第1話 初期症状
コレは、何かの天罰か罰ゲームなんだろうか、、、現実なのかも判断できない。
ニュースで見た凄惨な事件が、自分に降りかかるとは誰も思わない。
不条理な事件や事故は、当事者になっても受け入れがたい。
何故なら事故に遭うまでは普通の生活その瞬間まで送っているからだ。
勿論、私もこの18年間は普通に生きてきたし
悪いことはそこまでしてないし
良い事は食塩に含まれる塩化マグネシウムや硫酸マグネシウムの量程度くらいやった。
いやいや、違う。日頃の行いから派生すると言われる
良い行いをしたら→アナタにリターン!
悪いことをしたら→アナタに天罰!
みたいな簡単なことでは済まされない現実が展開している。
「飛行機が・・・・・・・・飛行機が・・・家に落ちてくるなんて・・・・」
小型ジェット機なのか・・・セスナ機なのかバラバラになっててわからないけど
9526?機体の破片に数字が書いてるくらいしかわからない。
しかも、きれいさっぱり我が家がなくなってる。
「なんで、、こんな事って・・・・ありえるの・・・?」
地殻変動くらいゆっくりしたものなら頭の回転の悪い私にも説明はできるんだけど
一瞬の出来事過ぎて記憶に留めていられなかった。
今日は学校終わりに友達とカラオケに行って、ショッピングをして意気揚々と家路につき
我が家のドアを開けようとしたその刹那
後ろから甲高い機械音と凄まじい轟音が、不吉なハーモニーを奏でながら迫ってきた。
驚きのあまり、ふと後ろを振り向くと・・・・・・。
火ダルマになった飛行機が私を目掛けて墜落しようとしていた・・・・・。
恐怖のあまり笑う膝を必死に前に向け、家から離れる為に走り出す。
次の瞬間、聞いたこともないような爆発音をたて、我が家に飛行機が墜落した。
酷い煙と焼け焦げる匂い。
目の前の光景に呆然と立ち尽くしていると自然と涙が溢れてきた。
なんの冗談だ・・・ってか何で私の家に落ちてくるのよ・・・。
「おっ・・・お父さん・・・お母さん・・・家にいたんじゃ・・・・うううぅぅ」
悲嘆にくれる私の隣から声が聞こえる。
「ねぇ・・・ねぇ・・ねぇ!!」
聞き覚えのある声に咄嗟に振り向いた。
「はっ・・・えっ??・・・なっ、なに?」
「ちょっと、お姉ちゃん・・・なに家の前で号泣して黄昏てんのよ!」
妹の蛍の声で我に返った。
「蛍ぅ・・・家がぁ・・・家がぁぁ・・・・バーーーン!って・・・・・お父さん・・・お母さん・・・うううう」
鼻水交じりで今の精一杯の現状報告をした。
「はぁ?家? バーン!って何よ。脳みそにウジ湧いてんじゃん?もういいよ早く家に入ろ?」
「だっでぇ家はぁ、、無ぐなっでまずぅぅ」
「はぁぁ? お姉ちゃんどうしたの? 家、ほら あるじゃん」
蛍が指差す家の方角を見ると
無くなっていた筈の、粉々に吹き飛んだ筈の我が家が・・・・
普通に建っていた!
「あっ・・・あっ・・・・ある!!!!!」
異常な驚きに、妹が軽蔑の眼差しで私を捕らえる・・・・。
「マジで脳みそにボウフラ湧いてんじゃん? 早く入ろ?」
「う・・・うん」
何故だ!私が見た光景は間違いなくリアルだった・・・はず・・・・。
あの音、あの光、あの衝撃、あの焼ける匂い。そんな馬鹿な・・・・。
確かに飛行機は墜落してきた!見間違いでもなんでもない。
頭が混乱したまま、蛍に腕を掴まれ家に入る。
玄関先でボーッとしていると、リビングから両親と妹の驚く声が聞こえてきた。
「うわぁ・・これは直撃だなぁ」
お父さんの「直撃」という言葉に反応した私は「ただいま」の声を早口に
リビングに向かった。
3人が食い入るように見ていたTVのニュース番組。
衝撃の映像が私の目に飛び込んできた。
「こ・・・これって・・・私が見たのとそっくりじゃない・・・・・」
口篭る私をよそに3人は井戸端会議の奥様並みに事故の感想を言いあっている。
「墜落して家に直撃なんて、、現実とは思えないわ」
お母さんが目を丸くしながらついて出た言葉に、蛍がこう言った。
「私たちの家じゃなくてよかったねーーーー!」
3人がうなずき合う。
「うむ、不幸ごとだが我が家でなかったことを感謝しないとな」
