02-28.就寝と夜勤と鍛錬と
「そろそろレティはスノウと交代してもらう。
夜の見張りは任せたぞ」
「え~! 嫌です~!」
「大丈夫だ。レティがなにかする必要は無い。
私に体を貸してくれればそれで良いのだ。
話し相手になってくれれば尚良しだ」
その辺りの事はまだ何も話してなかったな。取り敢えず魔力を流して支配にかけてみよう。それでレティなら私の意図を理解するだろう。もう依存症脱却の件は忘れよう。どの道私もレティ欲しいし。むしろどっぷり漬け込んで抜け出せなくしてやろう。
「あら? あらあらあら♪ ふふ♪
お姉ちゃんの中にエリクちゃんが入ってきました♪」
「そうだぞ。これは私自身だ。レティはもう私のものだ。
そう言った筈だ。あれは文字通りの意味だ。言葉通りだ。
レティの体は既に私の一部となった。私の手足となった。
安心して持ち場につけ。私は何時でもお前と共に在る」
「ちょっとエリク」
「良い子だからもう少しだけ我慢しておくれ。ユーシャ。
単なるリップサービスだ。私の一番は常にユーシャだ。
どうかそれだけは疑わないでおくれ」
「ちょっとエリク」
「まあ待てディアナ。勿論お前の事も愛しているさ。
デートの代わりではないが、明日は勉強を休みにして少しゆっくりしようじゃないか。真っ昼間からベットで抱きしめて耳元で囁いてやろう。お前の望む事を何でもしてやろう。
だから今日の所は大人しく眠っておくれ。睡眠は大切だ。とくにディアナの場合はな。私はお前の身体が心配なのだ。どうか聞き分けておくれ」
「ちょっとエリク」
「戻ったのかパティ。良かった約束を守ってくれたのだな。
流石はパティだ。さあパティももう寝なさい。ディアナとユーシャを頼んだぞ。何時も頼りになるパティがいてくれて助かっているのだ。お前に倒れられては私は最後まで戦い抜く事なんぞ出来んだろう。どうかパティも体を大切にしておくれ。愛しているぞ。パティ。今日もありがとう。パティ」
抗議の声を上げかけた恋人達を次々と抱きしめて言葉をかけていく。我ながら酷いやり口だなとは思いつつも、何だかんだと嬉しそうに抱きしめ返してからベットに潜っていく可愛恋人達の姿が愛しくて、自然と笑みが溢れだす。
「我が主」
「お前にはせんぞ」
騙されんぞ。何をしれっと順番待ちしておるのだ。
「ミカゲもスノウと合流して床につけ。
ここは私が守護する。お前は安心して休むが良い」
「はい……我が主……」
「「「ちょっとエリク」」」
おい。今一人笑ってたろ。
ミカゲにも軽くハグをすると、沈んでいた表情が一瞬で晴れ渡り、ウキウキとスノウの下へと向かっていった。
「ちょっとエリクちゃん」
「せんぞ。お前も行け。レティ」
レティは強制的に支配でスノウの下へと向かわせた。
程なくしてスノウが私達の部屋へと現れた。
ミカゲに入れ知恵でもされたのだろうか。
いや、単に挨拶に来ただけか。
「一日ご苦労だった。お前も休め」
「まだ嫌。少しエリクさんと一緒にいる」
まあ仕方ないか。
一日中一人で放置されていたのだものな。
「許す。好きに抱くがいい」
「うん!」
スノウはそっちの方が好きだからな。
ソファにでも座らせて、椅子になってもらうとしよう。
仕方ない。ミカゲも呼び戻してやるか。
なんなら二人とも暫く同じ部屋で寝かせるか。
明日あの子達にも相談してみよう。
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「支配ですか。
これも安直ですね」
「良いだろ。別に。
パティの受け売りだぞ」
「とっても素敵な名前ですね♪」
「おい」
「冗談です」
「それはそれで、いやなんでもない。
それよりもだ。今も魔術を使えば抜け出せるのか?」
「いいえ。これは無理でした」
既に試していた。油断も隙も無い。
「魔力が供給され続ければ消費しきれませんから。
頑張れば一瞬抗う事が出来るかなぁ。って感じです」
「なるほどな。
言っておくが抵抗はするなよ?」
「しませんよ♪
お姉ちゃんの体はエリクちゃんのものですからね♪
どうぞ好きに使っちゃってください♪」
