02-16.騒音問題
「おい! やかましいぞ! 毎日毎日バカスカと!
勉強に集中出来んだろうが! いい加減にしろ!」
あんの爺様! 飽きもせず毎日来おって!
折角第三王子一行が現れんようになったと言うに!
ちょっとは感謝してやっても良いかと思ったのに!
いい加減諦めんか! お主程度の魔術では破れんわ!
「やあ、お嬢ちゃん。
ふむ。これはこれは。
驚いたのう。中々の器量良しじゃのう。
お嬢ちゃん、弟子ではなくわしの愛人にならぬか?」
「ふざけるなぁ!!!」
なんだこのスケベ爺!
私のスノウにそんな目を向けるでないわ!!
と言うか顔は見えておらんだろうが!
ちゃんと隠しておるのだ! 体格だけで判断しおったな!!
「時間切れだ!
お主に教わる事なんぞありはせん!
もう二度と姿を現すでない!」
「なんじゃ。ケチくさい。
もう少しくらい良いではないか」
「ならん!
もう三十年は修行して出直してこい!」
「わしもうそんな生きられんぞ。
こう見えても結構な歳なのじゃ」
「見たまんまであろうが!
別に勘違いなんぞしとらんわ!!」
「うら若き乙女がそう怒鳴るでない。
喉を痛めてしまうじゃろうが」
「お主のせいだぁ!!!」
ダメだ。
このまま話していても埒が明かん。
ボケた爺様なんぞ相手している暇は無いのだ。
「メアリ、すまんが後は任せるぞ」
「承知致しました」
「なんじゃ。行ってしまうのか。寂しいのう。
もう少しくらい相手をしてくれても良かろうに」
相手はせんぞ。これ以上。
「仕方ない。ならばわしも負けを認めよう。
陛下にも告げねばな。筆頭王宮魔術師の地位に相応しき者が他にいると」
「おい。それは脅しているのか?」
「何の話じゃ?
わしはただ自らの責務を果たそうとしておるだけじゃよ」
このやろう……。
「なんてみっともない爺さんだ。うら若き乙女の青春を摘み取る事に必死過ぎるだろう。こんなのが筆頭とは程度が知れると言うものだな。そんな連中とつるむのは御免だ。例え陛下から目を付けられる事になろうともな」
我ながら酷い捨てゼリフだ。
だがもう仕方あるまい。後でパティにも謝らねばな。
「冗談じゃ。そうムキになるでない。
どの道わしが何かせんでももう手遅れじゃよ」
「……なんだと?」
「手遅れじゃと。そういったのじゃ」
「何故だ? 何故そう言い切れる?
お主は何を知っておるのだ?」
「お嬢ちゃんじゃろ。噂の強大な魔力持ちの少女とは。
噂ほどには見えぬが、何かこのわしですら見破れぬ手段で隠蔽を施しておるのじゃろ? これだけ広範囲に魔力を広げておきながら、お嬢ちゃんにはそれ程の魔力があるようには見えぬのじゃ」
ああ。そう判断するのか。
スノウを身代わりにしたことでまた妙な勘違いが生まれているな。どうしてこう尽くが上手くいかぬのだろうか。
「そんな噂は知らん。
私は無関係だ。陛下にもそう伝えておけ」
「残念じゃがそれでは意味が無いのじゃ。陛下ならば既に此度の件も存じておろう。当然じゃな。王都のど真ん中で毎日騒音が上がっておったのじゃ。誰でも気付くに決まっておる。ふぉっふぉっふぉ」
「ふぉっふぉっふぉじゃ! ない!
全てお主のせいだろうがぁ!!!」
「短気な娘じゃのう。ちょっと減点じゃのう。
わしはお淑やかなおなごが好みでのう」
「知らんわ!!!」
「まあ、落ち着いておくれ。
まだ話は終わっとらんのじゃ」
「……なんだ?」
何故私は結局話しを聞いてしまっているのだ……。
ちくせう。
「お嬢ちゃん。わしの弟子となれ」
「しつこい!」
「そうではない。
わしが守ってやると言っておるのじゃ」
「守る?」
「陛下に目を付けられたくは無いのじゃろう?」
「ハッキリと言う爺様だな。
そんなこと往来のど真ん中でよく口に出来たものだ」
「お嬢ちゃんが入れてくれないんじゃろうが」
「それで?
何故お主の弟子になることが陛下の目を欺くことに繋がるのだ?」
「お嬢ちゃんこそ言葉には気をつけよ。そういう意味ではない。目を欺くのではなく誘導するだけじゃ。王宮魔術師とは国に使える魔術師、即ち我らは陛下のものじゃ。自分から駒になりに来た強者を無下にはせんのじゃ」
「ならんぞ。王宮魔術師なんぞ」
「フリで構わん。わしの弟子として将来筆頭王宮魔術師を目指しておるのじゃと。そう見せかけるだけで構わんのじゃ」
どの道それでは外堀が埋められてしまうのではないのか?
これも陛下が没するまでの時間稼ぎだと言うのか?
「……我が主に相談しておこう」
「ふむ。お嬢ちゃんの主は十八王女殿下じゃったな。
よかろう。あの殿下ならば即決してくださるじゃろう。
しかし忘れるでないぞ。残り時間はそう多くないのじゃ。
明日、答えを聞きに来よう」
爺様はそう言って私の返事も待たずに去っていった。




