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02-10.我慢と意地悪

「退屈だわ」


 問答無用でベットに放り込まれたディアナは数分もしない内にぶーたれ始めた。



「せめて部屋の中くらい見て回っても良いでしょ?」


「ダメだ。今日一日ベットから出るのは認めん」


「無茶言わないで! お手洗いはどうするの!?」


「私が世話してやろう。なあに気にするな。

 お互い慣れたものだろう」


「ちょっと!!」


 あかん流石にふざけすぎた。

マジギレさせてしまった。



「すまん。冗談だ。

 それくらいの移動なら許してやるとも。

 私の監視付きでな」


「エリクって……そういう……」


 今度はドン引かれてしまった。



「おい。妙な勘違いをするな。

 単に魔力で位置を追跡するだけだ。

 個室にまでついていくわけがなかろう。今更」


 もう十分に体力はついたのだ。

少し目を離しただけで倒れるような事もあるまい。



「なら部屋の中くらい良いじゃない」


「ダメだ。

 パティ達が戻ってからにしろ。

 ここはあの子達の部屋でもあるのだ。

 勝手に物色してはマズいだろう」


「……わかったわよ」


「良い子だ。

 ご褒美に私が話し相手になってやる」


「ならエリクも布団に入って。抱き枕になって。

 耳元で囁くように話しかけて」


「ダメだ。

 それは寝る前だけだ。そういう約束であろう」


 添い寝を解禁してからすっかりハマってしまったようだ。

近頃のディアナは欲望に流され過ぎだな。闘病生活が長かったから仕方ないとも思っていたが、何時までもそうは言っていられない。少しずつでも厳しくしていかねばな。



「ぶ~」


「やめなさい」


「いじわる」


「全てはディアナの為だ」


「なら入ってきてよ。別に良いじゃない。それくらい」


「我慢を覚えるのも大切だ。

 私は先程一線は越えぬから安心しろと告げたばかりだ。

 誤解されかねん行為も例外ではない。理解しておくれ」


「むぅ……」


「パティとユーシャはまだ暫くかかりそうだ」


「見たの?」


「いいや。違うとも。

 折角の再会だ。少しだけ勿体ぶろうと思ってな」


「それでエリクも我慢してるの?」


「うむ。その方が感動も増すだろう?」


「大した違いは無いんじゃない?」


「そうでもないさ。

 こういうのは気の持ちようだ」


「よくわからないわ」


「我慢するのも時には楽しいものだという話だ」


「私だっていっぱい我慢してきたじゃない」


「わかっておる。誰よりも側で見てきたのだ。

 だからこそ、あと少しだけ待っていておくれ。

 どうせ喜ぶなら皆で喜んだ方が楽しいだろう?」


「うん……」


「よし。良い子だ。

 何か果物でも食べるか?」


「うん。食べる」


「うむ。ならば何か貰って」


 コンコンとノックの音が響いた。



「良いぞ。入れ」


「失礼致します」


 現れたのは先程の執事服さんだ。

名前はなんと言ったか。そう、ビクトリアだ。



「軽食をお持ちしました」


「丁度良い所に。ナイスタイミングだ。

 ありがとう。トリア」


「……」


「トリア?

 ああ、もしや気安くしすぎたか?

 すまんな。つい調子に乗ってしまった」


「いえ! 滅相もございません!

 どうぞそのままトリアとお呼びください!」


「そうか?

 良かった。そう言ってくれて嬉しいぞ」


 ビクトリアって普段呼ぶにはちょっと長いからね。

ところでなんでトリアが運んできたの?

そこはメアリじゃないの?


 今は手が離せないのだろうか。スノウに屋敷を案内しているのかもしれん。ずっと歩き回っているようだしな。こっちは別に覗いても良いんだけど、そこまでする程でもないか。まあいいや。放っておこう。


 赴任直後だからな。色々とやる事が多いのだろう。



「失礼致します」


 適度にカットされた果物の皿を置くと、トリアはすぐに退室してしまった。折角なら少し話を聞いておきたかったのだが。かと言って呼び止めるのもあれだし。ディアナが嫉妬するだろうからね。



「ほれ。口を開けろ。あ~ん」


「あ~ん♪」


「どうだ? 美味いか?」


「うん。美味しい♪

 エリクも食べてみて」


「私はいいからディアナがお食べ」


 私のこの身体は、そう多くの食べ物を必要とはしておらんのだ。殆ど魔力で賄われているのもあるが、そもそも別に生きているわけじゃないからな。多少機能を真似ているだけで。



「もう。そうじゃないでしょ」


 私の手からフォークをぶんどったディアナは、果物を一つ刺すと私の口元に運んできた。



「はい、あ~ん♪」


「私はいらんと言っておるだろうに」


「空気読んで。

 でないとまたエリクがナンパしてたって騒ぐわよ」


「ナンパ? 何の話だ?」


「今日始めて会った相手に愛称付けて馴れ馴れしく話しかけてたじゃない」


「あれはこの家の侍女であろうが。

 私はおかしな振る舞いなどしてはおらんだろう」


「だから飲み込んであげたじゃない。

 けど、パティならそうは思わないわ」


 つまり告げ口してやるぞと脅しているわけか。



「まったく。仕方のないやつだ。

 ほれ、寄越せ」


「違うでしょ。あ~ん」


「あ、あ~ん」


「ふふ♪」


 ふっふん! 今更この程度なんてこと無いもんね!



「うむ。美味いな。

 よし、次だ」


 もう一つのフォークに手を伸ばすと、ディアナが自分の持っていたフォークを押し付けてきた。



「無駄に汚す必要はないわ。

 これ一本で十分よ」


「やりたい事はわかるがな。

 しかし、この身体の唾液は魔物由来のものだぞ?」


 間接キスなんてしたらマズくない? 今更だけど。

いやまあ、そこら辺はパティが拘ってるだろうから問題ないだろうけれども。どうせ最初から接吻もするつもりだったんだし。



「もう! そういう事言わないでよ!!

 エリクのバカ! 空気読みなさいってば!」


「ああ、うむ。流石に今のは私が悪かったな。すまん」


「もう! もう! もう!

 どうしてそんなに意地悪ばかりなの!?」


「それはあれだ。

 好きな娘には意地悪したくなるってやつだな」


「なによそれ!

 普通に優しくしてよ!!」


 知らないか。そっか。



「ほれ。フォークを貸せ。

 これで仲直りしようじゃないか。あ~ん」


「あ~ん」


 チョロい。



「本当に可愛いなぁ。おまえは」


「っ!?」


 やっぱチョロい。

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