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02-13.弱肉強食

「そうね。あり得ると思うわ。

 エリクの考えた事も」


 折角の感動も程々に、私達は早速対策会議を始めた。

待ち望んでいた新たな生活の幕開けだったというのに。

あの王子一行は本当に迷惑なやつらだ。



「というと?

 パティは何か他に気付いた事があるのか?」


「いいえ。そういう事ではなくて。

 単にあれが何も考えていなかっただけって可能性が高そうだと思っただけよ」


「気持ちはわかるがな。

 しかし可能性があるなら洗い出しておかねば」


「ええ。そうね。

 焚き付けたやつは他にいるかもしれないものね」


 情報を流した者がいるはずだ。

あの王子がそんな優秀な連絡網を持っているとは思えない。



「他の王族達の動きはどうなのだ?」


「ごめんなさい。

 そっちはまだ調べられていないの」


「まあ今日の今日だからな。

 すまん。無茶を言った」


「いいえ、そうじゃなくて。

 ユーシャの事も含めてと言う意味よ。

 まだ一度も城には入れていないの」


「何か問題でもあったのか?」


「その話は後にしましょう」


 まあ良いがな。

どの道隠し事をするつもりもないのだろうし。

単に、直ぐ片付く問題でもないのだろう。


 そもそも、今日までパティはユーシャと二人きりだったのだ。もちろん屋敷に帰れば誰かはいるが、城に連れて行くどころか、ユーシャを任せておける相手もいなかった筈だ。そんな状態で調査も何もなかろう。


 私も無意識にパティを頼りすぎているな。

この子はまだ学生なのだ。時間も伝も足りてはいまい。

何でもかんでも任せるのは良くないな。


 おそらくお父上寄りの協力者達も、パティにまで全ての情報を明かしてくれるわけではないだろう。きっと面倒事からは遠ざけようとするはずだ。一応、パティのお転婆っぷりは内緒って事になっているのだし。



 私はむしろ、無茶をしなかった事を褒めてやるべきだな。

パティなら一人ででも潜り込んでいたことだろう。なんなら一人ではなかったからこそ、先走る事も無かったのだろう。ユーシャが上手い具合に枷となってくれていたようだ。


 そうか。パティがユーシャの同行を拒んでいたのもそれが理由か。ユーシャが側に居ることで、自身が身動き出来なくなるのを懸念していたのだ。流石に手を出しそうで不安だからなんて理由だけで断ったのではなかったのだな。


 まったく。素直じゃないやつだ。

毎度毎度、よくそんな言い訳が思いつくものだ。

素直に感心するぞ。



「何その顔?

 なんか妙なこと考えてない?」


「いいや。なんでもない。気にするな。

 それより話を戻そう」


「まあ良いわ。今は遊んでる場合じゃないもの。

 それで、次の動きについてだけど」


「また来るだろうか」


「ええ。間違いなく。

 陛下が止めに入る事は無いでしょうし」


「何故そう言い切れる?」


「これが第十八王女わたし第三王子あのバカの小競り合いだからよ。少なくとも、陛下はそう認識しているはずよ」


「なんだそれは?

 継承争いという事か?」


「つまりはそういう事。陛下は競わせているの。

 より優秀な者が国を継ぐべきだと考えているわ」


「意味がわからんぞ。

 何故そんな話になるのだ?

 パティにその気は無いのだろう?」


「ええ。もちろん。けど、周囲はそう見ていないの。理由は単純。私が有数の権力者である叔父様に取り入ったから。私にそのつもりがなくとも、皆は私が王位獲得に前向きだと考えているの。きっとディアナの回復の件も知れ渡れば、上手くやったと羨む事でしょうね」


「……ならばお父上が言っていた、ディアナとパティの結婚を認めないというのは?」


「普通に女同士だからよ。

 将来有望で素質も最上な私が跡継ぎを残さないのは認められないから」


「ならば何故、ディアナの首席卒業で許されるのだ?」


「当然それだけでは認められないわ。幾つか理由があるの。

 先ず第一に私が側室を向かえるつもりでいる事ね」


「何れ男も加えるなら見逃そうと?」


「そういう事よ。もちろんそんなのごめんだけどね」


「他の理由は?」


「ディアナの価値が認められる事よ。

 強き者が良き物を手にするのは当然の事よ。それが陛下にとっては当たり前なの。要するに、王たる私に相応しい相手だから側に置いても良いよって話ね。ディアナにその価値が無いなら、陛下は決して認めないわ」


「価値は有るだろう?

