02-14.過大評価?
「それで、第三王子の件は自分達で対応するとしてだ。
具体的に何をどこまでやってよいのだ?
日中、パティはこの場にはおらんのだぞ?」
もしやすると、あの者共もパティの留守を狙ってくるのかもしれん。流石にその程度の思考は回るだろう。そうであってくれねば、諸々の前提が崩れてしまうやもしれんな……。
「そうね。魔導に頼るのも限界があるでしょうね。
魔力視持ちなら術者は誰か分かるのだし」
「うむ。今はスノウが代わりに表に出ているとはいえ、スノウでも同じ話だろう。要するにパティが強すぎる個に頼ってその背後で怯えていると思われるのが不味いのだろう?」
その強き者を要する器量こそ、王の器とも思うのだが。
陛下的には頼りすぎもダメなのだろうか。
「その認識は少し違うわね。
いえ、間違っているわけではないの。
ただそれだけでは足りていないわ」
「というと?」
「ちょっとややこしい話になるわよ。
一から説明すると、先ず強ければ陛下の耳に届くわ。陛下はその者を呼び出すでしょう。普段なら何かしら試して遊ぶ程度よ。例えば騎士団長との一騎打ちとかね。そんな感じで試練をこなせば褒美だってくれるでしょう」
ふむふむ。面倒ではあるが色々メリットも考えられるな。
力を示すことで他者の手出しを抑制できるやもしれんし、逆にわざと負ければ取るに足らぬ相手と捨て置いてくれるやもしれん。流石に御前試合で八百長するのは難易度も高いだろうが。
「その後は私達の関係性も確かめるでしょうね。相応しくないと判断すれば横槍を入れてくるわ。まあ流石にそれは滅多に無いけどね。本来であれば私に対しては特にね。横槍を入れてくるとしたら主よりその強者の方が気に入られた場合なんだもの。要は勿体ないからチャンスをやろうって意味よ。当然強制なんだけど」
厄介な。
まあでも、パティは気に入られているという話だしな。
本人も言う通り、その心配はいらんだろうな。
「けれどそれがエリクだとそう単純な話では終われないの」
「何故だ?」
「エリクが強すぎるからよ。
人間の常識を遥かに超えているの」
「買いかぶり過ぎではないか?
確かに魔力壁の強度や効率も随分と改善されたが、パティならば対策のしようもあるだろう?」
「そうね。魔力壁だけならね。
けど、エリクの力はもうそれだけじゃないでしょ」
「まあポテンシャルはあるだろうな。
パティ達の作ってくれたこの肉体には。
しかしだからこそ、心配など要らんのでは?
私は人間ではないのだ。気に入られるとは限らんだろう」
「いいえ。陛下は人間かどうかなんて気にしないわ。
むしろ面白がるだけよ。なんなら自分の養子にしてでも王位継承戦に巻き込もうとするかもしれないわ」
「はぁ?
横槍というのはそういう事なのか?」
「ええ。可能性はあると思う」
「馬鹿げているな。
そもそも強者とは腕っぷしだけを指して呼ぶものでもあるまいに」
「何を言ってるのよ。
エリクには優秀な頭脳だってあるじゃない。
そして人望も。私と叔父様が認めているのよ。
陛下もきっとお認めになるわ」
「本当に買いかぶりすぎだ。
そもそも私に脳みそなんぞ無いのだぞ」
「真面目な話よ。茶化さないで。
たった数ヶ月で学園最終学年の授業に追いついたのよ。
ディアナはあれでもまるっきりゼロってわけじゃない。
けどエリクは違うんでしょ?」
「そこはほれ、前世の知識があるだろう」
「それにしたって記憶力も理解力も高すぎるじゃない」
「それは……ズルをしているだけだ。
私の意識は一度覚えた事を忘れにくい。おそらく薬瓶にそのような効果があるのだ。もしくは脳みそが無いから忘れる仕組み自体が存在せんのかもしれん」
「理由なんて関係ないの。
事実としてエリクは誰より優秀なの。
だからきっと陛下も気に入るはずよ」
「その結果が新たな王女の誕生だと?
流石に飛躍し過ぎではないか?」
「信じてエリク」
「まあパティがそう言うなら飲み込むが」
「ありがと」
「それで?
ならば今後もスノウを隠れ蓑とすれば良いのか?」
「ダメよ、それじゃ。
さっきエリクが自分で言ったんじゃない。
スノウはユーシャと勘違いされてるって。
あまり派手にやれば悪目立ちしてしまうわ。
きっと陛下も興味を示すはずよ。噂の件も含めてね」
「どうしてそう、都合の悪い展開にばかり繋がるのだ」
「言っても仕方ないじゃない。
とにかくスノウも姿を晒させないで」
「そうか。まあ問題はなかろう。
上階から入口を視界に入れてもらうだけで十分だ。
さすれば私が魔力壁で強固な守りを築いてみせよう」
「え? どういう事?
そんな遠くまで届くの?」
「うん? パティにはまだ言っておらんかったか?
魔導の有効範囲はこの屋敷の敷地を越えておる。加えて、ユーシャとスノウを起点とした同等の範囲にも届くだろう。とは言え視覚情報無しで完全に制御が行き届くわけでもないがな。だからスノウに最上階から見下ろしてもらおう。それで私がこの部屋から動かずとも防壁を張れるだろう」
「……やっぱり無茶苦茶じゃない」
「いいや。まだまだだ。何か探知系の術も編み出せれば私一人で守りきれるやもしれんのだ。精進を続けねばならん」
「そういう事言ってるんじゃないんだけど……。
まあ良いわ。ならエリクの好きにやってみて。
正体を掴まれない自信があるなら問題はないわ」
「うむ。ここは私に任せておけ」
「心強いわ。
でも無理はしないでね。
相手もどんな手で来るかわからないんだから」
「うむ。油断はせぬよ。
いざとなったらディアナを連れて逃げてみるさ」
「そんな事にはならないと思うけど。
でももしもの時は学園に逃げ込んで。
私達からも合流するから」
「うむ。そうだな。
丁度直ぐ隣なのだ。
迷わず逃げ込むとしよう」
パティがいれば百人力だ。
二人でなら誰にも負ける事は無いだろう。
意外となんとかなる気がしてきたぞ。
やはりパティは頼りになるな。




