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02-24.依存症

「正直な。楽しんでいたんだ。私も」


「エリクってマッドなところあるものね。

 私も思っていたの。何だかんだ我慢できるわけないって」


 そう。思わぬキッカケで飛び込んできた絶好の好機。

我慢できる筈など無かったのだ。この私には。

ずっと試したかったのだ。人の体で。



 生物に私の魔力を大量に流すと眷属に出来る。

その仮説はやはり正しかった。まあこれは既にわかっていた事ではある。先んじて数匹の蜘蛛を眷属化に置いて、その先の【支配】の練習も続けていたのだから。


 レティは無事に私の操り人形と化した。当然のように記憶も残っている。やはりスノウのあれは呪いの人形と混ざりあった事によるイレギュラーなものだったのだろう。


 だが、一つ想定外の問題も起きていた。



「エリクちゃ~ん♪

 お姉ちゃんは~嬉しいですよ~♪

 エリクちゃんに~楽しんでもらえて~♪」


 どうやら眷属化にはもう一つの問題が存在したようだ。

と言うか、これは私の魔力もしくは薬の成分による一種の中毒症状なのかもしれない。


 魔力抵抗を完全に削り落とされる程執拗に魔力を流された対象は、次第に強烈な多幸感を感じるようになるそうだ。

レティがそう教えてくれた。



 結果、私に対する異常なまでの執着心を抱くようだ。

要は依存症だ。私の魔力が、ひいては私自身が魅力的で堪らなくなるのだ。


 記憶の無いスノウが私を慕うのもこれが原因なのだろう。


 私ことエリクサーは、強い快楽物質及び依存性物質を含む何かであるようだ。一度でも薬漬けにされてしまえば人格すら書き換える極めて危険な代物であったようだ。


 レティは完全に私の虜となってしまった。私が愛しくて堪らないそうだ。本人が何故か楽しそうにそう申告してきた。どうやら自分に起きた変化が興味深いようだ。無駄に優秀な頭脳で色々と確認してるっぽい。後で報告を聞くとしよう。私も気になるし。やっちゃったものは仕方ない。精々有効利用するとしよう。




 しかしこれではパティやディアナには使えんではないか。

いや、用法用量を守ればそう酷い事にはならんのだろうが。

今のところ二人はレティ程の急激な変化は見せていないし。


 まあ、私への好意が全て依存症によるものなのだとしたら話は別なのだけども。一応ディアナはともかくパティは魔力を流す前から好意を訴えていたので、そう悲観する必要もないとは思うのだが……。



「エリク。説明して」


 ユーシャ?

パティに説明されたはずでは?



「レティは私達を脅かす可能性があった。

 だから首輪を付ける事にした。結果やりすぎた。スマン」


「えへへ~飼われちゃいました~♪」


 あかん。ユーシャの額に青筋が……。

頼む少し黙っていてくれ、レティ。



「スマンじゃないでしょ!

 エリクのバカ!!」


 はい……すみません……。



「それで? どうするの? この人」


「……飼う」


「きゃっ♪」


「わけにもいかんからな。

 城に送り返そう」


「ひどいですぅ~」


「嘘つき。そんなつもり無いくせに」


「……すまん」


「バカ」


「うそかぁ~♪ えへへ~♪」


 約束してしまったからな。

パティの側に置くと。しかも三食昼寝付きと。


 まあ、夜勤だからお昼寝はいっぱいしてもらおう。

さすればユーシャと生活被らんだろうし。名案だな。うん。


 ダメ? 既に矛盾してる?

パティとユーシャはいつも一緒?

パティの側に居られない?


 大丈夫さ。

パティが寝てる横で護衛してくれればいいんだから。


 ……ダメ?



「レティお姉様は本当に大丈夫なの?」


 だらしなく私にしなだれ掛かるレティを気遣わしげに伺うディアナ。


 ディアナはユーシャと違って最初から話の流れを理解していた上に、一部始終を見ていた為か、レティの扱いについては口出しするつもりがないようだ。ほんと、こういう時は空気の読める良い子なんだよね……ディアナもごめん。



「大丈夫だ。

 少しばかり酔っているだけだろう。

 時間が経てば多少は落ち着くはずだ」


 これも本人の申告による情報だ。

眠気が極まったかのようなフワフワ感があるそうだ。

あれかな? 強めの風邪薬を飲んだ時とかのかな?


