02-25.出来るお姉ちゃん編①
「結局あれからは何事も無かったな」
「あって堪るか」
あかん。ユーシャがやさぐれてる……。
「わからないわよ。夜はまた騒がしくなるかも」
「侵入なんぞさせんがな。
とは言えそろそろレティを起こすか。
夜間警備の打ち合わせをせねばならん」
現在の敵の状況としては、相変わらず第三王子一行の手勢と思しき兵士達が屋敷の敷地の入口に陣取っている。流石に第三王子本人は引き上げたようだ。そのうち陣でも敷いて居座るかもだけど。
他の挑戦者と思しき連中も何組か現れもしたが、遠巻きに第三王子の兵達を見て引き下がっていった。
なんか奴ら、結果的に我らの護衛と化しとらんか?
本人達的には他者に先を越されまいとしているだけなのだろうけど。魔力壁の突破方法がわからないから、せめて他の挑戦者達を妨害して時間を稼いでいるだけなのだろうけど。
「パティは愛されておるな」
「レティの話?」
「そうだな」
「?」
やめとこ。
余計な勘違いさせてユーシャがこれ以上荒んでも嫌だし。
「エリクちゃ~ん」
「やめろ。ひっつくなレティ」
何故寝起き早々に私に抱きつくのだ。
パティにくっついていればよかろうに。
いや、私のせいなんだけどさ。
それにしたって、レティは流されやすすぎんか?
まあ、欲望には弱そうだものな。こやつ。
そうでなければ、妹の危機に乗じて寄生、げふん。ごほん。自宅警備員に志願したりはすまい。
厄介な事に、こやつ警備員としては優秀なのだよな。
私の眷属となったから最早本人のやる気とか関係ないし。私が操って持ち場に配置すれば良いだけだ。たまに感想を教えてくれればそれで十分だし。あれ? 誰でもよくね? いや、パティに近い莫大な魔力持ちでもあるからな。魔力壁の維持の助けにもなるはずだ。多少は。
まあ、きっと此奴の頭脳は役に立つはずだ。
筆頭王宮魔術師が見破れなかった魔力壁の欠点をいとも容易く見破ったのだ。頭の回転が速く、魔力というものを他者より遥かに深く理解しているのは間違いない。
「レティ。早速だが魔力壁の弱点を解決したい。
お前はあれをどう考える?」
「う~ん?
エリクちゃんの浮気グセを直せば良いんじゃないです?」
「おい。真面目に答えろ」
「真面目ですよ~♪
魔力壁。そのまんまですねこの名前。
全然可愛くないです」
「話を逸らすな」
「はれ?」
「惚けるな。弱点の解消法だ。お前は一目で見破った。
逆にお前は何故気付けたのだ?
仮にもサロモン翁が気付かなかった事だぞ?」
「違いますよ。エリクちゃん。
お爺ちゃんなら気付いた筈ですよ。
気付いた上で遊んでいたのです。
あまりあのお爺ちゃんを舐めない方が良いですよ。
あんなのでもこの国一の魔術師なんですから」
「なんだと?
そんな事をする意味がわからんぞ?」
爺様の狙いは私の魔導だ。
その秘密を解き明かしたくて勝負に乗ったのだ。
それを放棄してまで何か他にやりたい事があったのか?
まさか、陛下を連れてきた事と関係があるのか?
「ふふ♪ わかってませんね♪
あれでお爺ちゃんは案外真面目なのです。
ちゃんとお仕事をしていただけなのです」
「わかるように話せ。
一々回りくどい言い方をするな」
遊んでいると言ったり、仕事していると言ったり、振り回しすぎだ。レティこそ真面目に話を進めてくれ。
「も~エリクちゃんは余裕がありませんね~。
折角なんですから、楽しくおしゃべりしましょうよ♪」
「今は時間が無い。
後でいくらでも付き合ってやる。
だから必要な事だけ話せ」
「仕方ないですね。
ご主人様の言葉には従いましょう♪」
「おい、なんだその呼び方は。
別にお前を奴隷にしたつもりはないぞ」
「そうですか? さっきそんな話をしていませんでした?
私は別に良いんですよ? 養ってくれるのがパティじゃなくてエリクちゃんでも」
「その為には奴隷にでもなんでもなると? お前は仮にも王女だろ。そんな事をせんでも養ってくれるやつなどいくらでも居るだろう?」
「エリク。その話は後になさい」
「ああ。うむ。そうだな。
脱線しすぎた」
いかんいかん。本当に急がねば。
あの爺様が本当に弱点を見抜いているなら、何時誰が忍び込んでくるとも限らないのだ。
「先ずはお爺ちゃんが何を考えているかですね。
それは簡単です。大事にしたいのです。エリクちゃんの存在と力を広めたいのです。きっとこの展開にはほくそ笑んでいる事でしょう。どうせ最初は陛下の催す御前試合で見せつける程度のつもりだったのです。それがエリクちゃんのお陰でより大事となったのですから」
あれが悪手だったのはもうとっくに理解しているさ。
私の浅慮が招いた事態だ。今更とやかくは言うまいよ。
それより何故爺様は広めたいのだ?
「この力、えっと、パティの提唱する魔導ですね」
そう言って魔力壁を展開して見せるレティ。
「レティ!?
まさかあなた!?」
見様見真似で魔導の使い方を理解したらしい。
本当にとんでもないな。こやつ。
「やっぱり出来ましたね。
エリクちゃんの魔力に染められた影響でしょう。
いいえ。より正確に言うなら呪いが解けたのでしょう」
「呪い? どういう事!?」
「人間というのは皆呪いを抱えているものなのです。
人間が直接魔力を操れないのはそれが原因です」
「なんでそんな事!?」
「勿論パティの為です。お姉ちゃん珍しく頑張りました♪」
珍しくとか自分で言うな。
まったく。本当にとんでもないな。こやつ。
「人間の奥底には魔力の根源みたいな塊があるのです。
これに直接呪いがかかっていますので、人間は魔導を扱えません」
「私はそれを魂と呼んでいる。
あくまで霊的な存在であり、物理的に存在する器官ではない。レティはどうやってその存在に辿り着いたのだ?」
「目を弄りました。とっても痛かったです。
お姉ちゃんいっぱい泣いちゃいました」
は?
「レティ!?」
よくよく見てみると、レティの指した右目は若干左より色が濃かった。どうやら本当になにか埋め込んだらしい。
「気にしないで下さい。パティ。
お姉ちゃんはパティの為なら痛いのもへっちゃらです♪
嘘です。ごめんなさい。やっぱりもう二度としたくありません」
「無茶しないでよ!!」
なんだこいつ……。
やる気が無いのではなかったのか……。
無茶苦茶だ……。
「おい。二度と自分の体を傷つけるような真似はするな。
お前の体は既に私のものだ。ゆめゆめ忘れるな」
「えへへ~♪
エリクちゃんにプロポーズされちゃいました~♪」
「エリク!」
「しとらんわ!」
まったく。話しが全然進まんぞ……。




