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01-09.運命の別れ道

「そう。旅をしていたのね。

 もっと聞かせて。

 そういう話を聞くのは大好きなの」


 お嬢様は飽きもせずに話しかけ続けた。

少女自身が口を開くことは出来ずとも、諦める事なく話に加えようと笑いかけていた。


 これではどちらが世話しているのかわからんではないか。



『はて。どこから話したものか。

 かれこれ十年程流離っておったでな。

 最初から話しては時間がいくらあっても足りんな』


「ふふ。

 エリクはやっぱりユーシャの事が大好きなのね。

 そんなにいっぱいの思い出が残っているなんて」


「♪♪」


 嬉しそうにするな。

お前も喋れ。

まったく。



『無駄に多く時間を重ねただけだ。

 私の力が足りぬばかりに、この子はこのザマだ。

 我が身の不甲斐なさを悔やむばかりだ』


「!!?!」


 何を言いたいのだ。

流石の私でもわからんぞ。



「あらあら。

 本当に大切にしているのね。

 きっと少しばかり過保護にし過ぎたのかも。

 ふふ。でも気持ちはよくわかるわ。

 ユーシャったらこんなに可愛んだもの」


『器量の良さはこの子の数少ない長所の一つだ』


「ふふふ。

 エリクったらベタ惚れじゃない」


「!!!!?!?」


『そんなものではない。

 ただの客観的意見だ。

 親の贔屓目も僅かにあるかもしれん』


「あら~。

 なら他には?

 ユーシャの良いところ教えてくれる?」


『それならば大した時間もかけずに語れよう。

 良いところなんぞ数える程しかないからな』


「!!!!」


 怒るな。

まったく。忙しいやつだな。



「先ずは歌だ。

 この子の歌声は中々のものだ。

 披露出来んのが惜しいくらいだな」


「やっぱりそうなのね!

 私も聴いてみたいわ~♪」


「///」


 照れるな。

今更これくらいで。



『後は根気の良さだな。

 一度始めた事は必ずやり遂げる。

 決して器用とは言えんし、やる気を出すにも時間はかかるが、それを補って余りある程、この子には芯の強さがある』


「???」


 こやつ……。

ようわかっとらんな。



「なるほどね。

 それもメアリ、いえ、メイド長から話を聞いてるわ。

 ユーシャはとっても頑張り屋さんだって。

 珍しく褒めていたわ」


「///」


 また照れおった。

メイド長の言葉がそんなに嬉しいか。

面白くない。



『他にもまだあるぞ。

 例えば、』


 それから長い事少女の話を続けていた。

気がつくと、お嬢様と過ごす一日目はあっという間に過ぎていた。


 ごほん。

少しばかり話しすぎたようだ。

いかんいかん。

私がこんな事をしていては、少女が話せんではないか。

少々ムキになりすぎたようだ。


 うん?ムキに?

いやいや。そんなんではない。

別にメイド長に嫉妬なんて……。


 いや、認めよう。

私は嫉妬している。

面白くない。

少女に親しい人間が出来るのが無性に落ち着かない。


 こんな私が側にいるから少女は孤独なのだ。

これはもしや良い機会なのかもしれん。


 依頼の内容がハッキリして、かつ少女がこの屋敷でこれからも務める事が許されるならば、私はあのお嬢様に身を捧げても構わんのではなかろうか。


 これは私達二人の好機となりえるのではなかろうか。

少女は人の世で生きる為に。

私は願望成就の為に。


 ご令嬢の完治と引き換えならば、この貴族家の当主も私の最後の願いを聞き届けてくれるのではなかろうか。


 よしんば当主との話し合いが叶わずとも、あのお嬢様に伝えるだけでもよきに計らってくれるのではなかろうか。

あのお嬢様もユーシャを気に入ってくれているのだ。

どうかこれからも側に置いてやってほしいと頼めば、叶えてくれるのではないだろうか。


 うむ。

良い考えだな。

むしろ都合が良すぎるくらいだな。

これこそが運命というものなのかもしれん。


 我々は訪れるべくしてこの地を訪れたのかもしれん。

あの不審者の計らいと思うのは癪だが、あまりにも都合が良すぎて神に感謝しても良いとすら思えるくらいだ。


 むむ。待てよ。

一旦落ち着こう。

あの不審者が関わっているやもと思えば、何やら不安も湧いてきた。


 本当に運命などというものに身を委ねても良いのか?

私をこのような理不尽な運命に放り込んだ者がいるのに?


 ダメだ。

やはりしっかりと見極めねば。

私のこの目で見定めねば。

目は無いが。



「エリク?

 何か考え事?」


『なんだ遠慮などらしくない。

 言いたい事があるならハッキリ言え』


 いつの間にか少女の部屋に戻ってきていたようだ。

何時もならすぐさま、どちらからともなく話しかけていたので、沈黙を続けていた私に疑問を抱いたようだ。



「……ダメだからね」


『なんだ藪から棒に。

 何がダメなのだ?』


「エリクがいなくなるの!

 ダメだからね!

 エリクの望みは知ってるけど認めないからね!」


『……』


 驚いた。

何故気付かれたのだ。



「私だってわかるんだよ!

 エリクの事ならなんでも!

 私の良いところあんなに伝えて何企んでるの!

 どうせ私をここに置いてもらおうとか考えてるんでしょ!

 エリクは居なくなっちゃうつもりなんでしょ!

 絶対ダメだからね!エリクは私のなの!

 誰にもあげたりしないの!!」


『……勘違いだ。

 妙な心配をするでない』


 本当に勘違いだ。

実際私はそんなつもりで語ったわけではないのだ。

あれは少しばかり興が乗りすぎただけなのだ。

そもそも順序が逆なのだ。


 まったく。

私の事なんぞ何にもわかっておらんではないか。


 ふっ。本当に困った子だ。

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