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011 貿易都市ソルト その3 スキル考察①

 アッシュが去った後、キノ達も会話を始めた。


「あー、びっくりした。

 人間ってあんなにアグレッシブなんだねぇ」

「そうですね、驚きました」

「でも……ん~……疲れたぁ」


 キノはソファの上でぐ~っと伸びをする。


「そうですね、さすがに私も疲れました」


 行程約330kmをたった3時間で走破してきたのだ。

 普通の人間では100%できない事を行っておいて、まったく疲れていなければその方がおかしい。

 2人は少し冷めてしまったがテーブルにあるお茶に手をつけ、一息つくと状況の整理を始める。


《マスター》

「ん? 何?」

《現在の状況では不用意な独り言や、妙な言動は控えた方がよろしいかと思われます。

 会話は念話で行った方が宜しいでしょう。

 リルはなるべく小さな声で、マスターに聞こえるようしゃべってください》

《ん、了解》

「畏まりました」


 リルは満面の笑みを浮かべると、キノにぴったりと密着した。顔をキノのすぐ耳の所まで持っていくと、擦り寄りながら話をする。


「このぐらいでよろしいですか」

《そのぐらいでよいでしょう。ありがとうございます》

「いえ、私こそご馳走様です」


 2人? (1人と1体?)は何故ご馳走様? と思うが、口には出さないでおく。


《とにかく、実際に人と関わってみると一般常識だけで対応できない事って多いね》

「そうですね」

《私もそのように思います。

 予測できない事案が多く、なぜこのような結果となったのかも分かりません。

 咄嗟の事態を考えると、改めて会話時の判断はマスターに全てお任せすると言っておきましょう》

《へぇ、サブでも読めないことがあるんだ?》

《例え幾億の知識を持っていても、たった一つの現実に翻弄される事はままあります。

 理屈と感情の隔たりが起こす、不確定要素とでも申しましょうか……》

《そっか、サブも勉強をしているんだね》

《勉強……そうですね。

 感情を知る勉強中でしょうか?

 少しでも不確定要素の計算を正確にする為には、多くのサンプルから多くの感情を学ぶ必要性があると考えられます》

《判った。

 なるべく力になれるよう頑張るよ》

《ありがとうございます》


 少しの間、沈黙が降りるが、口火を切ったのはサブからだった。


《そう言えば、先ほどのユエル様の件。

 あれは宜しかったのでしょうか?》

《ユエル様……あのお姫様のこと?

 そうだねぇ……まさか求婚されてたなんて思って無かったよ……》

《あれは人間特有にある、一目ぼれというものでは無いでしょうか。

 ですが、宜しかったのですか?》

《ん? 何が?》

《求婚を断って逃げた事です》

《だって、そんな事したら勇者様のお力になれないじゃない》

《王配となれば色々と、陰から日向から勇者様のお力になる事が可能と思われますが?》

《そうなの?》

《はい。王の権力を用いて勇者様を手助けすれば、マスターが1個人として手助けするより、ずっと大きな力になるかと》

《うあっ、そうだったのかぁっ……》


 キノは思わず額を頭で押さえ、ソファの背にのけぞってしまう。

 だが、直ぐに気を取り直すと、サブへ話しかける。


《まぁ、過ぎた事だしいっか》

《そうですね》


 2人にとってはすでに終ったものと思っている。実はそうではなかったりするのだが……

 例えば、先ほどアッシュが勘違いしたようにこの指輪をしている限り、コリアンダー皇家の一員とみなされる。

 しかもこの指輪、死ぬまで外す事ができないと言うおまけ付きだ。


 ちなみにまったく会話に参加していないリルはと言うと……


「うふふ~、キノ様の匂い~

 えへへ~、あったかいなぁ~」


 尻尾をパタパタさせながら、キノの太ももの上でごろごろしていた。

 神獣であるフェンリルが、元スライムの膝上でとろけきっているとは……

 獣生、何が起こるか判らないものである。



「さて、どうしよう?」

《そうですね、マスター。遅くなりましたが、スキルの把握を行ってはいかがでしょうか?》


 相談も終わり、キノが暇を持て余してどうしたものかと思案していると、サブから提案があった。


《そう言えば、魔法はサブのおかげで使えるようになったけど、他に何が出来るのか判らないや》

《そうですね、この状況で試す事ができるのは、【神の眼】、【魔力付与】、【空間操作】。

 それと、私が制御すれば【属性魔法】も可能でしょう》

《なるほどなるほど……

 ……で、説明して貰っていい?》


 分かっているようで全く分かっていないキノへ、サブが丁寧に説明を始める。


《まず【神の眼】ですが、意識して対象を観察する事により、対象の情報を読み取る事が行えます。

 こちらはこの肉体の所持していたスキルの一つです。


 次は【魔力付与】です。

 こちらは肉体に魔力を循環させる事により、筋力の何倍もの力を出す事ができます。

 この肉体は精霊の加護が無かったので、魔法が使えない代わりに魔力付与を取得出来たと思われます。

 精霊の加護が無いと言うものは滅多にいないのですが、全ての精霊に見放されたもののみ得る事が可能なスキルといわれております》

《精霊の加護って? それって必ず受けるものじゃなかったっけ?》


 この世界での魔法は、精霊に渡した魔力で奇跡を起こす現象となる。

 精霊の加護とは、その人間に力を貸す精霊が居ると言う事だ。

 精霊に好かれる者は、何通りもの属性を操る事ができるし、逆に精霊に嫌われる者は使える属性が減る事となる。


《常識と真実は違うのです。

 マスターの言っている事もあながち外れては居ませんが、精霊にも好き嫌いはあるのですよ。


 例えば、光の精霊は気高き心を持つ者。正義心に溢れるもの等に加護を与えます。

 火の精霊は、熱き心を持つ者。火を日常的に扱う者等。

 水の精霊は、穏やかな者。水に関りの深い者等。

 土の精霊は、慈悲深き者。土を愛する者等。

 風の精霊は、自由を愛する者。風の様な者等。

 最後に闇は、どの属性からも見放されたものへ力を貸すので、悪しき心を持つ者へ加護を与えられると思っておりますが、実際には精霊の慈悲から最後の受け皿となっているだけなのです。

