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犬予報

掲載日:2026/10/06

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 予報。

 古来、物事の何がいつ起こるかは、重要視されてきた情報だ。かつて、これを読む手段は相当の専門知識を持つ者以外いなかった。無知な者から見たら、的中させるさまが、まるで魔法のように思えたかもしれないな。

 しかし、そのタネが暴かれて分析され、多くの人の前へさらされると、たちまち陳腐化への一途をたどってしまう。魔法はそこになく、科学的に誰でも再現可能となると、これまで通りの夢とか期待とか抱き続けるのが難しい。

 憧れは去った。けれども、もたらされる影響は変わらない。自分たちが劇的な進化をとげるでもしないうちは、昔ながらの対策を行い続けなくてはいけないわけだ。そしてそいつは、人間の世ばかりの話じゃない。

 ちょっと前に友達から聞いた話なのだけど、耳に入れてみないか?


 電信柱などに、犬がおしっこをするシーンといえば漫画にも描かれる、おなじみのシーンだ。

 自分のなわばりを示すマーキングの行動だと、よく知られている。自分の領域を確保することは動物たちの間で重要なことだろう。人間みたいに大掛かりな住処を確保することはめったにできないだろうし。

 そのうえで、同じ犬の姿を見かけたら吠え合ってけん制だってする。自分の脅威になりうる存在かどうかは、見極めないといけないからな。

 犬を飼い、散歩させている身だったら、このような景色はおなじみかもしれない。でも、ときに彼らも異様な仕草を見せる場合もあるようだ。


 友達も、その日はちょうど早めの帰宅時間で、犬の散歩へ出かけていたそうだ。

 友達の家の犬は、とても従順な柴犬。引っ張られたら動くものの、リードを持つ者にくっついてまわり、自分からふらふらしようとはしない。

 先のマーキングや、他の犬との吠え合いもするにはするが、数は多くない。路上で用を足すことも、おそらく他の犬に比べれば少ないんじゃないか……とは友達の談。

 主人にいらぬ手間をかけさせない、という面においてはすこぶる優秀で、散歩自体のけだるさをのぞけば、友達としてもこの時間は嫌いじゃなかったのだけど。


 散歩コースの終わり近く、とある県道のストレート部分だ。

 そこの歩道に、等間隔で立つ街路樹があるそうなのだけど、その一本へ犬がにわかに歯を立てたのだとか。

 だしぬけの噛みつきっぷりに、友達も驚いた。柴犬は茎も折れよ、砕けよといわんばかりの力の入れようで、樹皮にはっきりと歯型が残ってしまっている。

 ぐっとリードを引っ張っても、珍しくこの犬は反抗の意を示し、なかなか離れようとしない。これもまた想定外の頑固ぶりに、友達も負けじと二度、三度と引っ張って、樹から離れるよう促していく。


 なんど、引っ張り合いをしただろうか。

 友達がぐいっと引っ張ったリードが、急に手ごたえなく引っ張りあげることができたんだ。

 犬が従ってくれたわけじゃない。その犬自身が、ぱっと消えてしまったんだとか。先まで予想していた抵抗を踏まえ、かなりの力をかけていたから勢い余って、しりもちをついてしまう友達。

 目をぱちくりさせて、残された街路樹を見つめる。かじるどころか、半ばえぐられて黄色い身を見せる幹は、その縁から柴犬のつけたよだれを、つつっと垂れ流していた。

 そのよだれが、地面へ達したとき。空っぽだったリードの先の首輪に、再び柴犬が戻ってきたんだ。

 消えたときと同じく、ぱっといきなり姿を見せた。けれども、きつね色だったその毛並みは黒いタールのようなもので、たっぷりと汚れていたそうなんだ。

 どこに消え、その間に何をしていたのか。犬は語ってくれない。

 しかしあの必死な噛みつきぶりは、おそらく消えた先から戻るために、必要なマーキングだったんじゃないか……と友達は考えているみたいだよ。

 その予めの報せを、犬は何かしらから読み取ったのかもしれないね。

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