 そんな状態でよく意識を保っているものだ。

しかも分析っぽい事までしてるし。


 けれど無理せず一度眠ってもらった方が良さそうだな。

ユーシャとディアナとの話をつけるためにも。


 まあでも、たしかにこやつは優秀だな。

これに関してはスノウとユーシャが特殊なだけでもあるが。

二人とも状況が特殊過ぎて、自分の状態をよくわかっていないからな。


 なにはともあれ研究も色々と進みそうだ。

ちょっとワクワクしている自分も居るな。

流石に今の状況で口には出来んが。



「レティ。もうよい。少し休め。

 ベットを貸してやる。運ぶぞ」


「え~やだ~エリクちゃんと~いっしょ~に~……zzz」


 あらら。

本当に限界だったようだ。


 レティを抱き上げてベットに放り込み、改めてソファに座り直すと、三人から刺々しい視線が向けられた。



「今度はなんだ?

 パティまで私をそんな目で見るのか?」


「「「べっつに~」」」


 仲良し。シクシク。



「なあ、悪かった。本当に反省している。

 まさかあんな風に豹変するとは思わなかったのだ」


「エリクのバカ。まだわかってない。

 問題はそこじゃない」


「そうよ。エリク。私とユーシャはエリクが自分の一部を私達以外の誰かに勝手に流した事が不満なのよ。エリクは私達のものなの。もう二度とこんな事はしないで」


「むぅ……承知した」


 やはりディアナも依存症に?



「ユーシャ。ディアナ。私も謝るわ。エリクにお願いしたのは私なの。私はレティがどうしても欲しくなっちゃったの。ごめんなさい。どうかしてたわ。ちゃんと相談するべきだった。冷静じゃなかった。助けに来てくれた事が嬉しくて暴走してた。卑怯な真似をしてごめんなさい。勝手な事をしてごめんなさい」


「違う。決断したのは私だ。パティの思惑を口実にしただけだ。自分の力への興味を抑えきれなかったのだ。人間で試してみたかったのだ。だから悪いのは私なのだ。すまなかった二人とも。もう二度と勝手な真似はしないと誓う」


「……もう。わかったよ」


「責任は取りなさいよ。どんな形であれね」


「良いのか?」


「良いの?」


「仕方ないじゃない。あんな風にしちゃったんだから」


「けど恋人は認めない」


「かと言ってスノウ達と同じってわけにもいかないわよね。

 仮にもレティお姉様も王女なわけだし」


「関係ない。許すのは下僕まで」


「せめて愛人くらいにしてあげてはどう?」


「ダメ」


「なら同居人?」


「……それくらいなら」


「そのまま小姑で良いのでは?」


「エリクは躱し続けるつもりなの?」


「……」


 無理かも……。

スノウにするみたいに何だかんだ甘やかしそう……。

それにスノウと違って言う事聞かなそうだし……。



「バカエリク」


「後はユーシャ次第ね。

 関係を進める時は許可を貰う事ね」


 別にそんなつもりは無いんだけど……。



「頑張りましょう。エリク。

 二人で説得すれば何れ」


「パティのバカ」


「ごめんなさい……」


 今のはダメだろパティよ……。

流石の私でもわかるぞ……。



「保留だ。取り敢えずパティの側付きにしよう。本人も望んでいることだし。何れ私への熱意も覚めるやもしれんしな」


 薬が完全に抜けきれば、元のパティ至上主義に戻るかもしれない。



「私は責任を取れと言ったのよ。

 投げ出すつもりなの?」


「そうではない。

 依存症の対策として遠ざけるのが有効だと」


「違うわ。そんな話をしているんじゃないの」


「そこをごっちゃにするべきではないぞ。

 今はまだ単なる急性中毒のようなものかもしれんのだ。

 心にまで根付いたとは限らんのだ」


「いいえ。そんな筈はないわ。

 きっとこの事は私が一番よくわかっているもの」


「……何の話だ?」


 まさか?



「私はエリクに魔力を流されたから好意を抱いたの。

 そう自覚したと言う事よ」


「それは……」


 やはり……なのか……。



「けど勘違いしないで。それはキッカケと言うだけよ。そもそも私の場合はレティお姉様程苛烈なものでもないわ。エリクが加減していてくれたもの。けどそんな事はどうでも良いの。それより大切なのは、私は後悔なんてしていないって事。私は今幸せよ。この幸せを手放すつもりは無いの。だからこそ見過ごせないの。レティお姉様を蔑ろにしてはダメよ。勿論スノウとミカゲもよ」


「……無茶を言うな」


「無茶でもなんでもやり遂げなさい。

 それがあなたの責任よ。エリク」


「…………うむ」


「私は認めないからね。

 ディアナの意思を否定するつもりもないけど」


「……うむ」


「落とし所はエリクとパティで考えて。私とユーシャを同時に納得させられるような都合の良い何かを見つけてね」


「「……はい」」

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