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017 冒険者登録 その4

「ここが訓練場になります」


 シエルに案内され、キノ・リル・エィムズ・エヌはギルドの奥にある、訓練場へと入ってきた。


「まさか私達が教官をお願いされるとはね」


「仕方ありませんわ、エィムズ。

 先ほどの咆哮一つで判るように、彼らの実力を見極められる者はおりませんでしたもの。それでは、お2人にきちんとしたランクを推薦できませんからね」


 2人は訓練場の中心に立つと、準備運動をしながら軽い調子で話し合う。


「えっと……これから何をするんですか?」


 ぽつんと入り口に取り残されたキノはハテナ顔で問いかける。エィムズはそんなキノへ笑顔で答える。


「あぁ、そうか。

 キノ君は初めてだったね。

 では改めての挨拶に併せ、ここのシステムを説明しておこう。

 私はSSランクの冒険者。

 名前はエィムズ・P(ブライド)・サウス。剣士だ。宜しく」

  

 エィムズが目配せすると、次いでエヌが自己紹介を始める。


「私はエーネリエンティス・Eエンヴィー・ノウス。

 少し長いから皆はエヌと呼んでいますの。お2人もエヌのままで構いませんわ。

 ランクはエィムズと同じSSランク、魔術師ですの。よろしくお願いしますね」


 エヌの自己紹介が終わるとエィムズが引き続き話し始める。


「まずはランクから説明した方がいいかな?

 ギルドでは実力に合わせ、EランクからSSSランクまでのランク分けを行って居るんだ。

 クエストにもEからSSSランクまで決めてあり、自分のランクより上のクエストを受注する事はできない。

 例えばBランク冒険者だと、Eランククエストを受注する事はできるけど、Aランククエストを受注する事はできない。という感じでね。

 基本的にランクが上になれば上になるほど、難しい仕事では有るけど報酬も良くなる。

 報酬に釣られて身の丈に合わないクエストを受注しないようにする措置だね。

 で、入会した者が必ずEランクから始まるか? というとそうでもないんだ。

 大抵の者はEランクから開始するんだが、君達のように実力者だった場合、下積みから始めるのは少々憂鬱になるだろう?

 ギルドとしてもそんな理由で実力者が入会してくれないのであれば勿体無い。

 なので、実力者の入会時には、ある程度の者が入会者の実力を測り、推定ランクを推薦する事ができるんだよ」


 エィムズはキノの手をとりながら、判りやすく噛み砕いて説明をする。


「冒険者ギルドは世界中に拠点を持っている分、責任も大きくなる。

 だから、今回のようにある程度以上の裁量は各ギルド長にゆだねられているんだよ。

 先ほどの会話からすると、オーウェルさんはまた妄想を口走っていたのだろうけど、あれでもギルドの中では10指に入る実力者だからね。彼を頼るのは有りだと思うよ」

「そうですか。わざわざありがとうございます」


 キノはお礼を言って手を離そうとするが、離れない。エィムズはキノの手が逃げないよう、更にきつく握りこむ。


「それに私達も、君達には何かを感じている。

 今後、私達が力になれることがあれば、頼ってくれて構わない。これでも結構力になれると思うよ」


 笑いながら握りこんだキノの手を両手で包み込む。この時点で健全な男性だったら身の危険を感じてしまうかもしれない。


「エィムズ、随分気に入ったみたいですわね」


「ああ、こんな力強い魔力は初めてだよ。

 警戒される前にこっそり魔力を測ろうと思ったんだが、まるっきり底が見えない。こんな事は始めてだよ?」


 まるで「すごいだろう?」とばかりにキノの手をエヌに差し出す。どうやらそのケによる行動ではなかったようだ。


「ほぅ?……それでは、キノ様をエィムズが、リル様を私がお相手すると言う事で宜しいかしら?」

「あぁ、それで構わない。キノ君もいいかな?」


 表情こそにこやかだが、有無を言わせぬ迫力で問いかけてくる。


「はい」

「私も問題ありません」


 エィムズの迫力は華麗にスルーしたキノだが、特に問題を感じている訳でもなかったので、その提案を受ける。


「では、リル様。

 私と一緒に後ろに下がりましょう。これからエィムズとキノ様とで実践稽古を始めますわ」


 エヌはリルの手をとると、共に訓練場の壁際へと歩って行く。


「それではキノ君。実力を測らせて貰うよ?

