七
フェスは大団円で幕を閉じた。
レオンの襲撃という事件はあったものの、フレマルの光による防御とレオン自身の自力解呪という劇的な展開が「演出の一部」として受け止められ(女神のフェスでは割とよくあることらしい)、むしろ会場の熱量は事件後に跳ね上がった。
スピカの信仰ポイントは微増にとどまったが、「大物とのコラボで名前を売る」という目的は十分に達成された。白いサイリウムの数は開演時の三倍になっていた。パン屋の青年はグッズ屋で布教用のお守りをもう一つ買い足していた。
打ち上げ会は神界のズーPの事務所で行われた。
「かんぱーい!」
ポメルがモンスターブロジア(神界のエナジードリンク)のジョッキを掲げた。デディーナが上品にグラスを傾け、フレマルが不機嫌そうにストローでジュースを吸い、ツクナが窓辺で静かにグラスを揺らしていた。
スピカは隅っこで小さくなっていた。大物たちの打ち上げに混じっていいのか、まだ実感がない。
「スピカちゃん! こっちおいでや!」
ポメルが手招きした。
「今日のフェス、なかなかよかったで! 白のサイリウム、最初は全然なかったけど、最後はけっこう増えとったやん」
「あ、ありがとうございます……」
「歌はまだまだやけどな。六十点ってとこかな」
「ろ、六十……」
「ポメ、新人にきつすぎるでしょ」
フレマルが口を挟んだ。ポメルがにやりと笑った。
「あら、フレマルちゃんが庇うん珍しいやん」
「庇ってない。事実を言ってるだけ。六十は低すぎる。七十はある」
「フレマルさん……!」
「七十も大概やけどな」とポメルが笑った。
デディーナがくすくすと笑いながら、テーブルの上の菓子皿に手を伸ばした。
一つ取り、二つ取り、三つ目に指が触れ——
ぴたりと手が止まった。
周囲の視線を感じ取ったわけではなかった。
ポメルはジョッキを傾けているし、フレマルはスピカと言い合っているし、
ツクナは窓の外を見ている。誰も見ていない。
それでもデディーナは三つ目の菓子から指を離し、
何事もなかったように微笑んだ。
「今日は楽しかったですわね」
笑顔は完璧だった。
ただ、引っ込めた右手が膝の上でそっと握られていたことに、
この場の誰も気づかなかった。
その笑顔は完璧だったが、三つ目の菓子に未練を残す目線だけは隠しきれていなかった。
ツクナはグラスを傾けたまま、窓の外の星空を眺めていた。ふとスピカのほうを見た。目が合った。ツクナは小さく微笑んだ。それだけだった。多くを語らない女神の、それが最大限の賛辞だった。
ズーPはソファの真ん中で腕を組み、目を閉じていた。
周囲を女神に囲まれていながら堂々としているのは、さすが大物プロデューサーと言った貫禄があった。
隣にはヘミラがいて、ズーPに端末を見せている。
「安全管理の報告によりますと、邪神が2体、フェスの会場に潜り込んでいたようです」
「……打ち上げのときにまで仕事の話をするな」
「ズーPは把握されていましたか」
「……あぁ、いろいろ嗅ぎまわってるのがいたな。敵対行動がなかったからほっといたが」
「……承知しました」
「ズーさん」
スピカがおずおずと口を開いた。
「今日の点数……どうでしたか?」
ズーPは目を開けなかった。
「映像はまだ確認してない」
「じゃあ、印象で……」
「印象はつけない。データで判断する」
「ケチですぅ……」
「ケチじゃない。公正だ」
ポメルが「相変わらずやなぁ」と笑い、フレマルが「あんたもう少し愛想よくしなさいよ」と呆れ、デディーナが「素敵な師弟関係ですわね」とほほ笑んだ。
ツクナだけは何も言わず、ただ静かにグラスを揺らしていた。
窓の外では、三日月が昇り始めていた。




