六
同時刻。
フェス会場の外周――森に面した暗い砂利道を、ズーさんは一人で歩いていた。
足音が二つになった。次に四つ。八つ。十六。
「まんまとおびき出されたでおじゃるなぁ!」
木の影から、甲高い声が響いた。邪神1号だった。第1話でズーさんに締め上げられた下級邪神である。じゃらじゃらと音を立てる金の神輿に担がれ、その背後には、ぞろぞろとモンスターの群れが連なっていた。ゴブリン、コボルト、リザードマンの兵士たち。停戦中に武装した魔物の軍勢が、暗がりの中にずらりと並んでいる。
「今日という今日は、先日の報復をさせてもらうのでおじゃ。上級邪神さまじきじきの命令でおじゃるからな」
邪神1号は腕を組み、得意げに鼻を鳴らした。
「いくら神界の大物プロデューサーといえど、おぬし一人でこの数を相手にできると思うでおじゃるか?」
ズーさんは立ち止まった。
ポケットからスマホを取り出し、画面を確認した。フェス会場の中継映像が映っている。ステージ上の騒動は収まりつつあった。スピカは無事だ。
スマホをポケットに戻した。
「それで?」
ズーさんの声には感情がなかった。
邪神1号がわずかにたじろいだ。この男の「それで?」には嫌な記憶しかない。
「そ、それで、も何も……! 包囲は完了しておるのでおじゃ! 逃げ場はないのでおじゃ!」
ズーさんは右手を持ち上げた。
手のひらを開く。
何も起きなかった。一秒。二秒。邪神1号のモンスターたちが顔を見合わせた。
三秒目。
空が裂けた。
雷鳴ではなかった。雷鳴というには近すぎ、重すぎ、そしてあまりにも暴力的だった。白紫色の閃光が天蓋を貫き、ズーさんの右手に集束した。風が渦を巻き、砂利が宙に舞い上がり、森の木々が根元から軋んだ。
邪神1号の目が飛び出した。
「うるせぇ、消えろ下級神が」
ズーさんの声は、雷鳴の中でも不思議なほど明瞭だった。
「お前らみたいなのを——うちの女神たちに近づけさせるかよ」
右手を振り下ろした。
サンダーボルト。
白紫の柱が大地を穿ち、爆発的な光が放射状に広がった。モンスターの群れが一瞬で吹き飛んだ。消し炭にすらならなかった。光が通過した場所には、焦げた砂利と、微かなオゾンの匂いだけが残った。
静寂が戻った。
砂利道の真ん中で、邪神1号だけが立っていた。正確には、腰を抜かして座り込んでいた。全身が煤だらけで、頭の烏帽子がちりちりと焦げている。モンスターの軍勢は消滅していた。最初からいなかったかのように。
「ひ、ひぃ……」
邪神1号は四つん這いで後ずさった。
ズーさんは右手をポケットに突っ込み、何事もなかったかのように踵を返した。
夜空を見上げた。
星が出ていた。月は——まだ、出ていなかった。
「……これじゃキリがないな」
誰にも聞こえない声で、そう呟いた。