 全力で掛かってきてくれたまえ」


 エィムズはキノの手を離すと、壁においてあった木剣を手にする。


「あ、はい。……ええと、魔法とかスキルって?」

「もちろん使ってくれたまえ。それ込みでの実力を確認するのだからね」

「判りました」


 キノも壁から木剣を取り出し、構える。


《セオリーって、遠距離攻撃で牽制しつつ、距離を詰めて一気に叩く。でいいんだよね?》


 前回の戦闘では、キノは後ろから魔法を撃つだけだったので、実際に戦うのは初めてだ。

サブと相談しながら、どう動くのがいいか決めていく。


《それが良いでしょう。相手はSSランクの冒険者。

 全力でぶつかってみましょう》

《うんっ!!》


キノの準備が整った事を見測らい、エヌが掛け声をかける。


「では、2人とも宜しいですわね?」

「ああ」

「はい」


 キノもエィムズも気合十分で答える。


「それでは……開始!!」


 開始の掛け声と共に、キノの手から一陣の赤い閃光が光った。直後にエィムズはドサッと音を立てて崩れ落ちる。


「……え?」

「……う?」

「キャァァァァァ、エィムズ!!」


 エィムズにとっては、認識する暇も無く打ち込まれた"熱線ブラスター"。それは開始の合図を待ってから、キノが牽制用に放った魔法……のつもりだった。

 だが、エィムズにとっては、確認すらできない速度で放たれた致死の一撃。

 それが右足を貫通。更に奥に広がる修行場の壁も貫通し、その向こうにいた鶏を丸焼きにしていた。

 右足の中央に大きな穴を穿たれたエィムズは、バランスがとれずそのまま床に倒れる。


「すぐに治癒します!!」


 エヌは駆け出すと、エィムズの隣に座った。

 そのまま精神を集中させると、光る手の平を右足の傷へ当てる。


「ごっ……ごめんなさい!! 大丈夫?」


 慌ててキノも駆け寄る。


《サブ、治癒って出来る?》

《可能です》


 キノは先ほどエヌがしていたように、治癒の魔力を手の平に集めると、エィムズの傷にかざす。


「え……うそっ!?」


 それまでじわじわと治っていた傷が、瞬時にして治る。


「エィムズ……大丈夫?」


 エヌが驚きつつも、エヌの傷の具合を確認する。


「ああ……痛みもなんとも無い……」


 エィムズも狐につままれた顔をする。


「今のは……何ですの?」


 呆然と呟くエヌに、

「回復魔法……だと思うけど?」

 疑問系で返すキノ。

 だが、その答えを聞いたエヌは焦ったように立ち上がる。


「ありえませんわっ!! 今の傷は、どう見ても一瞬で治る傷ではありませんでした。

 それを一瞬かざすだけで治すなんてっ!?」

「それに……今の魔法は何だったんだい?