 少なくとも、公爵閣下おちちうえには」


 こんな言い方はしたくないが、少なくとも周囲はそれを認めているはずだ。だからこそ、パティが意欲的だと思われているのだし。



「例えディアナとの婚姻が叔父様との関係を強固なものにするとしても関係ないの。王が政略結婚なんて軟弱だと思うだけでしょうね。むしろ他者の力を当てにして自らを売り飛ばす行為だと蔑むでしょうね」


 なるほど。

あくまで王はパティ本人だと。

その覇道に相応しくない行為は認めないと。


 やっかいな事に政略結婚そのものの価値を認めていないわけではないのだろう。あくまで、それを王自らが為すとは何事かと反対するだけで。


 話を聞く限り、価値の無い子供達なら平気で売り飛ばしそうな気がする。パティも例外ではあるまい。価値を示せなければ道具として使われるのが関の山なのだろう。だからこそ、パティが公爵家の養子になる事も認められたのだろう。



「だからディアナ個人の価値が認められないといけないの。そうでないと、無駄なものに心を奪われている暇があるなら上を目指せと言うでしょう。そうして私とディアナを引き離そうとする筈よ」


「パティは期待されておるのだな?」


「ええ。そうなの。困ったことにね」


 本当に困った話だな……。

何だその弱肉強食の王者みたいな思考は。何十人も側室を作ったのは欲しいもの全てを手に入れてきただけでなく、子供達に競い合わせる為でもあったのだろうか。


 公爵閣下がパティを預かったのも、国王が公爵閣下を信頼してのことではなく、何を使ってでも這い上がろうとするパティを評価したからなのだろうか。


 いやむしろ最初は何の期待もしていなかったのか。だから別に公爵閣下の下へ転がり込もうが関係なかったのか。期待されたのは結果としてのことなのだ。公爵閣下と良き関係を築けたからこそ、パティには見どころがあると判断されたわけか。


 私は色々と勘違いしていたようだ。

陛下はもっと子煩悩な者なのかと思っていた。

イメージが百八十度変わってしまったぞ。



「結局、継承権とやらはあるのか?

 以前お主、微塵も無いと言っていたではないか」


「無いわよ。無い無い。

 だって兄様達の方がずっと優秀だもの。次の国王は間違いなく第一王子よ。陛下はそれが気に入らないだけ。もっと皆に競い合って欲しいのよ。だから第三王子あのバカも放置されてるわけ。何かの間違いであれが上り詰めたら面白い事になるとでも考えてるはずよ。当然他の皆も黙っていないもの」


「なんと厄介な……」


 そんなのが国王でこの国大丈夫?



「だがそうすると、今度は公爵閣下の力に疑問が湧くな」


 何故そんな王族達に対して強く出れるのだ?

国王がそんな調子じゃ、公爵の権力でも抗うのは難しかろうに。



「そう難しく考える必要は無いわ。

 陛下は叔父様の事も気に入ってるのよ。

 とにかく優秀で強い人が好きなのよ。陛下は」


 だからといって力を貸してくれるわけでもないのだろう。

単に気に入っているから、より重要な役割や仕事を任せるだけで。なんか少しシンプルになってきたな。陛下の人柄。



「なんとなく話はわかった。

 それで、パティは今後どうするつもりなのだ?

