に戻った。


「ぴいぃ~♪」


 スライムはされるがままだが、その鳴き声は嬉しそうだ。


「へぇ、人懐こいスライムっスね~?」


 オークの残骸から装備や収集品を集めていたビィが2人の間から顔を覗かせる。


「ぴっ、ぴっ!!」


 スライムはビィにも一生懸命に頭を下げる。


「お礼を言ってるみたいよ?」


 エーヌの言葉にビィも笑顔を浮かべ、

「賢いッスねぇ~」

 とスライムの頭を撫でる。


「スライム君、この人が君の声を聞きつけて助けてくれた勇者様よ」


 シーの言葉にビィは得意げな表情でスライムへ微笑む。


「へへっ、勇者ビィっス。スライム君、良かったッスね?」

「ぴぃっ!!」


 スライムがビィを見つめる眼差しは尊敬そのものだ。


「本当に言葉が判ってるみたいッスね。……なんか照れくさいっス」

「あははっ、落ちた信用を回復する為にも、ビィには慣れて貰わないとね?」

「頑張るっス」

「「「あはははははは」」」


 3人はひとしきり笑いあった後、エーヌが切り出す。


「ですが、この辺にはスライムは生息していないはず……

 もしかするとこの子は"はぐれスライム"なのかもしれませんね?」


 エーヌの言葉にシーが頭を捻る。


「はぐれスライムって何か凄いの?」

「ええ、"はぐれ"は他の固体と違い、何らかのスキルを所持していたり、ステータスがおかしかったりするんだそうです」

「へ~、お前凄いスライムだったッスね?」


 ビィはスライムの頭を撫でる。


「あっ、そうだ!!」


 何か気付いたようにシーは"ポケット"をあさると、いくつもの木の実を取り出した。


「あら? シーそれは……?」

「うん、あいつがビィに毒味だって食わせようとしていた木の実。口に入れた途端吐き出したでしょ? 人が食べれなくてもモンスターや動物だったら食べれるんじゃ無いかと思って。」


「どうでしょう?

 あの人がもってきた物です……よ?」

「ん~、良いんじゃないッスか?

 あいつの狙いが判らないから吐き出したんスが、毒が有るとも思えないっスし、スライムが食うんなら問題無いんじゃないっスか?」

「それもそうですね。

 我々が持っていても捨てる事になりそうですし、スライム君が空腹で倒れるのも可愛そうですしね?

 でもスライム君、これは餌付けでは無く、一回限りの施しですから……頑張って生きるのですよ?」


 2人がシーに同意すると、手に持った一杯の木の実をスライムへと近づける。


「じゃ、あげちゃうね?

 ほら、スライム君一杯食べるんだよ~」


 そう言ってありったけの木の実をスライムの口へ放り込んだ。

 体内に全ての木の実を収めたスライムは、半透明な身体に木の実が散らばり、まるでソーダゼリーのようだ。


"くるきゅ~♪"


「あぅっ……」


 可愛らしいお腹の音は、じ~っとスライムを見つめていたシーから聞こえる。その音に気付いたシーはお腹を押さえて真っ赤になってしまった。


「あら、お腹が空いてきましたね。

 最早残飯あさりの日々から開放されました……近くの町へ飛んで、ご馳走にしませんか?」


 エーヌはシーのお腹の音にまったく気づいて無いそ振りで2人に話しかける。


「え? あっ……ああ~、そうッスね。もうハラ減ってハラ減って死にそうっス。

 久しぶりにまともなものが食べられるようになったと思うと更にハラが減るっス~。もう、減って減って直ぐにでも食べに行きたいっスね~」


 エーヌのウィンクで気付いたビィは、わざとらしいぐらいお腹が減ったと騒ぎ出す。


「ふふっ、そうね2人共。今日は豪勢に行っちゃおうか?

 …………名残惜しいけど、またね、スライム君」


 シーがスライムを地面に下ろし、少し離れたところで地面に三角形と円の模様を描く。出来上がった模様はオクタグラムの魔法陣だ。


「またね。頑張って生きるのですよ?」

「スライム君、頑張るっスよ~」


 エーヌとビィもスライムに声をかけると円の中に入っていった。


「ぴぃぃぃぃぃぃぃ~!!!」


 別れを察知し、スライムは甲高い声で鳴くと地面に顔がつくぐらいまで頭を下げた。

 3人がにっこりと笑うと、シーが高らかに叫ぶ。


「テレポート」


シーの声があたりに響くと、魔法陣から光があふれ出す。



 ……光がおさまるとそこにはもう3人の姿がなく、地面に描かれた魔法陣も光の残渣を残しゆっくりと消えていった。

 スライムはいつまでも頭を下げていた。だが、体内の木の実が消化されるにつれ、スライムの身体が光りだす。


 赤、青、黄、緑、紫、銀、金……スライムは自分の変化に驚いていたが、頭の中に響く声に更に驚きを強くした。


《【知恵の実】を吸収しました。思考をメイン思考とサブ思考に分離します。》

「ぴっ……ぴぃぃ~?」

《ご安心ください。

 私はマスターの情報を的確に補佐する為のサブ思考。マスターの意思の元、思考するだけの声です。》

「ぴ・・ぴぃぃ」

《はっ、そのように心得ております。》

「ぴぃぃ」

《ありがとうございます。

 これより吸収された木の実の効果を報告しますので、取り込むかどうかお答えください。》

「ぴっ!!」

《はっ、ではそのように……取り込むに適した効果をまず報告いたします。

 属性耐性として【対炎】、【対水】、【対地】、【対風】、【対雷】、【対闇】、【対光】の実。

 こちらはあわせて取り込むことで、ほとんどの魔法が無効になります。》

「ぴぴぃ」

《了解、取り込みました。》


 スライムの身体が淡く発光し、じわじわと納まっていく。


《続きまして、状態異常耐性として【対麻痺】、【対石化】、【対病気】、【対毒】、【対混乱】、【対精神】の実

 【対睡眠】の実もありますが、こちらはいかがなさいますか?》

「ぴぴっ」

《かしこまりました。全て取り込ませていただきます。》


 先ほどと同じく、淡く発光した光はスライムへと吸収されていった。


《肉体強化として、【力の実】、【魔力の実】、【速化の実】、【治癒力の実】があります。》

「ぴぴぴ」

《かしこまりました。全て取り込ませていただきます。》



このようなやり取りがいくつも続いた後、

《最後となりますが、【知識の実】こちらは膨大な情報が得られますが、思考への影響が考えられます。どのようにいたしますか?》

「ぴ……ぴぴ……ぴぃぃ」

《はい、過剰な情報は思考を押し潰す可能性があります。

ただし、私のほうで取り込み、必要な情報のみコンバートする事で知識を有効活用することは出来ます。》

「ぴぴぴっ」

《かしこまりました。

 私のほうで取り込み、言語情報をコンバートいたします。その他の情報も必要に応じ提供させていただきます。》

「ぴぴ」

《はっ、ありがとうございます。》


 最後にひときわ大きく輝くと、スライムは倦怠感に襲われ、そのまま眠りにつく。


《マスターの進化構築を確認。

 私も知識の実の情報を統合します……》


 無防備な状態で眠りに付いたが、幸いにもオークの死体が近くにあることにより、誰かが近づいてくる事はなかった。

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