 一瞬視界に赤いものが見えたと思ったら、もう右足が穿たれていた。今の魔法は……いや、君は一体何者……」


 エィムズがエヌに続いて呟くが、直ぐにかぶりを振る。


「いや、すまない。君達の素性を詮索しないと約束していたのだった」


 すぐに笑顔に戻って先ほどの戦闘の感想を述べる。


「でも驚いたよ。木剣を構えたから剣士と思ったら、魔術師だったとはね。まんまと油断させられたよ。

 勿論油断無しでも威力もスピードも人並外れていた。あれは避けられなかったな。

 是非ともPTを組んで欲しいぐらいだよ」

「いや、僕は魔術師じゃ「いや、無理に隠そうとしないでいいよ。きっと理由があるんだろう?」ない……んだけど……」


 エィムズはキノの言葉を途中でさえぎると、手を差し出す。言外に握手しようという申し出だ。

 キノは困った顔のまま、促されるようにエィムズに手を貸し、立たせるとそのまま壁際へ行くように指示される。


「キノ君の実力は大体わかった。……というか歯が立たない事が判った。次はエヌ、君の番だ」

「判りましたわ。では、リル様、ご一手お願いいたします」


 エヌはキラキラとした目でリルに声をかけ、訓練場の中央へ歩いてゆく。


「畏まりました。それではいってまいります」

「あー、うん」


 リルはキノとエィムズに一礼し、中央へと歩いていった。

 自分は魔術師じゃ無いんだけど。と言いたいキノだったが、タイミングを失いリルと入れ替わるように壁際に立つ。


「では、次は私が合図をかけよう。2人とも準備はいいかな?」


 エヌは杖を構え、準備を始める。リルは髪の毛が邪魔にならないよう、リボンで一つにまとめた。


「見ての通り、私は魔術師ですの。

 開始前に精神を集中させて貰って宜しいでしょうか?」


 エヌの提案にリルは2つ返事で答える。


「ええ、いいですよ」

「ありがとう」


 エヌは目を閉じ、杖に魔力を集中させていく。杖の先端が輝きを発すると、エィムズに声を掛ける。


「お待たせしました。始めて宜しいですわ」


 その声にエィムズは手を振り上げる。


「それでは……開始!!」


 手を振り下ろすと同時に仕掛けたのはエヌだ。


「キノ様の魔法程ではありませんが……」


 エヌの周りに数十の氷のつぶてが出現する。


「行けっ!!」


 軌跡を残し、全ての氷がリルへと向かう。


「これぐらいでしたら」


 氷のつぶては1つたりともリルに当たらない。まるで踊るように全ての氷を避けるリル。

 しかし、エヌはすでに次の魔法の為に集中していた。


「行きます」


 短く呟くと、リルの体が消える。

 一瞬にしてエヌの正面に立ったリルは、手刀を上段から振り下ろし……

 パチィと言う音を立ててリルの爪は寸前で水の膜にはじかれた。


「くっ!?」


 慌てて間合いを取るリル。


「……間に合いましたわ」


 疲労が垣間見える表情で、リルを見つめるエヌ。


「まさか、アレを避ける事ができるとは思っておりませんでしたわ」

「残念ですが、幾つか避けきれず、リボンを飛ばされてしまいました」


 長い髪をまとめていたリボンがどこかへ飛んだのか、リルの髪はさらさらと風になびくようにウェーブしていた。


「まぁ、いいですの。

 それより、水結界はさすがのリル様でも破壊不能だったようですね。少しは抵抗出来たかしら?」


 その言葉にリルの耳がピクンと揺れる。


「キノ様、回復魔法の準備をお願いしても?」


 先程までの冷静な目から一転し、いつの間にか目が据わっていた。プライドを刺激されたようだ……


「うん、判った」


 迫力に押され、キノは何時でもかけだせるよう準備する。


「行きます!!」


 再度リルが地面を蹴る。


「させませんわっ!!」


 エヌも対抗し、指の先から水流を打ち出す。

 キノの"熱線(ブラスター)"の水版といった所であろうか。砂漠でキノが使った魔法は直径1mだったが、エヌの魔法はカミソリのように透き通っている。

 だが、発動時にはすでに後ろへ回り込んでいたリルが、爪を銀色に輝かせつつエヌの背中を水結界ごと切り裂いた。


「……っキャッ」

「勝負有り!!」


 すぐにエィムズが声を張り上げる。

 キノが駆け出し、エヌに回復魔法ををかける。傷は深く見えるが、重用な器官や血管は見事に避けてあった。

 すぐに治癒魔法を施行し、傷を回復させる。


「う……うぅ……はっ……私はっ!?」


 一瞬意識が飛んでいたようだ。


「あ……きゃっ!?

