村人Aの俺だけ、ラスボスに弟子入りしていた
子供の頃やったゲームはボスを倒すとエンディングだった。
一日一時間しかゲームをやらせてもらえなかった俺は、勇者たちと数ヶ月の冒険をした。
初めてラスボスを倒した後の充足感を超える経験は一生を通じてそうなかった。
そして、折に触れて思い出す。
ラスボスを倒した世界で、勇者たちは元気にやってるかな——。
◆
その思い出のゲームの世界に俺は転生した。
村人A、それが俺の名前だ。
しかしこの世界、同姓同名が結構いる。
バリエーションが、村人、街人、城人、AからZしかない。
だから、ラスボス手前の村の村人Aと覚えてくれ。
◆
俺は前世の記憶を取り戻してから、ずっと勇者一行を待っている。
前世で子供の頃に一緒に冒険したんだ。
あっちが覚えてなくても、大親友だ。
だから、ラスボスに弟子入りすることにした。
必ずラスボスを倒す勇者たちの、その後の人生をサポートするために!!
このゲームは、ラスボスが倒された後の百年後を舞台にした続編が出ている。
舞台は同じなのに、そこでは今と地形も変わって国も変わっている。
国名は勇者とのつながりを感じるものではない。
同じ地名の場所もあるのだが、変わった部分が多すぎる……。
これはたぶん、ラスボスが倒された後に暗躍した者がいる——。
それは、不動産業者だ!!
奴らが、ラスボスのいなくなった世界でラスボスの土地だった場所を好き勝手に売り買いして、地形や国名まで変えてしまった!
元手ゼロで手に入れたラスボスの土地の売買で利益を貪り、国王の権力を上回るほどの力を手に入れて人間の世界までをも変えてしまったに違いない!
勇者たちは不動産の知識がなかったばかりにその恩恵に預かれずに、国に名を残すこともなく死んでいったんだ……。
そんな惨めな勇者たちの最期は俺が許さない!
前職を活かして、勇者たちを全力サポートするぞ!
◆
俺は前世で不動産仲介会社の売買営業をしていた。
前世の事を面接で聞かれることはないと思うけど。
「ラスボス手前の村の村人Aよ。何故、魔王であるワシに弟子入りするなどと考えたのじゃ」
「はい、魔王様の魔王城の運営手腕に感銘を受けまして、ラスボス手前の村の運営にも活かしたいと弟子入りを志願しました」
「よし、採用じゃ」
やったー!
魔王様に弟子入りして分かった事だが、魔王城周辺や各ダンジョンだけでなく、人間の世界にも魔王様はかなり土地を持っている。
魔物を送り込む拠点として、RPG的イベント時に使用する為のものだ。
この土地が全て魔王様の死後は所有者のわからない土地として不動産業者が勝手な売買をしていったのだ。
地形が変わるほどの変化も起こる。
これはちゃんと登記しておこう。
◆
「魔王様、現在人間界にある住む者がいなくなった土地ですが……」
「……事故物件になってしまった土地のことか……」
「勇者に攻略されたからと言って、人間界にある洞窟や森、迷宮など魔王様の手下の住まいだった場所は未だに魔王様に所有権があります。放置して人間に勝手に開発させるわけにはいきません」
「しかし、中ボスたちが亡くなった場所は事故物件に当たるから、人間にはなかなか売れんし、新しい魔物に貸すにしても嫌がられる」
「それは俺に任せてください。弟子の俺に売買委託してもらえたら、必ずや魔王様のお役に立ってみせます」
俺は勇者が攻略していったダンジョンを見て回る。
人間の国と国の間の要所にある好立地の土地が多く、事故物件として買い叩かれて人間に売ってしまうのはもったいなかった。
新しく有力な魔物に借りていただきたいが……。
「勇者が戻って来て、魔物を蹂躙したり、金になるものは持ち去ってしまうでしょう?」
中ボスが亡くなった事よりも、一度攻略されてしまった事が気になるようだった。
「……ダンジョンはやめて、人間側の施設にします。宿や荷物の保管所にすれば、勇者たちも戻って荒らしたりはしません」
将来的には魔王を倒した勇者たちのものになるけど。
◆
「ふむ、今月の利益はこんなにあるのか! 弟子よ、よくやった」
不動産からの収入に魔王様は大変満足していた。
いずれ勇者のものになるとも知らずに……クククッ。
「これがあれば、今まで金が借りられず無理だった神殿を正式に手に入れられるかもしれぬのう」
「……神殿ですか……」
人間の宗教の中心地で、心の拠り所だが……実はそこの大司教は魔物が化けている。
ラスボスの手前くらいの手強い敵だが……神殿自体は人間のもので、ボスまでに面倒なダンジョンを攻略する必要のない場所だが……。
その神殿を買うと言うことは、魔改造しようと言うのか!?
