デスゲームがおバカな参加者ばかりで、私だけが生き残った話
昨日、書こうと思っていた話です。
私の名前は坂本蕗心
地域の高校で国語教師をしている。
私は帰宅途中に拉致された。
目が覚めると、そこは真っ暗な空間が広がっていた。
(え、何……? ここは、どこ……?)
私が立ち上がり周りの様子を窺うと、そこには大勢の人の気配があった。
暫くすると、その空間の前方から白い光が発せられた。
私の目が馴れてきたとき、光を発しているのが巨大なモニターだと気付いた。そして、そこに白い仮面を着けた人物が現れた。
「皆さま、ようこそ。私はゲームマスターの滝北と申します。皆さまには、これからあるゲームを行っていただきます」
滝北がそう言うと、会場のライトが点灯した。
会場には、老若男女を問わず、大勢の人がいた。
(な、何…… これって、デスゲームっていうやつ?)
私がそんなことを考えていると、モニターに大きな文字が5つ、大袈裟な効果音つきで現れた。
デン
デン
デン
デン
デン
『回文ゲーム』
ざわつく会場……
「それでは、ルールを説明します。ここには100名の参加者がおられます。その中から抽選で選ばれた方に、あるシチュエーションに合ったセリフを1分以内に言っていただきます。しかし、そのセリフは回文になってなければいけません……」
(ち、抽選って……)
その時、私が自分の胸元を見ると、円いナンバープレートが着いていた。
(49…… 不吉な番号だわ……)
私は49番だった。
「もし、答えられなかったら、どうなるんだよ!?」
サラリーマン風の男性が、滝北に尋ねた。
「この会場から、ご退室いただきます……。しかし……、退室いただいた後、どうなるかはご想像にお任せします……」
(や、やっぱり……、デスゲームだわ! な、なんで、こんなことに巻き込まれたの……?)
「それでは、抽選を始めます」
滝北はそう言うと、立方体の箱を2つ取り出した。それらの箱の上面には円い穴が空いていた。
(え…… アナログなの? デスゲームなのに、アナログなの!?)
滝北が1つ目の箱に手を入れて、1枚の紙切れを取り出した。
「では、最初の挑戦者です……。28番!」
すると、スーツを着た頭の薄い男性にスポットライトが当てられた。彼が28番、最初の挑戦者だった。
「や、止めて! 頭は照らさないで!」
28番の男性が言った。
「次にシチュエーションを抽選します……」
滝北が2つ目の箱に手を入れて、また紙切れを取り出した。
「シチュエーションは『八百屋』です! それでは、28番の方、1分以内にセリフを言ってください」
(や、八百屋…… ラッキーじゃない? 八百屋が既に回文だから……)
「あの~ そもそも、回文って……何?」
28番の男性がそう言った。
すると……
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
サイレンのような音が鳴った。
バンッ
後方の扉が開き、5人の屈強な男達が入って来た。その男達が28番の男性を抱え、外に連れ出していった。
「や、止めて…… あ、頭は触らないで!」
28番の男性が言った。
(いや……そこ? 連れ出されることに『止めて』じゃないの?)
「それでは、次の抽選を始めます」
滝北はそう言って、2度目の抽選を始めた。
次に選ばれたのは、73番の青年だった。シチュエーションは、「海水浴」
「浮き輪の浮気」
73番の青年が言った。
(いやいや、それっぽいけど…… 回文になってないじゃん! しかも、どんな状況!?)
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
案の定、その青年は屈強な男達に連れ出されていった。
そして、3度目の抽選が始まった。
選ばれたのは、89番のおじいちゃんだった。
シチュエーションは、「遠足」
「新聞紙」
89番のおじいちゃんが勝ち誇った顔で言った。
(か、回文だけど…… シチュエーションに合ってなくない?)
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
(あ、やっぱり……)
おじいちゃんも屈強な男達に連れ出されていった。
「饅頭が10万」
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
「カレーが辛え」
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
「薔薇がバラバラ」
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
「アシカは、あっしか?」
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
「モアイにも会いたい」
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
(え、そんなに難しい……? みんなおバカなの? ダジャレ大会になってない? ゲームが成立してないんですが……)
私がそう思いモニターを見ると、滝北が笑いを必死に堪えていた……。
(いやいや…… どこで!? どこで、ツボったん? ゲームが成立してないんだから、ちょっとは焦ろうよ……)
その後も挑戦は続いたが、誰1人として成功する人がいなかった……。
(えぇ~ ここまで来ちゃうと誰か成功して欲しい…… 運営側じゃないけど、ゲームを成立させて欲しい……)
私がそんなことを考えていると、如何にもインテリといった感じの、2番の男性が選ばれた。
「フフン、やっと優勝候補の僕の出番か……」
2番の男性が言った。
(やっぱり、この人…… 優勝候補……)
「シチュエーションは、『秋の行楽』です。それでは、2番の方、セリフをお願いいたします」
滝北が成功を祈るように言った。
「地味な紅葉」
(え? なんで…… なんで、『な』を入れるん? おバカなの?)
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
(く、残りは10人くらい…… この中に……きっといるはず! 成功してくれる人が!!)
しかし…… 私の願いも虚しく、私以外のみんなは失敗していった……。
(なぜ…… なぜなの……?)
私がそんなことを考えていると、会場の扉が開き滝北が入って来た。
「あの~ みんないなくなったので、もうあなたの優勝が決まったんですが……」
そう言った滝北は、仮面を着けていても分かるほど、しょんぼりしていた……。
「ダメ! 私もやるわ! 成功しなければ、優勝にならない!!」
私は思わず口にしていた。
「ありがとうございます!」
仮面で分からなかったが、滝北は満面の笑みを浮かべていただろう。
「それでは、最後のシチュエーションを発表します……」
(何…… どんなシチュエーションがくるの……?)
私は、今まで感じたことがないドキドキを感じていた。
「シチュエーションは『取り調べ室』です」
(と、取り調べ室……? む、難しくない?)
「それでは、セリフをどうぞ」
私は色々と思案したが、良い回文が思い浮かばなかった。時間だけが過ぎていった……。
(だ、ダメ、諦めてはダメ! 私は蕗心! 国語教師なのよ…… ん? 私は蕗心……)
その時、私はひらめいた。
「私、蕗心。殺したわ!」
静寂が私達を包む……
ピンポン ピンポーン
(や、やった…… クリアしたわ!)
私は滝北を見た。
彼は嬉しそうにガッツポーズをしていた。
ガシッ
私達は固く握手をした……。
なんだ、これ?