表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/362

02-11.来客対応

「何やら騒がしいな」


 玄関の方から人の言い争うような声が聞こえてくる。



「そう? 何も聞こえないわよ?」


 無理もない。ここは玄関から少々距離があるからな。

何故パティはこのような奥まった部屋を選んだのだろう。

安全のためにお父上が選定したのだろうか?


 まあとにかく、私の身体スペックは高いのだ。

流石に内容までは聞こえんが、ただ事でないのは伝わってくる。


 取り敢えずスノウの感覚を借りてみよう。

どうやら近くにいるようだし。



「このお方をどなたと心得る!!

 第三王子殿下を門前払いとは何事か!!」


 なんかいかにも小悪党って感じのヒョロヒョロの背の高い男がメアリに詰め寄っている。後ろにふんぞり返っているやや小さくて丸っこいのが第三王子だろうか。その後ろには兵士達が控えている。随分と大勢でお越しのようだ。こんなのに付き合わされる兵士達も大変だな……。


 スノウはメアリの後ろで相手の様子を伺っているようだ。

幸い、王子もスノウの正体に気付いてはいないらしい。今はあの派手な服装じゃなくてメイド服だからね。きっとこの王子では気付く事などあるまい。なんか見るからにそんな感じがする。あまり偏見を持つのは良くないだろうけど。


 ミカゲは近くに居ないようだ。


 ああ。こちらに向かっているのか。

護衛と報告の為とでも指示されたのだろう。

メアリが気を遣って遠ざけてくれたのかもしれん。



「申し訳ございません。

 当家の主人より申し付かっておりますので」


「メイド風情が何を抜かすかぁ!!」


 どうやら帰る気が無さそうだ。

どうしたものか。まさか王子自ら初日に乗り込んでくるとは思わなんだ。フットワーク軽すぎやせんだろうか。


 まあ私達もあれだけ派手に王都を練り歩いたのだ。

耳に届くのは必然だったのだろうけど。


 むしろそれもわざとなのか。

お父上は自分の庇護下の者だと、それも特別に手厚く保護する対象だと示したかったのだろう。実際、第三王子以外がここに来る様子はない。他の者達は、我々に手を出すならデネリス公爵が相手になるというメッセージを受け取って、一先ず様子を見ることにしたのだろう。


 しかし第三王子だけはその意図に気付かなかったようだ。

どうして乗り込んで来ようなどと考えたのだろう。自分の権力ならゴリ押せると判断したのだろうか。まさかデネリス公爵からの献上品だとでも思っているのだろうか。


 というか暇なの? 第三王子ってそんなもんなの?

パティのような学生ならいざ知らず、どう見ても第三王子はいい歳だ。なんなら、子どもの一人や二人いてもおかしくはない。実際いるかもだけど。権力使って無理やり手籠めにしてそうだし。


 やばい。偏見が止まらない。

ぶっちゃけ、第一印象でもう最悪だもの。



「主! 大変です!」


 ミカゲが部屋に入ってきた。



「うむ。把握しておる」


「どういうこと?」


「ミカゲ」


「はい! 第三王子殿下がこの屋敷を訪れました!」


 このままディアナに説明するのはミカゲに任せるとしよう。私は引き続きスノウを介して直接覗くとしよう。



「どう仰られようともお通し出来ません。

 面会を望まれるならば、デネリス公爵閣下に話を通してくださいませ」


「貴様ぁ! 不敬だぞ!

 者共! 此奴を捕らえろ!」


 兵士達は渋々と言った様子でメアリ達に近付いていく。



「申し訳ございません。どうか抵抗はなさらないで下さい」


 隊長と思しき人物が小声で話しかけてきた。



「ご心配は無用です」


 容赦なく隊長を投げ飛ばすメアリ。

鎧を纏った成人男性が軽々と宙を舞う。



「なっ!?」


「どうぞお引き取りを」


「なっ何をやっておる!

 公務執行妨害だ! 捕らえろ! 怯むな! 続け!」


 諦めの悪い側近さんだ。

引き際を知らんのか。



「スノウ。構わん。やれ」


「はい。エリクさん」


 スノウは突然自分の口から出た言葉に驚く事もなく、メアリ達と兵士達の間に強固な魔力壁を展開した。



「おい! 何をしておる!

