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02-09.引っ越し

「ついに来たわね」


「来たな。

 まさかこんなに待ち遠しい気持ちになるとは思わなんだ」


 むしろ少し前まで一生近付かないつもりだったし。

王都には私のユーシャを狙う者共がおるのだ。


 そしてそれは私自身も例外ではない。

今の私は高い魔力を持つ美少女だ。端から見た限りでは。



「主!!」


 先行して到着していたミカゲとメアリが出迎えてくれた。

パティとユーシャは学園に行っておるのだろう。

今は平日の昼間だしな。こればかりは仕方がない。



 ところでこれ、どこが家なの? 屋敷の間違いじゃない? パティ、こんなの借りてたの? どうやって一人暮らしするつもりだったの?


 王都の、それも王族すら通うような学園のすぐ隣にこんな大きな屋敷を用意するとは。流石にこれ、パティだけの力じゃ無さそうだ。屋敷を用意したのはお父上なのだろう。もしかしたら、元々あの家、デネリス公爵家の持ち物なのかもしれんな。


 そもそも私が言葉の意味を取り違えていたのやもしれん。あやつは部屋を借りたと言っていたが、それは賃貸的な意味ではなかったのだろう。文字通り、お父上が所有する屋敷の一部屋を借りることにしたという意味だったのだろう。紛らわしい言い方をしおって。どうしてあやつは度々水臭い物言いをするのか……ああ、いや。あの時はまだディアナに秘密を打ち明ける前だったか。ややこしい。



 ディアナと言えば、普段の様子からはそうとは見えんが、ディアナはこれでも公爵令嬢だったのだ。最初に知った時は驚いたものだ。お父上が高い地位に着いている事はわかっていたが、想像より一段か二段は上の立場だった。まあ、王都と国境に近い重要な土地を任せられていて、母の繋がりがあるとは言え、姫を養子に迎えているのだ。妥当といえば妥当なのだが。




「スノウ、ミカゲの側に居てやれ。

 こちらは大丈夫だ」


「うん」


 少しだけ久しぶりの再会にスノウも嬉しそうだ。

ミカゲとスノウは何時でも一緒だったからな。

ほんの数日とは言え、離れ離れは堪えたのだろう。



「お嬢様。無事にご到着されて何よりです」


「大袈裟よ。こんなにいっぱい付いてきてくれたんだから」


 ディアナの送迎はパティの時以上に大所帯のものだった。

もはや、王都に攻め込むのではないかと思ったほどだ。

この場にいる者達だけでなく、王都に入らず門の前までで足を止めた者達までおるのだ。流石にその辺りは弁えていたようだ。本当に謀反の疑いをかけられても堪らんからな。


 と言うか、良いのだろうか。

姫の時より大袈裟で。大丈夫? 王様に怒られない?




「それで、早速だけど」


「ダメだ。今日は家で安静にしておれ。

 いや、今日だけではないぞ。向こう一週間は外出を禁ずる。禁を破れば、新学期まで続くものと思え」


「エリクの意地悪!!」


「流石に厳しすぎるのでは?

 今日は当然としても、一週間は長すぎるのではないでしょうか」


「メアリまで何を言う。

 確かに体力は十分付いたが、それ以前に常識が足りん。

 色々教え込んでからでなければ、危なっかしくて連れ歩けんだろ」


 こやつ、相変わらずディアナには甘いな。

まあ、自分が見守っていれば問題ないと考えているのだろうが。

自らの腕に自信がありすぎるのだろうか。

それにしたって迂闊な発言だ。珍しい。


 いやまあ、気持ちはよく分かるんだがな。

この数ヶ月、ディアナがどれだけ頑張ってきたのか私達は一緒に見てきたのだし。

メアリからしたらそれ以前も含むのだ。尚の事だろう。



「仰る事はご尤もです。

 ですが我慢しきれず一人で抜け出されては本末転倒です」


「問題ない。私も常に見張っておる。

 ディアナも今や王族に狙われかねんのだ。

 用心するに越したことはない」


 私が魔力を流し続けていた影響か、はたまた身体が丈夫になった事で眠っていた才能が目覚めたのか、ディアナも今では立派な魔力持ちだ。流石にパティ程ではないが、それでも十分すぎる程に魅力的な存在だ。



 というか、この家やばくね?

