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02-27.心と魔力と秘密の鍵

「う~ん? ダメですね~。上手くいきませんね~」


「なあ、レティよ。

 そもそもお主、パティ相手に心の壁なんぞ作れるのか?」


「……」


「……」


「……あは♪」


「おい」


 ついさっきまで出来るお姉ちゃんだったのに。

どうしてそこに気付かないのだ……。



「今度は私が魔力壁を出そう。

 レティが魔術を使ってみてくれ」


「ちょっと~? エリクちゃ~ん?

 それはどういう意味ですかぁ~?

 エリクちゃんこそお姉ちゃんに壁を作れると~?

 そう言っているのですかぁ~?」


 めんどくさ!!



「これはただの実験だ。一時的なものなのだ。

 本気でレティを手放すつもりなんぞ無いぞ。

 お主は優秀だ。私の右腕として相応しい」


「なるほど。それなら良い。

 あくまでお仕事だけの繋がりって事だもんね」


 何故そこでユーシャが答えるのだ……。



「ひっど~い! 撤回を要求します!

 せめてお姉ちゃんとして相応しいって言ってください!」


 そっち?



「頼む。お姉ちゃん」


「はい! 良いですよ!」


 チョロい。



「私はスノウのところに行ってくるわ」


 パティはそう言って返事も待たずに歩き始めた。

どうやら実験の続きがしたくて堪らないようだ。

相変わらず魔導の事が気になってしかたないらしい。


 スノウも多少は魔導を扱えるからな。

心の壁を作れるかはわからぬが。



「程々にして寝るのだぞ」


「は~い」


 パティには学園にも行ってもらわねばならぬのだ。

あまり昼夜のバランスを崩すのは望ましくない。睡眠不足なんて論外だ。パティが囚われれば私達の敗北も決まったようなものなのだ。どれだけ屋敷を守り抜こうと、パティを人質にされれば敵に下るしかなくなるのだから。


 私も早急に心の壁をマスターしよう。

いや、そもそも理論が正しいのかすらも不明なのだが。

何にせよ、パティを守るためにも必要だ。



「よし。やるぞ、お姉ちゃん」


「どんとこ~いで~す♪」


 大丈夫かなぁ……。




----------------------




「ダメだ。全然ダメだ。

 まるで上手くいくイメージが湧かんぞ」


「エリクちゃん諦めるの早すぎです」


 そうは言うがな。

こればかりは如何ともしがたいのだ。


 だってだよ? でもだよ?

私万能回復薬だよ? エリクサーだよ?


 薬が治す相手を選ぶと思う?

お前はダメだって拒絶すると思う?


 無理だって。ありえないって。

しかもそんな事考え始めたら尚の事イメージできなくてさ。

まるで自分の事をたった今そう定義しちゃったみたいでさ。

そこから鍵でもかかったかのように固まっちゃってさ。

なんかこれ頑張ってもどうにもならない気がするんだよね。

何となくの印象だけど。直感的に。これはハズレだって。

そう思うのだ。私も人のこと言えんな。



「そんなにお姉ちゃんの事が大好きなんですね♪

 嬉しいですよ♪ エリクちゃん♪」


「もうそれで良いから他の案出して」


「むぅ~!

 なんか投げやりです!

 もっと真剣にやってください!」


 ごもっとも。



「逆に考えてみたらどうかしら?

 誰かを拒絶するんじゃなくて守ろうとするの。

 決して奪わせはしないぞって強くイメージするの。

 強く強くひたすらに。心を込めて魔力壁を生み出すの。

 ただ技術として魔力壁を作るんじゃなくてね」


 なるほど。一理ある。

ディアナは良い事を言うな。


 実際心当たりもあるのだ。

何せ私が最初に生み出した魔導は自分の薬瓶からだをただ光らせるだけのものだったのだから。しかも実はその原理とかもよくわかっていないのだ。


 あの時私は暗闇に囚われ続けていた。

とにかくその絶望から抜け出したかった。

そうして生まれたのがあの魔導だ。

私の心に応えて、私の魔力は光を放ったのだ。


 そして浮遊も似たようなものだ。漠然と念力のようなイメージこそ持っているものの、理論的に魔力を動かしているわけじゃない。


 魔力手や魔力壁とかだって同じ話だ。そもそも何故魔力が物質化しているのかも、魔術と反応して増幅や反射が行えるのかも、私は理論的な理解なんぞしていないのだ。ただそういう現象が起きると経験則で知っているだけなのだ。その経験を元に繰り返しているだけなのだ。きっと魔力はイメージと密接に関わっている筈だ。


 であるなら、心と魔力にはきっと関係があるはずだ。

脳の機能としてではなく、心に思い描くイメージこそが魔導の真髄なのだ。


 もしかしたら魔術のように火や水を生み出したりだって出来るのかもしれない。魔術に出来る事なら魔導にも出来たっておかしくはないのだ。呪文なんて所詮は文字や音の羅列に過ぎないのだから。


 あれはきっと鍵なのだ。呪いに侵された心を開放し、呪文によって整えられたイメージを出力しているに過ぎないのだ。私が魔術を使うのに抵抗があるのは、そもそも鍵なんて掛かっていないからなのだろう。その余分な干渉がノイズとして違和感を生じさせているのだろう。もしかしたらその余計な文言を取り除けば魔術の詠唱も問題なく出来るのかもしれない。



 なんだかまた試してみたい事が増えてしまった。

とは言え、今やるべき事は既に決まっている。



「良いヒントだ。感謝するぞ。ディアナ」


「頑張ってエリク。応援してるから」


「うむ。任せよ」


「むぅ~。お姉ちゃんだって役に立ちますぅ~」


「おい。こんな事でむくれるな。

 レティの事も勿論頼りにしているさ。

 ほれ。続けるぞ。力を貸してくれ。お姉ちゃん」


「お姉ちゃんと呼べば何でも許すわけじゃないですからね」


 マジで?

普通に全部許してくれるのかと思ってた。

というかパティにはそんな事言ってなかったっけ?

私はまだ妹レベルが足りてないのか?


 あかん。くだらない事に心を奪われている場合じゃない。

とにかく続けよう。今日中に上手くいくとも限らんのだ。


 今度はあの時のように何百年も掛けるわけにはいかん。

大丈夫。既に何度も繰り返してきた事だ。私なら出来る。


 この私が必ず皆を守り抜こう。

今はただ、それだけを考え続けよう。

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