三
レオンの部屋は白で埋め尽くされていた。
壁一面に貼られたポスターは、すべて太陽神時代のフレマル。白い衣装、白い光、白い笑顔。限定グッズのアクスタも白。お守りも白。棚に並ぶ記録水晶に封じられた過去のフェス映像も、すべて「白い時代」のものだった。
その中に一枚だけ、赤いポスターが混じっていた。
最新フェスの告知ポスター。赤い炎を纏ったフレマル。目は鋭く、口元には好戦的な笑み。隣にはコラボ出演と銘打たれた新人女神――白いドレスのスピカ。
レオンはそのポスターの前に立ち、長い間、見つめていた。
「……違う」
声が漏れた。
「僕のフレマルは、こんなんじゃない」
赤いフレマルが笑っている。かつて太陽として万人を照らした白い微笑みではなく、戦場で血を浴びた者の笑みだ。そしてその隣で、白い衣装を着た見知らぬ新人女神が無邪気に笑っている。
白を纏う資格があるのは、フレマルだけだ。
レオンの手がポスターに伸び、赤い部分を掴み、引き裂いた。ビリビリという音が白い部屋に響いた。
そのとき、部屋の隅の影が濃くなった。
「――壊しなさいな」
声は影そのもののように暗く、甘かった。
レオンは振り返らなかった。振り返る必要がなかった。その声は数日前から聞こえていた。最初は幻聴だと思った。だが声は日に日に明瞭になり、レオンの中の怒りと共鳴するように大きくなっていった。
「あの新人の白は、あなたのフレマル様の白ではない。それはおわかりでしょう? ……ええ、ですから——壊しなさいな」
邪神2号。人間の心の闇につけ込む陰湿な邪神。レオンの「解釈違い」という小さな棘を見つけ、そこに毒を流し込み続けていた。
レオンの目から光が消えた。
手が動き、棚の上のナイフに伸びた。装飾用のペーパーナイフ――グッズの開封に使っていたものだ。
「白を……取り戻す」
レオンはナイフを握り、白い部屋を出た。




