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光は白だった。


白く、熱く、まるで朝焼けの太陽のように。


フレマルが動いていた。舞台袖から飛び出し、右手をかざしていた。その手から伸びる光の線が、スピカの胸の古いお守りと繋がっている。


フレマルはスピカのお守りに蓄積されていた信仰ポイントを――スピカが子供の頃から「パンがおいしく焼けますように」と祈り続けて溜まった、ささやかだが途切れることのなかった信仰を、すべて使い切って奇跡を起こしたのだ。


光の壁がステージを覆い、レオンのナイフを弾いた。


レオンは光に目を灼かれ、よろめいた。ナイフが手から滑り落ち、からん、と乾いた音を立ててステージに転がった。


光は数秒で消えた。大した奇跡ではなかった。結界を張ったわけでも、敵を吹き飛ばしたわけでもない。ただ一瞬だけ周囲を白く照らしただけだ。


フレマルが肩で息をしていた。他人のお守りに干渉して奇跡を起こすのは、自分のポイントを使うよりはるかに効率が悪い。しかもスピカの少ない信仰ポイントでは、この程度が限界だった。


「ったく」


フレマルはスピカの前に立ち、背中で庇うようにレオンと向き合った。


「あんたの信仰ポイント使ったら、せいぜいこんなのしか出せなかったよ」


「フレマルさん……」


「黙ってて。まだ終わってないから」


レオンは地面に膝をついていた。頭を抱え、呻いていた。光の残像がまぶたの裏で明滅している。白い光。太陽の白。かつてのフレマルの白。


あの光は、フレマルの――。


「誰も責めません。あなたは正しい。正しいのですから——刃を、どうぞ」


影の声がまだ囁いている。邪神2号の干渉は続いていた。体が勝手に動こうとする。右手がナイフを探して床を這う。


「さあ、壊し――あがっ」


だが。


レオンの左手が、自分の左頬を殴った。


会場が静まり返った。


もう一発。今度は右頬を。


「うるさい……うるさい、うるさい……!」


頭の中の声が薄れていく。自分の拳の痛みが現実を引き戻す。


邪神2号の影が、レオンの体から剥がれるように薄くなっていった。ぎちぎちと、暗いものが内側から抜けていく感覚。影は音もなく床に沈み、消えた。


レオンはステージの上で崩れ落ちた。息が荒い。汗がぼたぼたと床に落ちる。


そして、顔を上げた。


涙で滲んだ視界に、赤い髪の女神が映った。


フレマルが、こちらを見下ろしていた。怒りではなかった。軽蔑でもなかった。ただ強い目で、まっすぐに。


「さっきのは……フレマルの、光だ……」


レオンの声が震えた。


「わかってる……わかってるんだ……」


涙が頬を伝った。白い手袋が涙で透ける。


「変わったのは――僕たちの方なんだ……」


白い太陽の女神を求め続けた。赤くなったフレマルを許せなかった。変わったのはフレマルではなく、時代であり、世界であり、そしてその変化についていけなかった自分自身だった。


レオンは額をステージの床に押しつけた。


「……すみません」


声はかすれていた。


「すみません……フレマル様……」


フレマルは何も言わなかった。


——言いかけた。唇が一度だけ動いた。けれど声にはならなかった。


数秒の沈黙のあと、赤い髪を翻してステージの反対側へ歩き出した。観客の前で泣き崩れた信者に、それ以上の言葉をかけることはしなかった。必要がなかった。


レオンは自分の力で邪神の呪縛を断ち切った。自分の拳で。自分の涙で。それはフレマルがどうこうできる領域ではなく、レオン自身の戦いだった。


警備の信者たちがようやくステージに駆け上がり、レオンを抱え起こして連れていく。

レオンは抵抗しなかった。


足元に転がったままのナイフを、警備の一人が拾い上げた。

グッズの開封に使っていたペーパーナイフ。刃は薄く、誰かを殺せるようなものではなかった。


フレマルの赤い背中が、ステージの照明の中で輝いていた。


――赤も、悪くないじゃないか。


レオンの唇がかすかに動いた。声にはならなかった。それでも確かに、彼の中の何かが塗り替わった瞬間だった。

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