 何故立ち止まっておるのだ! 早く捕らえんか!」


「ですが!」


 魔力視持ち以外には見えない壁に阻まれて、兵士達はそれ以上一歩も踏み込む事が出来ないでいる。王子の側近にはそれが理解できないようだ。



「ええい! どいつもこいつも使えん奴らだ!

 殿下へのご恩を忘れたのか!」


 その言葉をキッカケに何人かの兵士達が必死の形相で詰めかけ始めた。どう見ても恩返しって感じの顔じゃない。何かに追い詰められているようだ。まるで、脅されてでも居るかのようだ。まさか家族でも人質に取られているのだろうか。


 まあ、腐っても王子の命令だからな。

従わなければ本当に家族諸共先が無いのだろう。


 だが、ここを通してやるわけにはいかんのだ。

気の毒には思うがな。



「いったい何をしているのだぁ!?」


 流石に王子の側近も異常事態に気付いたらしい。

怯えのような、焦りのような表情を浮かべている。



「おい! お前! 頭を使え!

 窓を割って裏から回り込むのだ! 行け!」


 玄関脇の窓ガラスを指して一部の兵士達に命じる側近。

案外と頭は働くようだ。ちょっと驚いたぞ。


 あかん。感心してないで対処しなきゃ。

流石にスノウではまだ広範囲はカバーしきれない。



「借りるぞ。スノウ」


「うん!」


 スノウの身体を介して今度は私が魔力壁を展開していく。屋敷の前面全てを覆うように壁を展開し、そこから兵士達を囲い込んで挟むように範囲を狭めていく。



「うわっ!? 何だ!?」


「壁が! こっちもか!?」


 線から半円、半円からVの字の形に壁を変形させていき、そのまま敷地の境界まで壁を伸ばして魔力壁の道を形作った。



「どうぞ。お引き取りを」


 全て魔力視で見ていたメアリが敷地の外を指し示す。



「くっ! このような真似をしてタダで済むと思うなよ!」


 コテッコテな負け惜しみゼリフと、魔女だの何だのという罵倒を吐きながら、王子一行は退散していった。


 結局あの王子、一言も喋らなかったな。

全部側近に任せていたようだ。なんなら、最後まで何が起こっていたのかも理解していなかったのかもしれない。最後も側近に促されて「え? 帰るの?」みたいな感じで付いて行っただけだったのだ。ほんと、何なのあいつら……。



「エリク様」


 いつの間にかメアリがスノウの側に近付いていた。



「今後余計な手出しは不要です。

 あなたが派手に動かれては困るのです」


 メアリは他の者達に聞こえないよう、スノウの耳元で囁いた。



「そうか。すまん。ついな。

 次は気を付けよう」


「感謝します。エリク様」


「うむ。皆が無事で何よりだ」




 さて。本当に無事で済むのだろうか。

仮にも相手は王子殿下だ。本気で争ったら分が悪いのは間違いない。公爵閣下おちちうえの庇護下にあるとはいえ、元より王子の方が位は上だ。それに加え、公爵本人がここに居るわけではない。果たしてどこまで通用するものなのだろうか。



「終わったの?」


 私の様子から察してディアナが問いかけてきた。



「うむ。お引き取り頂いた」


「そう……皆は?」


「無事だ。全員な」


「良かった」


「大丈夫だ。お前の事は私達が守り抜く。

 だからそう、不安そうな顔をするでない」


「……空気読んで」


「ならばシャキッとしろ。

 言葉と表情が合っとらんから言われとるんだろうが」


「……エリクは厳しすぎよ」


「今現在この屋敷内で最も高い権力を持つのはお前なのだ。

 そして不安を抱いたのはディアナだけでは無いはずだ。

 ディアナにはその事実を正しく認識する必要があるのだ。

 厳しい事を言っているのはわかっている。だが揺らぐな。

 せめて周囲にはそう見せろ。それがディアナの責任だ。

 お父上の下を離れるというのはそういう事なのだ」


「……うん」


「まあ、パティが居る時はパティに任せてしまえ。

 パティならばその手の事にも慣れているだろうしな」


「……ううん。私頑張るわ」


「そうか。私もその決断を尊重しよう。

 何れ成長した姿を見せれば、お父上もきっと喜ぶぞ」


「うん!」


 少しは元気が出たようだ。


 前はもっと強い子だと思っていたのだが。

病から脱した影響だろうか。今は年相応なメンタルに近付いているようだ。


 まあ、これは良い事でもあるのだろう。

あまり気にせず、私もディアナを安心させられるように精進するとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