勇者の不利になるかもしれない……。
しかし、魔王様の弟子であり売買委託されている身では、どうする事も出来ない……!
悩んでいる中で、俺は大司教に化けた魔物に呼ばれて神殿に行く。
神殿側との売買契約の話が進んで契約書類を取り交わすところまで来ているらしかった。
俺は、大司教から見て欲しいと渡された書類を確認する。
特に問題があるとは思えない、ちゃんとした書類だった。
「大丈夫です」
と言ったが、違和感があった。
「大司教、この取引を実際にしているのは誰となんですか?」
「この神殿の持ち主だが」
魔物の大司教が答える。
「持ち主ですか……」
それはおかしかった。
「神殿の所有権は宗教団体にあって、個人にはありません。その人は神殿の持ち主ではありません……!」
「な、なんだと!?」
この世界にも地面師がいるのか!?
大司教に詳しく話を聞くと、取引をしているのは神殿の管理の責任者だった。
不動産知識のない魔物の大司教には、神殿の管理権の責任者が、神殿の所有権まで持っているように見えたのだろう。
「クッ! 魔物に乗っ取られた神殿で、建物まで乗っ取られるくらいなら、金だけ騙し取って何が悪い!」
管理責任者は大司教が魔物だと見抜いたが、すでに乗っ取られた神殿を取り戻すのは諦めて、こんな手に出たらしい。
俺は、契約の最終段階、現金の引き渡しの時に責任者を仲間共々捕まえた。
魔物の中に不動産知識のある俺の姿を見て驚いていた。
魔物だからといって、知識差から詐欺師が暗躍出来る時代は終わったのだ——。
しかし、時代の終わりの影響は魔物側にもあった。
本来なら、こんな詐欺師たちは魔王城に連れて行き、魔物のルールで罰していたのだが……人間側と不動産取引をはじめた関係でそれが出来なくなった……。
不動産詐欺を働いた人間は人間の世界のルールで裁かれる。
……魔王様の罰が可愛く見えた……。
——しかし、勇者のためならここは魔王様に詐欺に遭って貰って金だけ取られた方が良かったのだが……。
この件で魔王様には現金は残った。
それだけでなく、毎月の収入も入ってくる。
騙されたところで、実はまた神殿を買える金はすぐに貯まったのだ……。
「神殿の本当の持ち主は私です」
勇者を輩出した国の国王が魔王様に商談を持ちかけていた。
俺は神殿は宗教団体のものだと思っていたが、国王が貸し出していたのか。
国王から神殿を買った魔王だが……国王の勧めで他の投資にも次々に手を出していく。
毎月の収入は俺の管理していた不動産収入だけの頃とは比べ物にならないほどに莫大になった。
しかし、毎月の投資額は収入を超える勢いで……。
俺は不動産業者こそが真の悪だと思っていたが……間違っていたのか……!
魔王様が投資にうつつを抜かしている間に、魔王様は倒す相手ではなくなってしまっていた。
「いらっしゃいませ」
俺が魔王様から任せられている不動産会社に四人の客が来る。
「もう旅する必要がなくなったんで定住したいんですけど……」
それは、かつての勇者パーティーだった。
もう戦う必要のなくなった俺の親友たち——。
「では、ここにお名前を書いて下さい——」
俺が付けて、呼んでいた名前を——。
◆
「あれ……この名前……」
元勇者 アルト、元剣士レオン、元魔法使いミリア、元僧侶セシリア……俺が知ってる名前じゃない……。
そして、続編の国名——、
勇者アルトは、アルトリア王国。
剣士レオンは、レオニア王国。
魔法使いミリアは、ミリア王国。
僧侶 セシリアは、セシリア王国。
似てる……。
このRPGの勇者パーティーには名前がなかった。
だから、製作者が続編を作る時に設定していたんだ。
あ、勇者たち、全員ちゃんと国に名前残してたじゃないか!
……あ……。
……。
さすが、俺の大親友!!




