02-08.料理と好感度
「主」
「なんだ、ミカゲ」
「僭越ながら申し上げます。
先程の態度は如何なものかと」
「態度? どういう意味だ。
構わん。遠慮するな。もっとハッキリ言え」
「食べもせずに立ち去った事です。
主の身体ならば多少の事で腹を壊す事もありますまい」
「……そうだな。ミカゲの言う通りだ。
せめて平らげてやればよかったな。
うむ。良いぞ。そういう忠告は遠慮せず言うが良い。
参考になった。感謝する」
「お役に立てたのなら何よりです」
「ついでで悪いが、処分しないよう見張っていておくれ。
戻ったら私も頂くことにする」
「御意」
ミカゲが側を離れていく。
私はスノウと二人でキッチンに向かう。
「スノウは料理はどうだ? 心得はあるか?
記憶は無いだろうが、メアリから教わっておるのだろ?」
「うん。出来るよ。
メアリさん。いっぱい褒めてくれた」
「そうか。ならば安心だな。私もそれなりにやるのだが、ここで料理をした事がなくてな。道具や調味料について教えて欲しい」
「うん!任せて!」
「頼りにしておるぞ」
よしよし。こっちも問題無さそうだ。
手早く済ませるとしよう。
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「美味しい!」
真っ先にユーシャが声を上げてくれた。
「「美味しい……」」
若干悔しそうな表情が隠せていないパティとディアナ。
今回だけシェフやメアリにも無理を言ってディアナにも同じものを食べて貰っている。当然、使う材料などはディアナ向けのものから外れすぎないようにしているがな。口に合って何よりだ。
「食後の菓子もあるぞ。勿論ディアナの分もな。
私も後でお前達の作ってくれたものを頂こう」
「「……」」
どうやらミカゲが戻った時点で既に二人は炭の塊に手を出した後だったようだ。半ばやけ食いのつもりだったのかもしれない。そしてあまりの不味さに悶絶していたらしい。ミカゲがそう耳打ちしてくれた。
「エリクはいつ料理なんて覚えたの?」
「前世の知識だ。別に専門家ではないからシェフの作るものには劣るがな。今お主らが美味いと言ってくれているのも、私が作ったという付加価値ありきだろう。普段と味付けが違うのもあるか。
だからまあ、そう落ち込むな。パティ。ディアナ。私が悪かった。折角作ってくれたものを食べもせず席を外して。何も当てつけようと思ったわけではないのだ。ただ、」
「いい。ごめんなさい。エリク。
私達の方こそあんなの食べさせようとして」
「ごめんなさい」
「いや、謝ることはない。嬉しくはあったのだ。これは本当だ。何せお前達の気持ちは十分に理解しているのだから。だからこそ次は一緒にやろう。私にも多少の心得はある。そして私もお前達に好かれたいのだ。それは伝わっただろう?」
「「うん……」」
いかんな。
落ち込んでしまった。
別に打ち負かしたかったわけでもないのだが……。
「なあ、そんな顔をしないでおくれ。
私も喜んでほしくて作ったのだ。だから笑っておくれ」
「「うん。えへへ……」」
ダメそう……。
いかんな。少し時間を置くか。
焦らずとも何れ立ち直るであろうし。
「ねえ、エリク」
「なんだ? ユーシャ」
「午後はお料理の勉強教えて」
「いや、しかし……」
ディアナとパティが……。
「私もそれがいい!」
落ち込んでいたディアナが勢いよく賛同した。
「許可するわ。座学でいいから教えてエリク」
パティまで……。
「わかった。この世界の常識とは異なるかもしれんが、私の知識を伝えよう。それで良いのだな?」
「ええ。結構よ」
「ありがとう! エリク!」
良かった。何故か元気になったようだ。
ナイスだ、ユーシャ。ありがとう。ユーシャ。
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「とまあ、こんな所だ。何れは実習もしてやろう。
その辺は王都に移ってからだな。四人暮らし、いや、七人か。多いな。増え過ぎだ。ミカゲはこちらに残るか?」
「そんな!?」
「冗談だ。連れて行くとも。
先程も助けられたばかりだ。私にはお前が必要だ」
「あるじぃ~!」
「また口説いてるわ」
「やっぱり時間の問題じゃないかしら」
「むぅ……エリクの浮気者……」
「なあ、一生このネタ擦り続けるつもりなのか?」
もう勘弁して欲しい。