私、パティ、ユーシャ、ディアナ、スノウと、五人もの並外れた魔力持ちが集まっているのだ。しかも全員が美少女ときたもんだ。王族達がこぞって付け狙ってくるだろう。


 そして学園生の立場が守られるものとは言え、そもそも該当しない者が多いのだ。今現在学生なのはパティだけだ。それに例え学園が守ってくれたとしても、守りきれるとは限らない。国からそれだけ強い圧力が掛かる可能性もあるのだ。


 やはり用心するに越したことは無いな。

なんなら、来年度まで一切の外出を禁じたいくらいだ。



「エリク様。どうか言葉にはお気を付けくださいませ。

 ここは既に王都です。どこに耳があるともしれません」


 ああ。そうだったな。

王族を悪く言うような発言は控えねばな。



「うむ。

 心しよう」


「こちらも承知致しました。

 エリク様のご懸念も尤もです。

 私もお嬢様の監視に協力致します」


「そんなぁ!!」


「すまぬな。ディアナ。許せ。私達には力が足りん。

 万が一の時、お主を守りきれんかもしれん。だがそれでも、何れ折を見て連れ出してやる。お主のこれまでの努力に報いるためにもな。

 だから少しだけ時間をおくれ。私達で安全の確保が出来ると確信に至ったなら、必ず約束を果たさせてもらう。どうか信じて待っていておくれ」


「うっ……ズルいわ。

 そんな言い方されたら我儘言えないじゃない」


「うむ。結構。

 ほれ、部屋に向かうぞ。

 どの道今日は絶対安静だ」


「もう! さっきの殊勝な態度はなんだったのよ!

 すぐそうやって誤魔化すんだから!

 本当にズルい人だわ!」


「先のも間違いなく本心だ。

 私はお前を喜ばせたい。お前の笑顔が見たい。

 だから町にも連れ出したい。だが今はその時ではない。

 ただそれだけの話だ」


「もう! もう! もう!

 エリクはもう!!」


「ほれ、興奮するでない。

 メアリ、もうよい担いでしまえ」


「はい。エリク様」


「ちょっと!?」


 まったく騒がしいやつだな。

元気いっぱいで何よりだ。




 屋敷の中に入ると、この屋敷で働く従者達が出迎えてくれた。どうやら全員が女性のようだ。一人執事服を着ている者もいるが、どう見ても女性だ。間違いない。もしやすると、お父上が私達に気を遣って人員を調整してくれたのだろうか。少しやり過ぎなくらいだな。女性ばかりの職場というのもそう良いものではないだろうに。余計なトラブルの元とならねば良いが。いや、文句は言うまい。折角の気遣いに。



 簡単に主要な者の紹介を受けながら、我々の部屋に案内してくれた。どうやらあの従者達の大半は我々とは接触しないつもりのようだ。変わらず、私達の身の回りの事はメアリ、スノウ、ミカゲが担当する。単に、この屋敷の維持のために必要だから配置されているだけのようだ。


 まあそりゃそうか。

私達が住むとは言っても自室は一つしか使わないし、他は食事やら風呂やらで使う程度だ。普段使わない部屋の方が圧倒的に多いのだ。だからと言って放置しておくわけにもいくまい。そんな事をすれば屋敷が傷んでしまう。


 世の中、一人で屋敷全てを万全に保てるようなスーパー執事とかは存在せんものだな。例え異世界でもそれは変わらんか。



「本当に皆様ご一緒で宜しいのですか?」


 執事服さんが問いかけてきた。



「うむ。良い。

 お主、我々の関係はどう聞いておる?」


「婚約者であると。そう伺っております」


「大丈夫だ。一線を超えるような真似はせん。

 私がそれはさせん。御当主様おちちうえともそう約束し、許可を頂いておるのだ」


 ディアナの身体の事もあるから私がディアナから離れる事は出来んのだと言うべきだっただろうか。まあ、気にしているのは間違いなくそっちの事だろうし問題無いか。



「失礼致しました。

 出過ぎた真似を致しました」


「よい。気にするな。

 私も含めて我々はまだまだ幼い部分も多い。

 気兼ねせず発言しておくれ。

 場合によってはキツく言い含めてもらって構わん。

 細かい事はメアリと打ち合わせておくといい」


「はっ! 畏まりました!」


 むしろ私が言葉遣いを改めるべきではなかろうか。

妖精族云々はこっちに伝わってないだろうし、客観的に見れば平民の小娘に過ぎないわけで。


 そもそも世間的にはパティがディアナの婚約者になるだけで、私とユーシャはパティの愛人でしかないのだ。身の程を弁えてパティの従者に徹しているユーシャはともかく、偉そうに指図する私はどう見られるのだろうか。絶対碌なやつじゃないな。



 まあ良いか。四六時中猫を被るのも面倒だ。悪いがこれに慣れてもらうとしよう。


 本邸の元メイド長まで従っているのだ。ここの者達も何かあると察するだろう。お父上もきっと大切な客人くらいには伝えてくれているだろうし。


 もし拗れたら妖精族の設定を語って聞かせよう。パティとバッチリ固めたからな。そっちも説得力のある説明が出来るはずだ。うむうむ。心配は要らんな。

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