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001 プロローグ その1

「ぐっ……ごほっ……」

「希様っ、どうされましたかっ!?」


 黒髪、黒目、日本人的な顔立ちの少年が血を吐いて倒れる。


「毒だ……皆、食うな……」


 その言葉にスープを食べようとしていた3人の手が止まる。


「アイン……解毒を……」


 長身を銀の法衣に包み、銀色の髪とヘーゼル色の瞳を持つ女性が首を振る。


「すみません……敵から受けた毒なら"解毒"で癒せるのですが……口から摂取した毒までは……」


 それだけを言うと、すまなそうに瞳を閉じる。

 余談ではあるが、これはまったくの嘘である。"解毒"の魔法はどんな毒でもたちどころに直す魔法だ。


「ツヴァイ……毒消しは?」


 小さめの身体を黒いローブに包み、金色のポニーテールと青い瞳を持つ少女も首を振る。


「ごめんなさい。この間、不要と言われたので処分してしまったわ……」

「クソッ……少しぐらい気を利かせて残して置けよ……この……ブスッ!!」


 とんでもない暴言だ。彼女はとても美しい。

 145cmと小柄な身体ではあるが、出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいる。

 透き通るほど白い肌を持っていて、民からは天使と比喩されるのも頷ける。


「ドライ……何とかしろ!!」


 長身で、短く刈り込んだ茶髪と茶色い瞳の騎士風の青年は事も無げに言う。


「あ~、すいません……ムリッす旦那」

「ムリじゃねぇ……

 俺は……この世界を救う勇者なんだろ!! ……何としても直せ……このブス共にウスノロがっ!!」


 まったくもって口が悪い。

 ツヴァイと呼ばれた女性が美少女なら、アインと呼ばれた女性は間違いなく美女と呼べる。

 肩まであるサラサラとした銀糸の髪。切れ長だが、何所となく温かみのあるヘーゼルの瞳。スレンダーだが、すらりと伸びた手足。

 ツヴァイが天使なら、アインはビーナスと比喩されている。

 ドライもそうだ。

 最年少で国の近衛に駆け上るほどの天才で常に努力を惜しまない。加えて民の信頼も厚い。

 唯一、『聖剣が異世界の勇者しか認めない』という枷があるだけで、彼が勇者でもおかしく無いと言う民はごまんと居る。


「すみません……」

「申し訳ありません……」

「悪いッス……」


 だが、3人はなじられようともただ黙って頭を下げるばかりだ。


「クソックソックソッ……俺はまだやり足りねぇ……

 せっかくのチート能力なのに……異世界で好き放題出来るのに……

 この力で従わせられないものは無いはずなのに……チクショウ……チクショウ……チクショウ……これなら貯めて置かず、使っちまえば良かった……

 クソッ………………」


 必死の形相で髪を振り乱し、周囲は罵詈雑言を吐くが、次第に声は小さくなり体から力が抜け落ちていった。

 アインが恐る恐る近づくと、瞳孔・脈拍・呼吸を確認する。

 完全に死んでいる事を確認すると、十字を切り祈りを捧げる。


「戦乙女ワルキューレよ、どうぞ彼の者の魂が浄化され、次の系譜へと進む事ができますように……」


 その仕草を黙って見ていたツヴァイが声をかける。


「アイン、そんな奴の為に祈る事無いって……」


 その言葉にアインは眉をハの字にする。


「ツヴァイ、もうその名は止めてください。

 私の名はエーヌ。エーヌ・Eエクランジュ・ニードルです。

 ……それにどんな大罪人でも、全ての人は神の子です。祈るだけでしたらいいでしょう?」

「そうね……貴方は本当に優しいもの……

 それにどんな人であろうと、死ねば同じか。

 あとっ、私もシーって呼んで。シーラノーズ・Aアリア・ドールね」

「俺はビィって呼んで欲しいッス。ビィグライ・Gグレイス・ホールドッス。

 しっかし、やっと名乗る事が出来るようになったッスね」


 3人は顔を見渡すとため息をつく。


「そうですね……

 まさか、勇者様との顔合わせの時、いきなり『あぁ、名前は良いや、左からアイン・ツヴァイ・ドライね。これ以外の名前は許さないから。』と言い出して、それ以後私の名はアインとしか名乗れませんでしたからね」

「そうそう……ふざけんなって感じよね?

 なにかあるごとに力をちらつかせて……

 言いなりになるしか無い屈辱……殺しても殺し足りないわ……」


 女性2人は悲しそうな顔をすると、ビィがやるせない表情で同意する。


「そうッスね……

 同じ男として、関係を強要していた時は何度後ろから切りかかってやろうかと……

 何も出来ず本当に申し訳なかったっス」


 項垂れるビィに対し2人は猛然と反論する。


「そんな事は無い!!

