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リリア、その8

私は、とある酒場のカウターに座り、一方的に見知った男性に話をかける。


「〝ガイアの空に〟って絵本。アレ、読んだことある?あの絵本は子供向けに分かりやすく簡潔にまとめられてていいわ。なのに、読めば読むほど深いのよね」


「・・・例えば?」


よしっ!話に乗ってきたわ。この人、本当に本が好きなのね。本の話に食いつかなかった事は一度も・・・・・・いや、一度あったわね。読んだことなかったみたいで、その時だけはショックを受けていたみたいだったわ。


「例えば・・・話の冒頭、魔獣が地に降り立った。そして剣を向けたのは人間ってところ。魔獣は初めは戦う意思が無かったのよ、きっと。だけど、人間が恐怖で剣を向けてしまい戦いが始まったのよ」


「ほう・・・そう捉えるのか。他には?」


「魔獣の台詞が一切ないところがいいわ」


「そこは子供向けの絵本としてはマイナスポイントじゃ?」


「ううん、子供向けだからこそよ。私は子供の頃、この魔獣の台詞が一切ないことに衝撃を受けたわ、そしてたくさん考えさせられた。この時魔獣はどう思った?どんな気持ちだった?ってたくさん考えて、しまいにはノートに書きなぐってお母様に見せたわ」


「お母様も可哀想に」


「ほんとね、今思えば可哀想な事をしたわ。あんなにたくさんつらつら書きなぐったノートを見せられて、最終的には〝お母様の考えを聞かせて!〟って私が納得するまで毎日毎日話をさせられて・・・」


「・・・」


「〝ガイアの空へ〟も、同じくらい好きだわ。残念ながらお母様とこの本について語り合うことは出来なかったけれど。・・・ごめんなさい。初対面なのに突然こんな話を」


「いや、別に構わない」


「ねぇ、貴方のお名前を教えてくださらない?」


「俺の名前は・・・」


「キーファ。ですよね?」


「・・・」


「本当は少しずつ仲良くなって、本当の名前を貴方の口から聞きたかったのですが、今回はその時間も勿体無くて・・・。そして貴方は私に力を貸してくれる」


「・・・その根拠は?」


「んー・・・最初の何回かは頑なにキーファである事を認めなかったので力を借りることが出来なかったんだけど・・・ある日を境に、それ以降は必ず私の味方になってくれたからです」


「意味がわからない・・・頭でも打ったのか?」


「大丈夫です、打っていません。正気です。きちんとこの後説明します。とりあえず騙されたと思って私の話を聞いてくれませんか?」



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