お父さんが言った言葉を頭に残しながら画面をもう一度よく見ると、ある数字が飛び込んできた。
『9526』
「な・・・・なんなの・・・・」
視点がゆっくりと天井を捉え、足の力がカクッと抜けた。
バタン!大きな音を立てて倒れこむ。
私は気を失ってしまったのだ。
「うぅ・・・。ぅーん」
どのくらい気を失っていたんだろう・・・。
しばらくして私は目を覚ました。
私はリビングのソファーに寝ていて、優しく毛布が掛けられていた。
私の声に気づき蛍が声をあげる。
「お父さん!お母さん!お姉ちゃん起きたよ!」
慌しく両親が私に駆け寄ってくるのが微かに開けた目の視界に入ってきた。
「ちょっと、瑠伊ちゃん、大丈夫なの?」
お母さんが今にも泣きそうな顔で私を覗き込んでくる。
私のお母さん、里中真知子さんは相当の心配性なのだ。
「き、気分が優れないのか?病院連れていこうか?」
いつも冷静で落ち着いている頑固オヤジのお父さんが珍しく慌てていた。
お父さんはの哲夫は、大工職人。見た目がほとんどヤクザ。
「う、ぅん・・・。大丈夫、、ありがと」
でも、、、、3人とも顔が近すぎ・・・・。
「ちょっと、クラッとしただけだし、なんでもないから心配しないで・・・」
「心配してないケド、驚いただけぇ~」
と蛍がボケると
「蛍、お前のそういう所は関心せんな」
とお父さんが蛍の頭をポンっと叩き
「瑠伊に水を持ってきてやれ」
とお母さんに促した。
少し気分が落ち着いた私は心配する両親をなだめて自分の部屋に戻った。
「・・・・。あのニュース、んん・・・私が見たアレはなんだったんだろう・・・」
そう、私は確かに見た。我が家に飛行機が落ちて木っ端微塵になっているところを。
幻覚とか言うレベルじゃなくて、立体的と言うか、超リアルだったのは覚えてる。
「でも、日本じゃないみたいだったし、、、偶然なのかな・・・」
デジャブヴって言うのかな・・・でも夢じゃないし、シンクロ?
まさかアニメじゃあるまいし・・・。
「ちょっと疲れてるのかな・・・・」
そんな独り言を言いながら、ベットに身を投げるといつの間にか寝てしまった。
「オマエ・・の・・・・せ・・い・・・・だから・・・・」
「オマエの・・・せい・・・だから・・・」
「オマエのせいだからな!」
その声に飛び起きた。
「っつう・・・・頭がいたい・・・」
激しい頭痛が襲う。
そして部屋を見渡す。
誰も、、いるわけがない。
「夢か・・・・な・・・・・」
誰かが私のせいだとか何とか言ってたような、そんな感じの夢だったような・・・。
時計を見るとAM3時10分くらいで、眠気の取れていない私はすぐに眠りに落ちた。
「オマエのせいで・・・・死ぬ・・・・・・・・・」
ああ・・・また聞こえる。
「オマエのせいで無関係な人々が次々死んでいくんだ!」
近くにいるのに遠くに見えるそのヒトは苛立ち混じりに私に言っている。
気体の様な液体の様な、不安定なヒト。
これ私の夢だ。
眠って夢を見ているとき、これは自分の夢だと気づくことが誰でもあると思う。
なんでもアリの奇想天外な物語になるのが夢ってものだし。
「私に何の責任があるのよ!うざっ」
反論を言ってみたりした。
「オイ!これは夢じゃないぞ!」
不安定くんが叫んでくる。
「オマエが近未来型のフューチャー・ビューイングで見た飛行機事故と
ブラジルで起こった飛行機の墜落事故は同じ事故だ」
「な・・なんでよ!!私関係ないじゃない!」
「万象拒否の時空間回避ってやつだ」
こいつ私の頭のレベルをわかってない。
「意味がわからないんですけど」
「つまり、オマエの周りでもうすぐ起こるべき事象が先に見えて
ソレをオマエは却下した。その結果、この地球上で起こりうる事象が
別の地域で発生した。。。。そういうことだ」
「気をつけろ・・・・・・・」
何かを言い返そうとした時に、お母さんに起こされた。
「瑠伊ちゃん。もう起きる時間だけど学校行く?気分が悪いなら今日は休めば?」
昨日のことをまだ気にしてくれているみたいだった。
サンキュお母さん。
「ううん。大丈夫。学校行くよ」
元々、寝起きの悪い私だけど心配掛けたくないから、引きつった満面の笑みで答えた。
それは、いつもの日常の始まりで、非日常の始まりだった。