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テイク2。

スピカは残りわずかな信仰ポイントの数値を睨みつけた。


(全部使っちゃダメ。少しずつ。慎重に。でも——パン屋さんを守らなきゃ)


リザードマンが大剣を構え、地面を蹴った。


「い、今です!」


スピカは信仰ポイントを絞り出し、奇跡を発動した。


戦場に——音楽が流れた。


軽快なメロディ。明るく、弾むような、朝の匂いがするオープニングソング。スピカがかつて平和な時代に、自分の信者たちに向けて歌った持ち歌だった。


♪ ぱりっとふわっと焼き上がり 今日もいい日になりますように ♪


「な、なんだこの曲……!」

「これは、オープニング曲!? ばかな、戦闘中に、オープニング曲が流れてきただと!?」


青年が困惑する。だが——身体が軽い。力が湧いてくる。BGMの演出効果によるものなのか、謎の能力補正が全身にかかっている。


リザードマンの斬撃をかわした。一撃目。二撃目。三撃目。音楽が鳴っている限り、身体が勝手に動く。


「い、いける……!?」


四撃目の大振りを紙一重でかわし、がら空きになったリザードマンの胴に、青年は渾身の一撃を叩き込んだ。


ずどん、と鈍い音。リザードマンがよろめき、膝をつく。


「やった!」


青年は、自分の中に目覚めた謎の力に当惑していた。


「なんだ……この、力は……!」


——と、その瞬間。


音楽のボリュームが、すぅっと下がった。


そして——リザードマンの身体が、黄色い光に包まれた。


傷が塞がっていく。力が戻っていく。リザードマンは目を瞬き、自分の身体を見下ろし——ゆっくりと立ち上がった。


「……なっ!」


青年が凍りついた。

立ち上がったリザードマンが、再び大剣を構える。

完全回復。


「ちょ——嘘だろ!?」


神界。

ズーPの目が、ゆっくりとスピカに向いた。

スピカは——両手を胸の前で組んで、目をそらしていた。


「おい」


「……」


「スピカ」


「……はい」


「お前、敵を回復させたな」


「……」


「お前の信者が貯めた信仰ポイントを使って、お前の信者が倒した敵を、お前が回復させた。そういうことだな」


沈黙。


スピカの目に、じわりと涙が溜まった。


「だ、だぁってぇ……!」


「だって、じゃない」


「かわいそうだもん!」


スピカは両目から涙をぼろぼろこぼしながら叫んだ。


「だって、あの子——リザードマンさん、あの子だって怖かったんだもん! 斬られて、痛くて、怖くて——あの子にもきっと帰る場所があるんです!

 あの子だって誰かに祈ってるかもしれないのに! だから——だから——」


スピカは鼻をずびずび鳴らしながら、それでも目だけは逸らさなかった。


「かわいそうだったんだもん……!」


ズーPは天井を仰いだ。


長い、長い沈黙。


それから——ため息をひとつ。


「……もう一回だ」


スマホを取り出し、電話をかける。コール音。一回で出た。


『——もしもし。嘘っすよね?』


アウネラの声には、すでに諦めが滲んでいた。


「すまん、もう一回だけ頼む」


『一回だけって言ったの、さっきの一回だけって言ったの、誰っすか!? ズーさんっすよね!? 十五分前のズーさんっすよね!?』


「頼む」


『頼む、じゃないっすよ! こっちはモンスターブロジア三本開けてんすよ!? いくら私のあだ名が『神界のChatGPT』だからって同じペースで女神に仕事させて許されると思ってるんすか!? サマ=アルトムンに言いつけてやる!——』 


「ゴディバ送る」


沈黙。キーボードの音が止まった。


『……何粒っすか』


「ひと箱」


『…………トリュフ入りっすか』


「入りだ」


長い沈黙。エナジードリンクの缶を握り潰す音。


『——最後っすからね。本っっ当に最後っすからね!!』


水晶モニターが、またぶれた。


キュルキュルキュルキュル。


あのコミカルな巻き戻し音。リザードマンが立ち上がるのが逆再生され、黄色い光が身体に吸い込まれ、斬撃が巻き戻り、二人がまた対峙する——


テイク3。


最後のやり直し。

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