 普通は最悪でも闇の加護を受ける事ができるのですが……》

《うんうん》

《ごく僅かに闇の精霊すら見放す、救われない者が居ります》

《うわぁ……》


 若干、嫌な予感にキノはのけぞってしまうが、それでも会話は続ける。


《つまり?》

《その肉体が今までしてきた事は、闇の精霊すら見放したと言う事です》

《えええええええええええええええ~~~~

 っそれじゃ……?》

《多数の者から恨まれている可能性も高いです》

《ひぃぃ~……》


 キノの悲鳴にとろけきっていたリルの耳がピクリと揺れる。


「そうなのですか?」


 リルが身体を起こし、キノの顔を覗き見る。


「キノ様へ恨みを持つものなど、この私が全て消し去って見せます!!」


 その目は本気で、おそらく目の前にキノをなじる者がいれば問答無用で切りかかるだろう。


「いやっ、大丈夫!! 大丈夫っ!! リルは怒らなくて全然大丈夫だからね?」


 今すぐにでも街へ飛び出そうとするリルをキノは懸命になだめる。


《リル、恨まれているのはマスターではなく、マスターの元の肉体に。です》


 サブもなだめようとするが、少々的外れな意見を述べる。


「そうそう、だから僕が恨まれているんじゃないから大丈夫だよ?」


 サブに続きどこかズレている感が否めないが、強引にリルを説得する。


「ほら、もう暫くごろごろしてていいから、大人しくしてるんだよ」

「……はい、キノ様」


 その後も一触即発状態が続いたが、最後には力技でリルを大人しくさせるキノであった。


「でも、そのような輩が目の前に来たら……殺っちゃっていいですよね?」


 顔はとろけきっているが、目は全く笑っていない。間違いなく本気で殺るだろう。


「えっと……お手柔らかにね?」

「はい♪」


 若干引き気味に頷くキノだったが、その答えにリルは満足そうに満面の笑みで答えるのであった。


《髪の色も眼の色も変化している現状。

 気付かれる可能性は、滅多に無いものと思われますので先に言っておきます》

「うん、そうだね。ほらリル、そういう訳だから……ね?」


必死で取り繕うキノとサブだったが、すでにリルは心ここにあらずといった感じで、キノの太ももに癒されていた。


《次に空間操作です。

 こちらは、離れた空間を切り取ったり、繋いだりすることで"ポケット"のような異空間を作り出したり、移動の簡略化をする事ができます》

《"ポケット"はなんとなく判るけど、移動の簡略化って?》

《A地点とB地点を繋がった空間と認識させ、その間を歩くだけでB地点に移動する事ができるスキルになります。

 いわば、コリアンダー皇国とレモングラス公国を一瞬で移動できるようなものです》


 サブの説明を聞いて、キノの頭の中に1人の少女が思い浮かぶ。

 スライムであったキノのを助け、目の前で魔法陣を描き転移を行った勇者パーティーの一人。魔法使いシーだ。


《凄い!! 勇者様と一緒にいた魔法使い様みたいな事が出来るんだね?》

《私が産まれる前ですね? 拝見していないので憶測ですが、同様の効果の術式は存在します。

 光魔法使いの中には体を光に変え、瞬間的に移動する術式も存在しますので。

 このスキルを活用すれば、旅の移動がかなり楽になります》

《じゃ、ここに来るまであんなに走らなくてもよかったんじゃ?》

《このスキルは1度行った所にしか、場所を繋げない。という理由があるので、走っての移動は必要な事でした。

 今はソルト~神獣の森まで繋げることが出来ますが、先ほどまでマスターの脳内地図には神獣の森周辺しかありませんでしたので移動する事はできませんでした。

 それにこのスキルは制御が難しいので、実用段階へは程遠いです》

《なるほど、それじゃしょうがないか》

《今後も脳内地図を拡張する事で、転移可能範囲は広がると思われます》

《楽になると良いねっ!!》

《ええ。そして最後に各種魔法です》

《そう言えば、熱線(ブラスター)も、水作成の魔法も使えたけど……何で?》


先ほどのサブの話が正しければ、キノは精霊の加護が無いはずだ。

なのに、何故魔法が使えたのだろうか?


《マスターは【魔力の実】と【知恵の実】を吸収しました。

 2つの実が交じり合い、僭越ながら私が精霊の役割を行う事ができます。なので、マスターは6つの属性魔法全てを使う事ができます》

《サブ、凄い!!》

《それほどでもあります。

 ですが制御に関してマスターはまだまだなので、暫くは私の方で行います。

 徐々にマスターが自分で制御できるようになっていってください。コンマ単位で発動時間の短縮に繋がりますので》

《判った。訓練してみるよ》

《それでは、実際に訓練を行ってみましょう》

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