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02-15.新たな日課

「奴らまた来たのか」


 ここ数日、連日のように屋敷を訪れる第三王子御一行。

当然今日も門前払いだ。いつも通り魔力壁で敷地内には一歩も踏み込ませはしない。


 そして今日は何やら偉そうな爺様を連れてきたらしい。

奴らは毎日助っ人を連れてくるのだが、今までは見るからに力自慢って感じの者達だった。今回はそれらとは毛色が異なるようだ。



「エリクさん!」


 爺様の様子を伺っていたスノウが声を上げた。

突然飛び上がった爺様が軽々と魔力壁を飛び越えて敷地内に侵入したのだ。


 しまった。あやつ飛べるのか。

だがまだ慌てる時じゃない。敷地内に入られただけだ。急いで屋敷を囲えばまだ間に合う。今度は上も忘れず塞いでおこう。



「お主が術者だな。

 降りてきて話をさせておくれ」


 スノウが潜む部屋を見上げて声を掛けてきた。

流石に私にまでは気付かないか。まあ想定通りだな。



「無視しろ。スノウ」


「はい。エリクさん」


 外から見えないようスノウを窓際から少し離す。

フードも被っているから容姿までは見えないだろうけど、また飛び上がって覗かれても嫌だからな。



「ふむ。ダメか。

 仕方ない。陛下のお力を借りるとしよう」


 なんだと?

本当にそんな事が出来るのか?

まさか陛下のお気に入りとやらか?


 飛行魔術まで使うのだ。

あながち無い話でも……。


 いやでも、国王陛下は手も足も出せず頼ってきたような輩に目をかけるのか? 例え今は気に入られていたとしても、切り捨てられるだけなのでは?


 まさかブラフか?

わざわざ聞こえるように呟いたのだ。私達が陛下の干渉を恐れて引き止めるのを狙っているのやもしれん。


 ここは沈黙を貫くのが正解か?

それとも万が一の可能性を考慮して話くらいはしてやるべきか?


 陛下が出張ってきては流石に引きこもり続けるのも難しいだろう。私達にとってその状況は最も避けねばならんのだ。


 この爺様はそれを理解しているのかもしれん。

ならばここをやり過ごしても陛下には結局伝わってしまうのかもしれん。別に直接頼らなくとも噂を流すなりなんなりすれば済むのだ。まともなおつむを持ち、ある程度陛下から信頼されている者ならその手も使えるだろう。


 まさかそのような者がこうも早く第三王子一行に手を貸すとは思わなんだ。他の王族達の差し金だろうか。敵ながら良い手だな。第三王子を隠れ蓑にするとは。



「何用だ」


 結局私はスノウの口を借りて問いかけた。



「おや? 随分と年若いようだのう。

 少しばかり爺と世間話でもいかがかな? お嬢ちゃん」


「そこで話せ」


「爺に立ち話をさせるのかね?

 もう少し年寄りは労って欲しいものだのう」


「図々しい奴だな。侵入者の分際で何を言う。

 これ以上余計な事を喋れば話は終いだ。

 とっとと要件を話せ」


「この術を教えておくれ。

 わしはお主の使う魔術に興味がある」


 お前もか。パティの同類かもしれんな。

流石に魔導という呼称までは使わんようだが。



「私にどんなメリットがあるのだ?」


「わしが教えを請うのだ。

 それで十分にメリットとなろう」


 何を言っているのだこの爺様は。

そんなに高名な者なのか?



「生憎と私はお主なんぞ知らんぞ。

 名乗りもしとらんのだ。当然であろう」


「ふぉっふぉっふぉ。これは失礼。お嬢ちゃん。

 我が名はサロモン。この国の筆頭王宮魔術師じゃ」


 なにその、ソロモンのパチモンみたいなの。

いや、人様の名前を馬鹿にするつもりはないけども。


 というか筆頭王宮魔術師ってなにさ?

まあ字面からどんな存在かはわかるけども。そういう事じゃなくて、何でそんな人がバカ共に付き合ってるの? 意味分かんないんだけど……。



「メアリ」


「おそらく真実かと」


 スノウの側に控えて話を聞いていたメアリが肯定する。

流石に顔は知らなかったようだが十分に証拠は揃っている。魔力量も十分にあり、高度な飛行魔術を事も無げに使いこなしていた。



「だが断る!」


「なんと!」


 いや目立つし。広める気無いし。パティ以外に教える気無いし。スノウも使えるけど。スノウは勝手に使えるようになっただけだ。別に私が教えたわけじゃない。私がスノウの身体で魔導を使う事は教えてる事にもなるかもだけど。これはあくまで副次的なものなのだ。


 パティが未だ使いこなせておらんのに他者に先を越させてばかりはいられんのだ。そもそも普通の人間に使えるのかは疑問だがな。あのパティが苦戦しているのだ。そもそも私の眷属でなければ使えんのかもしれん。



「欲しければ見て学べ。

 やつらを追い払ってくれるなら、敷地外から眺める事くらいは許してやろう」


 魔力壁維持する理由も無くなるから、何時までもとは言わんがな。



「なんじゃ。ケチなお嬢ちゃんじゃのう」


「これは私の奥義だ。当然であろう」


「ならばわしの弟子にならんか?

 他の魔術ならば自信があるぞ?」


 飛行魔術はちょっと欲しい。私の浮遊は何故だかそんなに高く飛べないし。そもそも今の身体なら浮遊するよりジャンプした方が早そうだけど。脚力パないし。


 そもそも私、魔術はあんまり性に合わないんだよね。

なんか詠唱覚えようとすると妙に抵抗があるっていうか。

記憶力良いはずなのに。もしかしたらあれかもしれない。

無意識に厨二病的なやつを敬遠しているのかも?


 それでも別に完全に使えないわけじゃないけど何だか違和感があるのだ。魔力を強制的に吸い出されるのが。苦痛とまではいかないけど、落ち着かないというか肌に合わないというか。なんかそんな感じ。



「魔力壁を破れたなら考えてやろう。

 当然飛び越えるのは無しだ」


「ふぉっふぉっふぉ。良いぞ。

 その挑戦受けて立とう」


 爺様は素直に身を翻すと、第三王子達の下へと戻っていった。どうやら今日のところは出直してくれるようだ。ついでにあいつらも引き上げさせてくれるらしい。案外話の分かる爺様のようだな。本当にただの興味本位だけで出張ってきただけなのだろう。


 良かった。あんなのが第三王子の派閥では面倒な事になる所だった。強大な魔術師と真っ向からやり合える自信は無いのだ。魔力壁にだって弱点はある。気付かれれば崩すのも案外容易なのだから。あれ? 早まったか?

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