 ビィがいつも矛先をずらしてくれたなかったら私達は……」

「そうです!!

 誇り高い近衛騎士である貴方が、泥に顔を突っ込む真似をしてまで彼を抑えてくれていたから……」

「「最後の砦だけは守る事ができたんです」」


 2人の真剣な声に、今度は別の意味で項垂れた顔を上げることが出来ない。


「いや……それぐらいしか出来なくて申し訳なかったっス。

 もっと前の段階で止められたらよかったッスけど……」

「そんな事よりっ!! これからの事よ!! これからの事を話しましょう?」


 顔を紅くしながらも、ちょっぴり強引にシーが話題を変える。


「ビィ、貴方聖剣に認められたのよね?」

「条件付の特例らしいっスけど、聖剣からの声がしたっス」

「条件付だろうとなんだろうと、異世界人以外で初めての聖剣所有者になったのよ? もっと誇って良いのよ!!」


 聖剣は魔王を倒す為に絶対必要とされている武器だ。

 魔王の不死性を維持する【闇の衣】を無効化する為には、神の洗礼を受けた聖なる武器による攻撃しかない。だが、悪用できないよう、異世界の魂を持つ者しか所持が許されないという特性を秘めていた。


「そうですね。ですが条件とは何でしょうか?

 焦っていたのか、その辺を聞いておりませんでした」

「今代の勇者が改心しない限り、所有者を俺でも可能ってことにしたらしいっス」

「じゃ、大丈夫なんじゃない? もう改心しようが無いし」

「そうッスね」

「「「あははははははははは」」」


 3人はひとしきり笑い合うと、少年の装備や所持品を剥ぎ取っていく。

 聖剣はビィが持ち、鎧や盾はシーが自分の"ポケット"へ突っ込んでいく。


 「ねぇ、"ポケット"の中身はどうする?」


 シーが聞いている"ポケット"とは、正式名称『異次元収納用アイテムボックス入り口ポケット』という。

 所有者の魔力で異次元へアイテム収納スペースを作り、"ポケット"へアイテムを入れることで、作成したアイテム収納スペースへ物を移動する事が出来る優れものだ。

 物を取り出すときも所有者の魔力と意思に反応してアイテム収納スペースへつなぐ為、本人以外がアイテム収納スペースに手を出す事はできず、セキュリティの面でも抜群。

 ただし、アイテム収納スペースは所有者の魔力で作成されている為、所有者が死亡。もしくは石化や消失などで、魔力を放出できなくなった際には、アイテム収納スペースも消失する。

 中の物が消えるのか? というとそのような心配は無い。

 アイテム収納スペースが消えた際は、最後に魔力の供給があった場所。所有者の周辺に中身がばら撒かれるのだ。

 だが、毒殺や衰弱死など、死亡方法によっては死体から魔力が微量に放出される為、アイテムの放出までに時間が掛かる場合がある。

 今回は毒殺による死亡なので、早くても1日ぐらい。遅ければ4日は魔力の放出が止まらない。

 そのため、"ポケット"の中身を取り出すのなら、最長4日待つのか? という意味で聞いている。


「どうせ、ほとんどのアイテムはシーが預かっているのよね?」

「うん、魔力強いんだから、荷物持ちぐらいやれって言われてね」


 魔力によってアイテム収納スペースが作られる為、魔力の大きさ=収納スペースの大きさでもある。個人差があるのだ。


「所持金は私が管理しろと渡されているから、"ポケット"の中身は生活用品とこずかい程度じゃないかしら?」

「待つのは時間の無駄ッスね」

「そうね」

「結論、待つ必要は無しと言う事ですね」


 エーヌのまとめに2人は頷く。



「…………ぴぃぃ」


 遠くからかすかに悲鳴のような声が聞こえる。


「今……悲鳴のようなものが聞こえたっス……」


 ビィの言葉に、シーとエーヌは残っていたものを急いで"ポケット"へと仕舞う。


「行きますよ?

 私達の始めての出番です。勇者ビィに大魔導師シー」

「ええ、行きましょう、賢者エーヌ♪」

「うは~、勇者とか照れるっスねぇ」

「そこっ、水を差さないのっ!!」

「了解っス!!」

「聖剣アルファよ、力を貸してくださいッスね」


 ビィが聖剣をかざすと、応えるように金色の光を放つ。


「聖剣も応えてくれているみたいですね。

 ビィ、方向を教えてください」


 エーヌが尋ねると、ビィは先頭に立って走りながら、2人に声をかける。


「こっちっス、付いてきてくださいっス!!」

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