 国王が弱肉強食を是とするなら、何れは私達も巻き上げられるのではないのか?」


 仮にパティが王位継承を完全に放棄すれば、私達は無理やり取り上げられて優秀な者達に充てがわれるのではなかろうか。おそらく母体として優秀だと判断されるはずだ。なんなら私達をトロフィー代わりにして王子達を競い合わせるやもしれん。しつこいが、それだけ魔力持ちは貴重なのだ。


 まあ、実際私にそんな機能は無いのだが。この身体、魔物のキメラだし。とは言えそんな情報伝える気も無いから関係ないだろうけど。


 逆にパティが王位を目指すなら、今のままでもいられるのだろう。強者パティが全てを手に入れるのは当然なのだから。少なくとも王様的には。


 そしてそれは、逆に負ければ全てを失うという意味でもあるはずだ。これはなにも王位継承だけの話ではなく、何かそういう勝負をふっかけられるかもしれないという意味だ。負けることを恐れてパティが逃げ回れば、根性なしと判断されて取り上げられるかもしれない。厄介なものだな……。



 そもそもパティには勝ち取るつもりがない。

本人が何度もそう言っているのだから間違いない。



「王位継承が為されるまでは適当にやる気を示しておくわ。

 予定通り第一王子が継承したなら、そう酷い治世にはならないわよ。少なくともイチ兄様は妹から伴侶を奪うような人じゃないわ」


「それは本当に上手くいくのか?

 陛下もいよいよとなったら手段を選ばず争わせたりせんのか?」


「……無いとも言えないわ。

 けど、きっと一兄様が抑えてくれるはずよ」


 信頼の厚いこって。

そんな傑物なのだろうか。一兄様とやらは。



「大丈夫よ。心配しないで。

 いざとなったら駆け落ちでもなんでもしてあげるから」


「まあ、お主がそう言うなら構わんが。

 もちろん、ディアナも同意するならな」


 別に私とユーシャはこの国の出身というわけでもないし。


 スノウとミカゲも問題無いだろう。元々してた仕事関係も、今となっては後ろ暗い過去でしかあるまい。裏ギルドなんてものに入っていたのだ。敢えて聞いてはいないが間違いあるまい。


 メアリはどうするのだろう。

その時は付いてくるのだろうか。


 流石にそれはお父上が不憫だな。

娘だけに飽き足らず、あんな優秀な人材まで引き抜いてしまうのだ。けど逆に、連れて行くようにと言うかもしれん。何よりディアナの無事と幸せを最優先に願うだろうし。


 後は精々ジュリちゃんくらいか。

流石に出ていく時は挨拶に伺わねばな。あれだけ世話になったのだ。しかも先日の出立の時もわざわざ見送りに来てくれた。帰る時には忘れずに王都土産を準備しておこう。



 いっそ色々落ち着いたら戻って来るくらいのつもりで駆け落ちするのも良いやもしれんな。もちろん、第一王子の治世なら安心だという話が本当ならだけど。



「で、結局話しを戻すとだ。

 つまりは第三王子関係は自分達でどうにかせねばならんのだな?」


「そうよ。逆に言うなら少しくらい暴れても問題ないわ。

 けどあくまで、矢面に立つのは私よ。

 エリクが目立ちすぎてしまえば、陛下が干渉してくるわ」


「私が王族ではないからか?

 パティが私の力を当てにしているように見えるから?」


「そう。流石エリク。わかってきたわね。そういう事よ」


「私達は第十八王女の一派というわけだな。

 まったく。そういう事は先に言っておけ。

 もう既に巻き込まれた後ではないか」


「言ったら付いて来てくれなかったの?」


「違う。そんなわけがなかろう。心構えの話だ。

 王族の派閥争いなんぞ御免だが、だからと言って今更パティの恋人をやめられるわけがなかろう。もっと私達を信じろ。一人で抱え込むな。他に話していない事は無いのか?」


「……たぶん」


「まったく。ならば思い出したらすぐ話せ。

 私達は逃げたりなんぞせんのだ」


「うん……ありがと」


 今更こんな事で照れるでない。

まったく。可愛いやつめ。

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