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サイレント・シグナル

作者: notomo

 いつも、頑張っている人へ。あなたを支えてくれる人がいます。泣きたいときには、泣いてもいいのです。

「サイレント・シグナル」

 「木原さん、すぐ、病院に行ってください」

 小春は、三時間目の国語の時間、突然教頭先生に告げられました。突然のことで、訳が分かりません。

 先生と一緒に病院に到着すると、ママが待合室で号泣していました

「ママ、どうしたの?何があったの?」

 小春は、ママが病気になったのかと思いました。でも、違いました。

「小春、どうしよう、パパ、死んじゃったわ

 自動車とぶつかったって・・・ワーン」

 ママがひどく泣いているので、小春は、泣くことができませんでした。パパが嫌いな訳ではありません。その逆です。世界で一番大好きなパパと、もう、会うことが出来ない。小春の心もつぶれそうでした。でも、ママが泣いている今、自分も泣いてしまうと、ママを困らせる、と思ってしまって、泣けなかったのです。

 「ママ、小春がいるよ、もう四年生だから、もっとママのお手伝いできるよ。パパも、天国で見ててくれるよ」

 「そ、そうね、小春ー」

 ママは、小春に抱きつき、ますます激しく泣きました。小さな小春が、大きなママを抱きしめていました。

 翌日は、お葬式です。親戚の方々が、大勢駆けつけてくれました。おばさんは、

 「小春ちゃん、しっかりママを守るのよ」

 と、いいます。おじさんも、

 「いつまでも悲しんでいると、天国のパパが心配するよ」

 と言いました。小春は、お葬式の席でも、泣きませんでした。泣き崩れているママの分まで、しっかりと、お式のお手伝いをしました。しんせきのみんなは、

 「けなげな、えらいこだ」

 「しっかりしているわね、お母さんもいい娘さんがいて、幸せね」

 と、口々に言っていました

 お式が済んで、一週間ほど立つと、ママも少し元気になり、お仕事を始めました。小春も、いつも通り学校に通い始めました。ママのお仕事は朝早くから始まるので、小春は、自分で朝食を作りました。いつも、

 「いってきまーす」

 と、元気に言っていた自分を思い出して、寂しくなってしまいましたが、みんなの言葉を思い出して、涙をぐっとこらえました。黙って、カチリと鍵を閉めました。

 学校につきました。クラスの人気者だった小春を、クラスのみんなが、口々に慰めてくれました。お友達の声に、答えようとした、そのとき、小春はびっくりしました。声が出ないのです。お友達も、口をぱくぱくしている小春を見て、驚いています。

 先生に話しかけられても、声が出ません。心配した先生は、

「今日は、早退する方がいいわ。お家にも手紙を書くから」

 と言いましたが、ママにだけは心配をかけたくありません。

「大丈夫です」

 小春は、紙に鉛筆でそう書くと、先生に渡しました。

 授業でも、小春は声が出ません。そんな状態が、二週間も続きました。でもお家では、ちゃんと声が出るのです。

 ある日、学校に行くと、黒板に、

「木原は、けびょう」

 と書かれていました。お家でママと話している小春の声を、通りがかった男の子が聞いていたのです。

 クラスのみんなは、小春がわざと話さないのだ、と思い込んでしまいました。仲良しだったお友達も、小春からはなれていきました。

先生も、一人ぽつんとしている小春が気がかりでなりませんでした。そして、小春に、一つの係をしてもらうことに決めたのです。

「木原さん、飼育係に、興味ないかな?うさぎさんは、好きでしょ?本当は五年生からなんだけど、木原さんなら、安心して任せられるわ。月・水・金の放課後と、朝に、お世話、頼めるかしら?」

 小春は、うさぎさんが大好きでしたので、

 「がんばります」

 と、書いた紙を、先生に渡しました。

 翌日、学校に出発です。いつもは、心が重い小春でしたが、今日は、初めての飼育係です。久しぶりに、心が弾む気がしました。

 うさぎさんは、すぐに小春と仲良くなりました。うさぎさんは、鳴かない動物です。でも、その目を見れば、気持ちがわかります。ふわふわで、あたたかな毛をなでているとき、つかの間でしたが、心からリラックスできるのでした。