 エィムズ!! 何か羽織るものをお願いします」


 背中が切り裂かれ、素肌があらわになっていた。エヌは気付くと、顔を真っ赤にしてエィムズから上着を要求した。



 エヌが落ち着くのを見計らい、4人は中央に集まって話し合いを始めた。


「完敗です……ここまでの実力差とは思っていませんでした。これなら間違いなくSクラスとして推薦できますよ。

 申し訳ありませんが、SS以上はギルドだけで評価できませんので」


「そうですわね。私も完敗ですわ。

 世の中、上には上が居ると思い知りましたわ」


 2人は敗れたにも関らず、爽やかにキノとリルへ話しかける。


「いえ、そんな。

 それより痛かったんじゃないですか? すみません」


 キノは恐縮するが、エィムズは満面の笑みで謝罪を受け取らない。


「そんな事は無い。むしろ全力を出してくれた事に感謝を言いたい。

 残念だが、こういう場では手の内を知られないよう手を抜く者が多いからね」

「そうなんですか?」

「ああ、残念ながら……ね。

 だから、恨みなど全くないし負けてもすがすがしい気分さ」


 エィムズの瞳に全く嘘はない。白い歯を光らせてイケメンスマイルを炸裂している。

 どこまでも爽やかで間違いなく女性にモテるだろう。イケメンめ、爆発しろと思う者もきっと少なくはない。


「そうですわね。それにあそこまで手が出せないと、逆に爽快ですわ」


エヌも同じように、にっこりとリルへ微笑む。


「それは良かったです」


リルは元々人間を狩る存在だったため、恨みを受けるのは慣れて居る。それでも受けないに越したことは無い。


「貴方方でしたら間違いなくSSSクラスの実力をお持ちですわ。

 まぁ、SSSクラスは聖武具の所有者のみと決まってますので、実際にはSSクラスでしょうけど」


 キノは聖武具という単語が気になり、サブへ問いかける。


《サブ、聖武具って知ってる?》

《聖武具は勇者の武器の総称です。

 確認は取れていませんが、防具も存在するといわれるので、聖武器ではなく、聖武具と呼ばれております》

「そうなのですね。

 色々と教えていただき、ありがとうございます」


 一般常識として、こういう時は礼をするもの。とばかりにリルは深々と頭を下げる。


「いや、感謝するのはこっちの方だ。今日は本当にありがとう」


「私もですわ」


 エィムズとエヌも挨拶すると、サブとの会話に集中していたキノも気付く。


「お礼が遅れてすみませんっ!! 今日はありがとうございました!!」


 しっかりとお礼をするキノだった。

 エィムズとエヌはそんなキノを見て顔を見合わせると、クスッと笑いあう。


「エヌ。事務的な手続きは以上だよね?」

「ええ、エィムズ。後は報告だけです。

 しばらくはプライベートな時間といっても差し支えないでしょう」


 2人はニッコリと笑い合う。

 キノとリルは2人の真意が判らず、頭にハテナが浮いている。


「リル君!! 今度は前衛同士、剣を交えて貰えないか!!」

「キノ様!! 魔術師同士、情報の交換をいたしませんか!!」


 エィムズはリムの手を、エヌはキノの手をがっしりと掴んだ。


《サブ、どうしよう?》

《マスター、これは相手の気が済むまで付き合わないと、離してくれない人種かと思われます》

《って言う事は?》

《諦めてください》

《でも僕、魔法については何も言えないよっ!!》

《マスターは私の言うとおりに話して頂ければ、大丈夫です》

「キノ様、私はどうしたら?」

《リルはエィムズ氏の気がすむまで、お相手した方がよいと思われます。マスター、お2人の目もあるので、そのようにリルへ言ってください》

《わかったよ》

「リルはエィムズさんと相手してあげて。

 すぐに治癒するから、怪我とかは気にしないでいいよ。

 でも、即死するような攻撃はしないようにね」


 サブの言った言葉だけでなく、自分の言葉も交えるようになったあたり、キノは確実に成長してきている。


「畏まりました。エィムズ様もそれでよろしいですか?」


 リルは慇懃に頷くと、エィムズへと微笑む。


「願っても無い事だよ。お相手、よろしくお願いします」

「なら、キノ様は私と情報交換してくださいますの?」

「うん、判る範囲でだけどね?」

「ありがとうございます。では、1度報告に行って参りますね」


 2人の了承を得ると、エィムズとエヌは一旦報告に向かい、戻ってからは嬉々として訓練を開始するのであった。



 ……ただし、キノの言葉は殆どサブの受け売りとなったのは言うまでも無い。


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