絶対抵抗するだろうなぁ。ただの興味本位で。
まあ良いけど。本当に逃げはしないだろうし。
「そうだ。魔力壁の改善案を思いついたぞ。
実際にやってみせよう。
……これだ。どう思う?」
「なるほど。ブロック毎に分けて作るのですね。
一ブロック消費されてもすぐに作り直して埋められるわけですか。今の魔力壁では少しでも魔力を抜かれればそこから全て瓦解してしまいますからね。良い解決方法ですね♪ それに今の些細な話題からすぐにこうして連想できたのはグッとです♪ お姉ちゃん花丸あげちゃいます♪」
「とは言えこれでは魔力消費量が多すぎるがな。
あまり複雑にすると回復分だけではまかないきれん」
私の魔力は常時回復し続けているが、それでも若干のラグはある。一瞬でマックス値に戻るのではなく、常時数値が増え続けているイメージだ。その速度を僅かにでも消費量が上回れば、何れは魔力が枯渇して魔力壁を維持する事ができなくなるのだ。
「要は人間の体が通れない程度に埋め尽くしてしまえばそれでいいわけです。別に壁の形に拘る必要はありません。大量の球体や砂粒を宙に浮かせるイメージでは如何です? 誘爆や反射の特性も活かせば、魔術を通さずに守りきれるかと」
「うむ。それも面白い方法だな。やってみよう」
魔力の占有化はまだ上手くいっていないけれど、こうして形を変える程度の事は造作もない。やはり魔導を扱う上ではイメージが容易であるかどうかも重要なのだろう。
「難しいな。
やはりどうしても消費量がネックだ」
レティの提案してくれた方法でも、魔力消費量を減らす事は出来なかった。
表面積が増えるからだろうか。
とは言え体積は格段に減っているのだ。
何故一枚壁とはこうも違うのだろう。
イメージが細かすぎる事も関係があるのだろうか。
「いっそ砂粒に魔力を流してはどうですか?
それを宙にばら撒くのです」
「うむ。試してみよう」
早速窓から庭に視線を向けて、砂を宙に釘付けにするよう舞い散らせてみる。
今度は若干魔力消費が減ったっぽい。
これならなんとかなるか?
試しに魔力手で作った拳をぶつけてみた。
砂の壁はあっさりと制御を失って崩れ落ちた。
「ダメだな。強度がまるで足りん」
魔力の塊である魔力手の方が、魔力で宙に留め置かれた砂より硬いようだ。
きっと魔力量が多い方がシンプルに強いのだろう。
そしてイメージが単調な方がロス無く魔力が伝わるのだ。
つまりイメージが複雑になると、どこかで余分に失われる魔力が発生するのだろう。これはもしかしたら何かがイメージを補ってくれているからなのかもしれない。
無数のレンガブロックを積み重ねた壁をイメージするにはある程度イメージを簡略化する必要がある。一つ一つの面にまで意識を向けられるわけじゃない。
もし仮にレンガブロックの一つ一つまで詳細にイメージしきれるなら、その方が魔力消費は少なくなるのかもしれない。
魔力消費は体積とイメージの緻密さで決まるのだ。
そう考えれば辻褄は合う。
「逆に考えるなら、魔力さえあればイメージは大雑把でも形になるという事ですよね? これもまた何かのヒントになるのでは?」
「魔力占有化の話だな。ならば目一杯魔力を込めてみよう。
心からの想いを込めるというのは、ある意味そういう事でもあるものな」
「ファイトです♪」
それで一度上手くいけばイメージもしやすくなるだろう。
同じものを真似れば良いだけなのだ。段々と魔力消費量も抑えていけるはずだ。
実際今の魔力壁はスノウと戦った時と比べて格段に魔力消費量が抑えられている。効果の方も最早別物だ。今なら軽々と跳ね返すだろう。
そして今の魔力壁はあの経験があったからこそ、現在の性能にまで引き上げられたのだ。そう考えたらなんだかいける気がしてきたな。
まあ、ただ魔力を込めるだけでなく、あの時と同等の必死さも必要なのかもしれんが。それは中々難しいな。しかしそうも言ってられん。追い詰められねば覚醒出来んなど冗談ではない。どこぞの戦闘民族でもあるまいし。仲間や家族を失ってからでは遅いのだ。
ク◯リンのことじゃないよ?