 小春は、かかさず、飼育係のお仕事をしました。ママも、

「小春、前より生き生きしてるわね。ママ、安心してお仕事に行けるわ」

 と、言ってくれました。

 でも、相変わらず、声は出ません。授業は、なんとかついていくことができましたが、体育や、発表学習の時間は、見学でした。

 そんなある日の放課後のことです。飼育係の日でしたので、小春は、うさぎ小屋に向かいました。小屋の前に、知らない男の人が立っています。手には、バットを持っています。うさぎさんたちも、ブルブル震えています。

男の人は、鍵をがちゃがちゃやっていて、今にも、開きそうです。

「うさぎさんが、危ない!」

 そう思ったとき、小春は、

 「助けてー!」

 と、大声で叫んでいました。声が、出たのです。すぐに、用務員のおじさんが駆けつけてくれて、男の人は、逃げていきました。

 おじさんは、

「いつも、お世話してくれている子だね、ありがとう。」

 小春は、恐ろしさと安堵で、用務員のおじさんのうでにつかまってわんわん泣きました。

「寂しいよー、天国のパパに会いたい。ママに、抱きしめてほしい。小春、えらくなくていい!ひとりぼっちは、嫌なの!」

 小春が泣くのは、パパが天国に行ってから、初めてでした。用務員のおじさんは、黙って小春の髪を撫でてくれました。他の人のように、

「しっかりしなさい」

 とも、

「木原さんなら、大丈夫」

 とも、言わなかったのです。小春の名札を見て、優しい声で、

「そうだなあ、あ、四年生か、小さいはずだねえ。寂しいときは、泣いてもいい。いや、泣かないと、いけないよ。心が、ちっそくしちゃうよ」

 小春は、まだしゃくりあげていましたが、おじさんの言葉に、うなずきました。

 その日、赤い目で家に帰った小春に、ママはびっくりして言いました

「小春、どうしたの?」

 以前の小春なら、うそをついて、心配させまいとしたかもしれません。でも、おじさんの言葉を信じて、すべてをママに話しました。学校で声が出なかったこと、毎朝、寂しくてたまらなかったこと、今日あった出来事。途中からは、泣きながらになってしまいましたが、ママは、小春をしっかり抱きしめてくれました。

「ごめんね、ごめんね、小春。小さいあなたに、頼り切っていたわ。弱いママだけど、これからは、二人で、ゆっくりやっていきましょう。何でも、相談してちょうだい」

 小春は、ママの腕の中で、思いっきり泣くことができました。ママの優しさと、強さに安心して、涙が止まりませんでした。

 その夜は、久しぶりにママと同じお布団で眠りました。二人で、おしゃべりをして、楽しい夜になりました。

 翌日、ママはやっぱりお仕事に出かけていましたが、テーブルには、手作りの朝ご飯と、お手紙がおいてありました。

 「おはよう、小春。昨日は、楽しかったわね。ママはさきに出かけるけど、気をつけて学校に行くのよ。楽しいことも、辛かったことも、夜に聞かせてちょうだいね。今日も、小春が幸せでありますように。いってらっしゃい ママ」

 このお手紙は、小春の宝物になりました。

小さく折り畳んで、学校に持っていきました。

校庭で、用務員のおじさんに

「おはよう、小春ちゃん」

 と、声をかけられました。

「おはようございまーす」

 小春は、元気に答えられました。おじさんは、ニコニコ優しく微笑みました。クラスに入るときは、さすがに緊張しましたが、ポケットの手紙が勇気をくれました。

「おはよー」

 クラスで響いた本当に久しぶりの小春の声に、最初みんなは戸惑っていました。小春は、思い切って、昨日の出来事と、自分の気持ちを、思い切って、みんなに話しました。すると、

 「木原、ごめん。黒板にかいたの、俺なんだ。ほんとうにごめんな。お前がそんなにがんばってたなんて・・・俺知らなくて」

「あのときは、傷ついたよ。すごく悲しかった。小春も、みんなと同じ四年生だから。でも、その分も今日から、もっとなかよくなろうよ、ね?」

 みんな、小春の回りに集まってきました。  みんな、本当の小春が、大好きだったのです.お家に帰ってから、小春は手紙を書きました。「パパ、小春、寂しいよ。パパに会いたい。でも、みんなや、ママが支えてくれるの

安心して、見ていてね」

 赤い風船につけて、空に向かって飛ばします。きっと、天国のパパに届いたでしょう。

                 おわり


 がんばりすぎて、自分を見失うことは、よくあることかと思います。そんなとき、このお話を思い出してくれたら嬉しいなあと思い、描きました。ご感想お待ちしております。

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